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病院経営の"最低3要素"に関する論考


1.序論:病院経営とは

病院経営とは何か。
病院経営に限ったことではないですが、
今回は私が思う病院経営の3要素について論考したいと思います。
基本中の基本ですが、あまりにも理解されていないと思うことが多いので、ここに記しておきたいのです。

一般に、経営分析と言えば、経営改善にフォーカスされるが、
本来はそうではない。
残念ながら目的なき経営改善が横行していると思います。
何のために経営改善をしているのか。
これに明確に応えられる経営管理部門、経営企画部門は
どれくらいあるでしょうか。

私が思うに経営改善とは、病院の目的達成のための
一つのプロセスであり目的ではないと思うのです。
しかし、経営改善が目的になっている組織が多い。

本来は違うと思うのです。
まずもって、その病院のミッションとビジョンは何なのか。
社会的使命として何のために存在し、
何を社会に残したいのか、何を解決したいのか、というビジョン。
これなくしては、経営改善等、虚しい活動に過ぎない。
ドラッカーの著書でも散々提起されていることです。

無論、経営改善そのものを全否定するわけではありません。
目の前の改善を図る際には、ミッション、ビジョンが常に頭の中に
あるかというと必ずしもそうではないです。
しかし、だからこそ、ミッション、ビジョンが大事なのだと思うのです。
これを失った経営改善はその壁にひれ伏すことになる。
"何のためにやらないといけないの?今のままでいいじゃん"
という人が出てきた際に命を失うのです。
それに明確に応えられる経営企画担当はどれくらいらっしゃるでしょうか。

2.経営の定説に対する反論

よく言われる病院経営の定説について、反論したいと思います。誰にというわけではありませんが、なんとなくこういう意識の事務管理部門が多いと感じています。

①病院経営とは経営改善、財務体質改善である。
→こう書くと違うだろう、と思いますが中々これは真相心理ではそう思ってしまっていることが多いです。本来は、目指す姿を明らかにし、道を定めること。であってほしいと思うのです。
 財務体質改善は目標に過ぎない。
 ダイエットが目的でないと同じである。
 病院経営の本丸はビジョンと戦略、そして実行である。

②利益が最大のアウトカムである。
→利益は一条件。市場創造と市場マッチングが利益構造を作る。

③BSCや人事考課を入れれば成果がでる。
→経営戦略にマッチしていなければ、幻想に終わる。

3.病院経営の3要素のサイクル

さて、本論考では、病院経営の持続可能性と高めるための
最低3要件について論じてみたいと思います。

私が提唱する病院経営最低3要素とは、
①経営戦略、②マーケティング、③経営人事
この3つのことです。
このように書くと当たり前の話になってしまいますが、
この当たり前のことが多くの医療機関で認識されていないと強く思います。

200210_経営最低3要素

企業の起源、そして目指す姿を実現するための経営戦略として
やること、やらないことをはっきりさせる("戦略")。
その上で、実際のプロダクト、病院で言えば、
診療科、手技、治療方法、各種サービス、病棟機能等である。
それを顧客に届ける"マーケティング"が必要です。
もちろん、マーケティングの前にイノベーションが起こされることもあると思います。

ー要は、経営戦略を突き詰めると徹底したマーケティングが必要となる。ー

マーケティングは、いかにして顧客に魅力を伝えるか、ということも大事だが内部資源を発掘、場合によっては創造し、伝えられるようなUSP(ユニークセリングプロポジション)を開発しなければならないです。
そうすると、クリエイティビティ、変革の気概がスタッフに求められてきます。

ー要は、マーケティングを突き詰めると、経営人事が必要となる。ー

マーケティングの結果として、例えば患者増や新たな取組を評価するような
人事制度が連動している必要があります。
ドラッカーの著書でも繰り返し力説されていることでもあります。
経営にとっては、オーソドックスな基本中の基本なのです。

この3つの要素、わかっちゃるけど、全て3輪で回っている病院は数少ない。
この3領域それぞれにエース級の事務員が配置されることが望ましいのですが、3領域全てにエース級の職員を配置することは至難の技です。
現実には、先進病院ですら、この3つのうちどれかにエース級が送り込まれているのが現状だと思います。
例えば、地域連携やマーケティング、広報は強いが、経営企画部門がない、
しっかりした人事制度はできているが、経営企画部門がない。
経営企画部部門で様々な経営分析はできているが、営業は単なる訪問になっている。等だ。全てをうまく回せている病院は、誰でも聞く有名病院くらいだと思います。

そのような現実を踏まえて、リアルなソリューションを提供するならば、
エース級の職員を2年単位で、各部署に異動させるという方策を考えました。苦肉の策ではありますが。
最初の1年で経営戦略を立案、2年目で全体を推進、3年目でマーケティング部門(地域連携室)に異動し、マーケティング体制をつくる、
その上で、5年目から人事に異動させ、経営戦略と人事制度を融合させる。

一方、そんなの待ってられない。今からこの3要素を早期に回していく場合には、経営企画部門にエースを送り込み、また、そもそもない場合は創設し、その上で、マーケティングと経営人事は外部リソースを活用することも考えなければならない。

4.病院経営の3要素の具体論

①経営戦略
まず、経営改善する前に、経営戦略がないと何も始まりません。

ー病院経営とは、経営改善のことである。ー
ー経営企画の仕事は経営を改善することである。ー
こう書くと、"いやそうではないだろう"と思うかもしれないですが、
書くからそう見えるだけで、ほとんどの人が
何も考えていないので、深層心理の中では上記のような勘違いをしてしまっていると思われます。個人的な主観で申し訳ありません。反論があれば大いに受け止めます。

