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論文紹介:RNAワクチンによる抗I型IFN自己抗体の産生

1年ほど前に、新型コロナウイルスに感染し、重症化した症例においてはI型IFNに対する自己抗体保有率が高くなっているという論文を紹介した。

I型IFNは抗ウイルス作用を持つ重要なサイトカインであり、それに対する自己抗体はその働きを中和し、抗ウイルス作用を減弱させてしまうということからその機序や因果関係について注目されているのだが、今回はRNAワクチンによっても一定の割合でI型IFNに対する自己抗体が生まれてしまうという論文である。上記の記事の中でも症例報告としてはRNAワクチン投与によるI型IFN抗体の上昇が紹介してあるのだが、今回は一定の人数を集めて頻度を比較した研究になっている。

紹介する論文は下記のものである。
「COVID-19 mRNA vaccine, but not a viral vector-based vaccine, promotes neutralizing anti-type I interferon autoantibody production in a small group of healthy individuals」
(J Med Virol.2023 Oct;95(10):e29137.)

まずこの論文ではRNAワクチンを接種した健常人の25%にI型IFNに対する自己抗体が検出されたと報告している。興味深い点としては、ウイルスベクターワクチンにおいてはこの様な例は認められなかったということだ。つまり、RNAワクチンによる強いI型IFN応答が引き金となって、大量に産生されたI型IFNに対する自己抗体が生まれている可能性が高い。上記の新型コロナウイルス感染重症化時における抗I型IFNに対する自己抗体産生も同じ機序であろう。つまり、感染が重症化し、大量のI型IFNが産生された結果として、それに対する自己抗体が生み出されるのだろう。

もちろんその背景には(ウイルス感染にしろRNAワクチンにしろ)間接的に免疫系に与える影響が存在して、結果としての自己抗体産生を促進していることが考えられる。例えば制御性T細胞が減弱する、CD8が活性化し組織破壊やアポトーシスによる細胞死が促進される、などの自己免疫反応活性化に関する現象が間接的に起こっていても不思議はない。いずれにしても、強い免疫応答とI型IFN産生の結果として、それに対する自己抗体が産生されるという現象が新型コロナウイルス感染やRNAワクチンの接種に共通して認められるということだ。

そして大きな問題となるのはこの抗I型IFN抗体は感染防御においてマイナスに働くということである。核酸ワクチンによって免疫が低下するという説は色んな所から色んな理論で語られる事があるのだが、基本的には本質とは異なる議論をしている場合が多い(核酸ワクチンによるTreg誘導の論文など)。しかし、この抗I型IFN抗体に関しては、実際に起こっている割合、その機序の一般性、及び現実に認められている重症化との関連を踏まえた時に、現時点で最も憂慮すべき免疫応答低下リスクとして考察されるべきである。私個人としてはこの様な現象も含めても、自己免疫疾患リスクを基本的に考慮すべきという立場になるのだが、同時に他の病原体も含めた感染症リスク一般における考察を慎重に行う必要性も感じている。

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