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立川吉笑「ただ『志の輔師匠、ヤバいじゃん!』って言いたいだけ」

(このインタビューは2015年2月3日に掲載したものです)

いま、最注目の若手落語家・立川吉笑さん。「吉笑ゼミ。」の開催や、斬新なオリジナル落語を作り上げるそのセンスの高さなど、常に「新しいこと」を生み出そうとする吉笑さんですが、その姿勢は伝統を重んじる落語の世界においては異端扱いされることも多いのだとか。そこで、そんな吉笑さんの「変わり者ぶり」やそうした周囲の反応についてどう思っているのかなどを伺いました。

立川吉笑がいま輝いている3つの理由!

前代未聞のスピード昇進!
落語家の下積み時代と呼ばれる「前座」から、噺家として人前にたてる「二つ目」への昇進は通常3~10年ほどかかるが、吉笑さんは入門からわずか1年半で二つ目に昇進。
各界の著名人たちからラブコールが!
浅草キッドの水道橋博士や放送作家の倉本美津留氏、ライターの九龍ジョー氏など、カルチャー界の著名人たちから「気鋭の若手落語家」と称され、注目されています!
落語家とは思えない多彩な活動!
「吉笑ゼミ。」という落語イベントを開催したり、「擬古典」という新ジャンルの落語を開拓したりと、従来の落語家のイメージを覆すような幅広い活動を展開中!

誰もが想像してなかった「異例の昇進」のワケ

—— 吉笑さんは、通常昇進までに3~10年はかかると言われる二つ目に、1年半という異例のスピードで昇進しましたよね。やはりそれは才能を見出されて……ということなんでしょうか?

立川吉笑(以下、吉笑) それ、よく言われるんですけど、実は僕の師匠のおかげなんですよ。師匠である談笑は必要以上に長い前座修業期間がプラスになると思っていないんです。たとえば、25歳で弟子入りして10年間前座として修業をしたとします。昇進して初めて自分のやりたい表現を試せるんですけど、そこで万が一自分には才能がないと気づいたとしても、もうその頃には40歳近くになってしまっている。そこから別の道に行こうとしてもちょっと無理ですよね。

—— しんどいでしょうね。

吉笑 だから、なるべく早い段階で二つ目にして、やりたいことを試して、ダメならダメで諦めてもらうほうが本人のためだろうっていう考え方なんですよ。

—— じゃあ、「なるべく早くやりたいことにチャレンジして、現実と向かい合え」というのが談笑師匠の意向だったわけですね。

吉笑 そうなんです。でも、僕があまりに早く二つ目になってしまったせいか、その後「前座期間は最低3年」というルールができてしまいました(笑)。

—— なんと。「まさか1年半で二つ目になるやつなんていないだろう」と思われていたんでしょうね(笑)。

どうして立川吉笑は「異端児」扱いされるのか?

—— 吉笑さんは「異端児」と言われることも多いとか?

吉笑 そうですねぇ(笑)。基本的に落語界は非常に封建的な世界なので、僕は変わり者扱いされることは多いですね。

—— どんなあたりが変わり者扱いされるんでしょうか?

吉笑 うーん、新しいことをやろうとしたりするあたりでしょうか。でも、先輩たちへの態度についても「生意気だ」言われることは多いです。たとえば、僕が「志の輔師匠がすごい」と言ったとします。これは「失礼」にあたるんですよ。

—— ああ、よくある駄目出しですね。

吉笑 そうそう、先輩をほめるのは上から目線じゃないですか? だからダメなんです。でもね、僕はただ「志の輔師匠、ヤバいじゃん!」ってことを言いたいだけなんですよ。だって、ヤバいんですもん、本当におもしろすぎて……(笑)。

—— 好きすぎて、褒めまくりたいっていう感じですね。

吉笑 そうです。もちろん僕も立川流にいるし、落語が伝統芸能という側面を持っていることはよくわかっているし、その礼節に従うべき部分もあると思っているんです。ただ、その世界にだけ留まっているんじゃなくて、落語の良さをいままでの枠内だけじゃなくて、もっと別のスケールでもアピールしたい。

—— ええ。

吉笑 あまりにやりすぎると談笑師匠に迷惑がかかるので注意してますけど、師匠も僕みたいに新しいことにチャレンジするのが好きなタイプの人なので、自由にやらせてもらっています。

談笑師匠に弟子入りしたのは、誠実な人柄に惹かれたから

—— さきほどから「志の輔師匠がすごい!」と再三言っておられますよね。失礼な質問かもしれないんですが、どうして志の輔師匠に弟子入りしなかったんですか?

