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夢中

本さえあればいい子供だった。

買い物に付き合わされるのもキライで(車酔いもしたし)出来れば家にいたかった。連れ出されれば、スーパーに停めた車の中で、本を読みながら待っていた。

もちろん、本屋に寄ると言われれば尻尾を振ってついていく。

その日も、居間のちゃぶ台の横で腹這いになって本を読んでいた。
母上は台所。
足をぱたぱたさせていたが、なんとなく収まりが悪い。
ゴソゴソ動くと何か固いものが足に触った。ちょうどいい高さっぽい。
そのまま、膝を曲げて「何か」に足を立て掛けていた。首から上は本に夢中である。
自分が足を任せていたのが絶賛仕事中の炊飯器だと気づいたのは、勢いよく吹き出す蒸気に脛を焼かれた時だった。

べそをかきながら母上に火傷の手当をしてもらい、「ご飯に足を乗っけるなんて!」と行儀悪さをこっ酷く叱られたのは言うまでも無い。

普段は台所にあるはずの炊飯器、何故その日に限って、ちゃぶ台横で働いていたのか。それどころじゃなかったから不明である。
かなり大人になるまで残っていた丸い火傷の痕を見る度に、自分はいつか、読書に没頭するあまり、うっかり死ぬんじゃないかと不安になった。

一応、まだ生きている。

運転中にスマホでゲームをしていて事故を起こすのが、一時期頻繁した。
ずいぶん報道され、厳罰化されたが、未だにニュースで見ることがある。
一分一秒も待てない。夢中になる気持ちはわからなくもないが、好きなものなら尚の事、落ち着いた状況で楽しんで欲しい。
>おまいう。


運転席に座るようになり、車で本は読まなくなったが、代わりにCDをかけて歌を歌う。
推しのCDのボリュームを上げて、気持ちよく熱唱する。

車外に声が駄々漏れだと知ったのは、最近のことである。


☆ヘッダー写真、お借りしました。ありがとうございます。

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