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怖くない

自分の命を汚れたものだと思う理由がチンケなものだと気がつくと何となくがっかりしてしまう。普通であることに安心するのに普通であることが怖い。自分の皮膚を剥がしたらステンレスとビニールに覆われた配線が鈍く光を受けていたらいいのにと思うけど女子高生の時に見たのはちゃんとピンク色のぷるぷるした肉と、どんよりとした赤だった。最近イヤホンが壊れた。自分で選んだ音楽以外が聞こえてくる街は思っていたより恐ろしかった。自分の目から見える範囲はなんら自分の存在を確かだと感じる要素は無いのに、耳から入る情報はなぜか自分がそこに居ることを感じさせるような気がする。昔の写真を見てはそこに自分がいないことに安心する。誰も居なかったはずの部屋に最近誰かがいる。汚い髪で黒目がない女がぼんやりと窓のそとを眺めている。しばらく立ちすくんでいた彼女は私が悲鳴をあげるとこちらを一瞥して前を指差した。大きな旗が揺らめいていた。

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