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60年のルネサンス生命が500年残し続ける中世都市

1528年ベネツィアにて、バルダッサーレ・カスティリオーネ作「宮廷人」という一冊の本が出版されます。ルネサンス宮廷生活が記されている本で、ヨーロッパ各地でその後の数世紀に渡り宮廷人達が備えなくてはならない要素を、人文学や芸術の観点から記された大好評の教養本です。

興味深い点は、理想の宮廷文化を成立するためのこの本の背景となったのが、ルネサンス時代を代表するメディチ家のフィレンツェや、スフォルツァのミラノではなく、小さな公国ウルビーノだったという事です。
モデルとなったのは、1482~1508年に統治していたグイドバルド・ダ・モンテフェルトロです。

イタリアの中部に位置するルネサンスの都市、ウルビーノ
東にアドリア海、西にフィレンツェのあるトスカーナ州と接している東部のマルケ州にある都市。

マルケ州の標高485mの丘の上にある都市ウルビーノは、15世紀に文化の全盛期を迎えました。当時イタリアはもちろんの事、ヨーロッパ各地より来た芸術家や学者達はウルビーノで、華麗な文化を花開き、その業績はヨーロッパ各地の文化発展に影響を及ぼすことになります。

ウルビーノは16世紀に入ってから、経済的にも文化的にも徐々に衰退し始めて1世紀弱に渡る短い期間の全盛期に幕を閉じるとともに、歴史の表舞台から去ることになります。

イタリアの地図

エトルリア人、ガリア人の支配を受けた後、BC3世紀ごろローマに征服され9世紀には教皇領になる歴史を持つウルビーノ。

ところが、12世紀ごろからモンテフェルトロ家が統治するようになり、特に1444~1482年 フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロ
1482~1508年 息子のグイドバルド・ダ・モンテフェルトロ
の統治時代に文化や芸術が大きく発展します。

ウルビーノが歴史上最も繁栄したのは、「宮廷人」のモデルとなった、息子のグイドバルド・ダ・モンテフェルトロの統治時代と、その父、フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロの統治時代の約60年という短い期間です。

この約60年の中でも実は、「宮廷人」のモデルとなった、息子よりも父のフェデリーコ・ダ・モンテフェルトロの方が優れた君主でした。何せ当時、特に有名都市でもないウルビーノの経済、外交、政治の礎を築き、文化の開花を成し遂げた人物であるからです。

フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロという人物は、幼少期より波瀾万丈の人生を送ります。ロンバルディア戦争に敗れるとベネツィアとマントヴァで捕虜生活を送ることになります。しかし11歳のころから送った捕虜生活の中で、不幸中の幸いな出来事がありました。

マントヴァで過ごした時期に、ギリシャやローマの古典文学や哲学を学び、その後の人格形成に大きな影響を受け、その後の傭兵生活、統治時代に役立っていくのです。

300人の騎士を従い百戦不殆の傭兵時代、その強さの源は、部下である騎士への献身とそれによる騎士の忠誠によるものでした。一度たりとも無料で闘ったことが無いと言われるフェデリーコ・ダ・モンテフェルトロは、傭兵で稼いだお金で、ウルビーノを繁栄させ、同時に、戦死した騎士の子供達には持参金で養ってあげたそうです。

その人格により、安定した政治、経済の礎を築くことができ、芸術にも関心が強かったこともあり、イタリアやヨーロッパ各地から芸術家がウルビーノに集まるようになりました。

ウルビーノ歴史地区

ウルビーノを代表する建造物であるドゥカーレ宮殿や、現在も残る城壁と市街地などはこの時期に造られていきます。

ドゥカーレ宮殿は現在、国立マルケ美術館として運営されており、ウルビーノが生んだルネサンスの巨匠ラファエロの代表作をはじめ、ルネサンス絵画が多く所蔵されています。外観の美しさや保存状態の良さは500年以上前に建てられたとは思えないほどで、寄木細工で作られた部屋や宮殿内部の装飾も圧巻です。

その他にも、
サンフランチェスコ教会
サンドメニコ教会
サンジョバンニ・バティスタ・ウルビーノ礼拝堂
サンツィオ劇場
ウルビーノ大学
等々の建築物と、城壁、市街がまるで時が止まったかのように、中世の面影をそのまま残しております。

グイドバルド・ダ・モンテフェルトロが1508年に亡くなると、その後ウルビーノは教皇領のデッラ・ローヴェレ家の所領となり、その時から衰退の一途をたどることに。

ウルビーノは短期間に卓越した文化を花開かせた都市です。ルネサンス時代の傑出した芸術家や学者が集まり、不規則な道路や建物の配置を、拡張しながら均質性に富んだ都市へと築き上げたことが認められ

ウルビーノ歴史地区

として、1998年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。

幸か不幸か、歴史の表舞台から消えたことが、500年もの間、変わらずルネサンス時代の面影を今に残してくれてます。
時代の波に乗り変化して行くことと、トレンドになれないが変わることの無い景観が残ること、ウルビーノは正解の無い問いかけをしているのかも知れませんね。

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