吉笑 僕が最初に好きになった落語家は、やっぱり志の輔師匠ですが、まずはさらにその師匠である、談志師匠に弟子入りしたいと思ったんですよ。

—— 談志さんの弟子が、志の輔さんで、そのまた弟弟子(おとうとでし)が談笑さんなんですものね。

吉笑 そうです。でも、当時から談志師匠はあまり体調がよくなかったので、「ここで弟子入りをお願いするのは失礼かな」と思ったんです。そして、志の輔師匠の場合、すでに5、6人お弟子さんがいらしたんですが、修行期間の「前座」の期間がみなさんとても長いんですよね。そしてこの「前座」の期間が終わらないと、立川流では人前で自由に自己表現してはいけないんです。

—— 志の輔師匠のお弟子さんの「前座」の期間はどのくらいだったんですか?

吉笑 人によって違うんですけど、7~10年ですね。

—— え、それは長いですね!

吉笑 そうなんです。そんな状況下で、前例を打破して3年とかで昇進できるだけの飛び抜けた才能は自分には無いなと分かっていました。そうなると当時26歳だったので、順調に二つ目に昇進できても、すでに36歳くらいになってしまう。それはちょっとたいへんだなぁと。

—— それは、「時間がもったいない」という感覚ですか?

吉笑 というより、僕がやりたかったのは、自分が衝撃を受けた「不条理なのにおもしろい部分」の落語で、それは絶対に同年代の若い人に見せたらきっと共感してもらえるものだと思ったんです。

—— 前回の「粗忽長屋」のような不思議でおもしろいようなネタですね。

吉笑 ええ。でも、もしも10年後に歳をとった自分が、若いコ向けにやっても、感覚のズレとかもあるから受けない気がしたんですよね。それは非常にもったいないな、と。だから、できれば30歳ぐらいから、落語家として勝負できるようにしたかったんです。

—— では、談笑師匠に弟子入りしたのはどうしてだったんですか?

吉笑 もともと談笑の落語も、すごく好きだったことは当然として、でも、一番グッと来たのは高座を見に行ったときに師匠がお客さんに言った一言でしたね。
「今日は来てくれてありがとうございます。差し入れとかもいただくことはありますが、そういうお心遣いは本当に結構です。その分もう一度来てくださったり、お友達を連れてきて下さい。あと、私の落語には当然自信はありますけれども、とにかくまずは志の輔師匠の落語を聞くべきです。志の輔師匠は本当に凄いですから」って。

—— ウィットもありつつ、懐が深いというか……。

吉笑 そうなんです。その言葉を聞いたときに、「これはすごい人だなぁ。なんて誠実なんだ」とびっくりして。それが談笑に入門しようと決心できたきっかけでしたね。

本当にすごい落語は、聴いていると鳥肌が立つんです

—— 落語家になられて4年以上経たれるわけですが、実際に思っていたのと印象が違う部分とかってありますか?

吉笑 ひとつはやっぱり伝統芸能なので、すごい人は本当にすごい……ということですね。すごい人の落語は、聴いているだけで鳥肌が立ってくるんですよ。なんというか、その場の空間をガラっと変える力を持っていますよね。
たとえば、はじめて志の輔師匠の高座を聞きにいったときは、出囃子の時点で鳥肌が立ちましたから。あ、いま思い出しただけで、鳥肌が立っちゃいました……(笑)。

—— わ、本当に鳥肌が立ってますね!

