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健康食品へのステロイド混入

最近話題のトピックとして健康茶へのステロイド混入事件がある。

ステロイドというと生体内ホルモンやドーピング薬物、医薬品など色々なイメージがなされると思うが、本来はステロイド骨格と呼ばれる化学構造を有する物質一般を指す。その中には副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイドなど)や性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲンなど)などの生理活性物質が含まれる。それに関連して、糖質コルチコイドを基にした免疫抑制剤としてのステロイド剤、アンドロゲンを基にした筋肉増強剤としてのアナボリックステロイドなどもステロイド骨格を持つ化合物の仲間である。

今回、混入していたとされるのはデキサメタゾンというステロイド系の免疫抑制剤である。これは内服薬としては類似の糖質コルチコイド系ステロイド剤であるプレドニゾロンに比べて10倍程度の強度を持つ強い免疫抑制剤である。ステロイド系免疫抑制剤全般の副作用として特に問題なのは副腎皮質の機能不全である。これは内在性のホルモンを基に作られているが故に、薬の投与によって体内のホルモン量が十分にあると錯覚し、副腎皮質から本来作られるホルモンが作られなくなる現象である。そのため、投薬を中止する時に離脱症状として副腎皮質ホルモンの不足に伴う症状が現れる場合がある。基本的に軽度の症状であればステロイド剤は長期に服用するものではなく、今回の様に健康食品に混入していたというのはかなり危険なのだ。

以前、花粉症に対して強い免疫抑制剤を使わないのはリスクの方が高いからだという記事を書いた。

花粉症程度でステロイド剤を内服しては副作用の問題の方が大きいというのが一般的な考えだろう(後述するが外用は別)。逆に言えば、今回の様に強い免疫抑制剤を使えば花粉症がよく抑えられるというのは事実であろう。実際にステロイド注射は重度の花粉症への治療として一応認められている。しかし、その副作用の強さや危険性はやはり周知されているところであり、一般的な治療として広く実施されている訳ではない。強い免疫抑制剤を使えば花粉症が抑えられるというのは、それが免疫反応に伴うアレルギー症状である以上当然なのだが、本来免疫応答というのは生体防御に必須の機能でもあるわけで、それを強く抑える事はそれなりのリスクを伴う。症状の重さ、薬の副作用、免疫抑制の悪影響、それらのバランスを考慮して治療が組み立てられるという事だ。

他方でステロイド剤の外用薬は特に皮膚科領域で幅広く使われている。これは局所で作用し、血中移行性を低くしたステロイド化合物を用いる事で先の全身性の作用・副作用を低減させる事で、症状や炎症を抑えたい場所でのみ効果を発揮する様な工夫である。花粉症においても鼻粘膜のみで作用する点鼻薬が存在する。症状が酷い人はこれは試してみてもいいかもしれない。

最後に冒頭の記事の話題に戻るが、健康食品への医薬品成分の混入は過去にも多く例がある。厚労省のHPでも確認できる様だ。

そして、それらの多くは恐らく「故意に」混入させたものであると予想する。自然食品でそれらの化合物が高頻度に検出される製造法など想像が付かない。効果を高く見せるための策略なのであろう。これらの民間療法・健康食品は多数あり、効果が示されている特定保健用食品などを除けばどれが自分にとって有意義なのかを見極めるのは困難であろう。その点に於いて重要な事を最後に述べておく。大事なことは、「生理学・生物学的な基礎知識を持つ」ことと、「その治療法や健康食品の原理がその生理学・生物学的機序に対してどのように作用するのかを具体的に解釈する」ことである。トクホ以外の健康食品が全て無意味という事では決してない。体質の違いもあるし、自分にとって有意義なものはあるだろう。一方で冒頭の記事にもある通り、それら健康食品について一般の研究者が興味を持って研究をするというケースはほとんどない。あるとすれば、その業者から研究費を貰って研究している場合だろうし、その結果がどう解釈されるべきかは推して知るべしである。その点、いつも繰り返していることだが、自身の身体、健康については自分で責任を持って最善を尽くすしかない。それが出来ないのであれば、健康食品を試すというのはハッキリ言って自分の身体を使った人体実験を繰り返しているのと同じである。せめても信頼できて意見を聞ける専門家(医師でも何でも)を知り合いに持つ事が望ましいだろう。

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