実は、既に理念や運営方針の中にミッション、ビジョンが詰まっているのですが、それにちゃんと向き合えているでしょうか。
また、本気で考えられていない通り一遍等な理念がたくさん存在しているのは言わずもがなでしょう。
なので、今一度病院の使命とビジョンを熟考・再考しなければならない。
そもそも自組織は何のための存在しているのか。
何を目指しているのか。社会にどんな一石を投じたいのか。
自分が起業しようと思ってほしい。これがないと、何も始まらないことに気がつくと思います。

ミッション、ビジョンはもはや0地点です。
これがないと、全てが始まらないのです。

その上で、経営戦略が必要です。
経営戦略も立案フレームワークは様々ですが、ざっくり言ってしまえば、ビジョン達成のためにやるべきこと。
やるべきことの大方針です。
もちろん、やらないと決めることが戦略です。
戦略はビジョン実現への道標なのです。

経営戦略書としては、病院全体のBSCが作成されていれば、シンプルで良いと思います。または、病院全体の中長期計画書でも良いと思います。ただ、お役所仕事のただ、やるべきことを羅列しただけの経営計画書は全く役に立たないので注意が必要です。

②マーケティング
どんなに良い、戦略、やるべきことを明らかにしたとしても
それが対外的に、顧客に届かなければ意味がないのです。
例えば、新しい病棟機能に転換するとした場合、
転換したことを顧客に届けなかれば戦略そのものが存在していないとの同じことです。
そのため、マーケティングが必要であり、
診療科ライン、又、病床機能、手技・治療技術等
所謂、プロダクト・サービスのプロモーションなくしては
何も地域社会に認知されないのです。
そのために、R・STP・MM・Cのフレームワークにて、
事業別・プロダクト/サービス別のマーケティング活動が必要となります。
どんなニーズがあり、何を誰に、どのように訴求し、その結果どうなるのか。

200210_マーケティング・プロセス

ということを意識して、マーケティングを展開しなければならないと思うのです。マーケティングの深堀りは、別に論考してみたいと思います。

③経営人事
なぜ、人事ではなくて経営人事なのか。
それは、"経営人事ノート"に着想を得ています。
経営に直結した人事でなければならないということだと思います。
これが本当に難しい。
多くの組織では、本来一体であるはずの経営戦略と人事が融合していないのが実情です。多くの人事制度の問題点は、個人を評価するものから起点になっており、チーム、組織単位での目標が示されていないことが多いです。

現実には、職能要件とマネジメント要件、目標管理、報酬制度が個人頼みで、バラバラに動いています。
現実には、職能要件とマネジメント要件は、ある程度普遍的なものが
要求されるのはやむなしだが、適宜見直しが必要です。

問題はこの"目標管理"である。個人の目標が組織の目標と連動していないのです。
なので、英語を頑張るとか言ってみたり、カラーコーディネーナーを取得するとか言ってみたりするのである。そして、それを上司もどうこういう術がないのです。
目標管理に関してはドラッカーやキャプランとノートンが述べているが、
経営戦略と連動した形が望ましいと考えます。
これができている組織がほとんどない。
"キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード"にもありますが、
BSCの成果をマネジャーの評価として連動される仕組みが解説されています。
部門組織の個人もこのBSCにいかに貢献したかを評価する仕組みが必要です。では、各部門長が出してくるBSCのKPI(重要業績指標)の難易度はそもそもどう取り扱うのか。レベルの低い目標を掲げてくるマネジャーをどうするのか。という疑問が残ります。
それにも一つの解がわずかに示されています。
KPIが業界標準に対してどうなのか、全体戦略への貢献度がいかようか、
予め難易度や貢献度といった形で経営幹部が重み付けをしておくのです。
これにより、そもそもの評価のポテンシャルを調整することができます。
そのため、ゆるい目標を達成したとしても、評価もそれなりとなるのです。

人事には経営戦略に精通した人材が本来求められる。人材開発とか採用だけを起点に頑張っている人事は、まだまだ本物の人事とは言えない。人事こそ一番経営戦略に精通しておかなければならないと、私はそう思っています。

経営人事ノートによると、労働分配率を把握していない人事は仕事を放棄していると言っても過言ではないです。

経営人事たるには、報酬制度を確立しなければならないが、
一般的には目標管理と報酬制度を連動せる場合が多いです。
報酬財源をいかにして生み出すかの制度設計が肝要である。
見込み利益の一部財源として、アルゴリズムを持っておく必要があります。
経営人事についての深堀りは、また別に論考したいと思います。

この病院経営最低3要素は基本中の基本なのですが、これを徹底するのは
至難の業です。一つの病院にエースは何人もいないのです。

言われたことをやれば良いというこれまでの人材教育をほっておいたつけが回ってきています。今更やれと言われても長年飼いならされた人材を今更再教育することはできない。
そのため、一つは、ネクスト・ジェネレーションを大いに活用するというのが肝要でです。
または、ビジネス界隈から登用するというのが先進病院の算段です。
実際にそのようにして優秀なオフェンシブ人材を獲得している病院があります。もちろん旧来のディフェンシブ人材が必要であることは言うまでもないです。この両者のバランスは極めて重要です。しかし、激動の、戦国時代となりつつある今、どちらが重要かと言えば、オフェンシブ人材が必要なのは言うまでもないと思います。

それぞれ、3要素の深堀りは、また別稿にて論じたいと思います。

最後までお付き合い誠にありがとうございました。