吉笑 本当に志の輔師匠のような達人になると、第一声でぐわっとお客さんを引っ張ってくる力がすごいんですよね。まさに「話芸」なんです。たとえば、同じネタでも人によってテイストや話し方が全然違うのが落語の醍醐味です。
僕がやってもウケない話も、別のうまい人がやったら大爆笑で拍手喝采なんてこともザラです。そこはやっぱり、「声の出し方」や「間の取り方」「話すときのリズム」などの細かいテクニックによるものなんですが、その奥の深さには伝統芸能ならではの凄みを感じます。

—— それが江戸時代から長年蓄積されてきた技術が凝縮されているんでしょうね。

吉笑 落語家がほかの職業より優れているな、と思うのは、全盛期が60~70歳と非常に現役の寿命が長いことなんです。30歳なんてまだまだひよっこもいいところ。40歳でもまだまだ若手。50歳ぐらいからようやく一人前とみなされる。
ほかの職業だと基本は発想が重視されるので、若手にどうしても負けてしまうのですが、落語は技術がすごく大切。しかも、みんな自分のテクニックを書き残したりしないから、実際に観て学ぶしかないんです。

—— まさに「ワザを盗む」という感じですね。

吉笑 打ち上げとかでベテランの噺家さんと話をしたりすると、やっぱりみなさん呼吸ひとつするにもすごく考え抜いてやってるんですよね。一見、何気なくやっているようにみえるけど、すごく鍛錬している。本当にびっくりしますよ。
落語は積み重ねた分だけ、味も出て芸に奥行きが出る。これは本当におもしろいですよね。時々、自分が書いた噺をベテランの噺家さんにやってもらったらどうなるんだろう……と考えたりしますよ。

—— それはおもしろそうですね!

吉笑 この前も、MOROHAさんという同年代のミュージシャンの方と、対バン形式のイベントをやったんですよ。そしたら、もう彼らは空間制圧力が凄まじくて、「負けたなー」と思ったんです。
でも、うちの師匠をはじめ、トップランナーの落語家さんがもしも彼らと競い合ったら、絶対に勝てると思うんです。僕自身は全然技術がないけど、「でも落語にはもっともっと上がいるんだからな!」と内心思っています(笑)。

—— 「落語はこんなもんじゃないんだぞ! なめるなよ!」と(笑)。

吉笑 まさにそんな感じです。そういう落語に対する自負みたいなものは、常に持っていますね。

—— 若い人にとっては落語は伝統芸能というか「教養」的なイメージが強くて、手が出しにくい部分もあると思うんですが、もしも初心者の人が落語を楽しむなら、どういう形で挑戦してみるのが一番いいでしょうか?

吉笑 まずは立川志の輔師匠のCDを聴いて頂きたいです。大声では言えませんが、YouTubeにも色々アップされています。
座ってじっと観ているのはなかなか初心者の人にはキツイので、DVDはオススメしません。散歩したり、掃除したり、なにかをしながら、聴いてみるのがいいですよね。志の輔師匠をいろいろ聴いてみて、好きだと思ったら、ぜひ生でも観てみてほしいです。

—— 志の輔さんが本当にお好きなんですね(笑)。

吉笑 いまのところ一番好きです(笑)。あと、志の輔師匠以外にも300人規模の大きな会場で独演会をやっている落語家さんは確実に面白いので、適当に3~4人ほど聴いて頂けたら、絶対に1人は自分の趣味に合う笑いのツボの方がいるはずです。ま、あとは僕の高座をぜひ聴きに来て欲しいですけどね(笑)。

さらなるインタビューが、dmenuの『IMAZINE』でつづいています。
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ぜひこちらからお楽しみください。

立川吉笑(たてかわ・きっしょう)
落語家。1984年生まれ。京都府出身。立川談笑門下一番弟子。高校卒業後、お笑い芸人を目指し、活動。その後、2010年11月立川談笑に入門。2012年4月に異例のスピードで二ツ目に昇進。現在、「吉笑ゼミ。」のイベント開催や、水道橋博士のメルマガ『メルマ旬報』で「立川吉笑の現在落語論」を執筆中。著書に『吉笑年鑑 2012』。「立川吉笑web」絶賛更新中。

構成:藤村はるな 撮影:yOU

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