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『黄金の定食』

阿川佐和子氏のエッセイの中には度々お父様の阿川弘之氏が登場する。

そのなかで一番印象に残っているエピソードが、『アガワ家の危ない食卓』の中の一節で、晩年の弘之氏が
死ぬまであと何回飯が食えるかと思うと、一回たりともまずいものは食いたくない
と口癖のように言っていた、というものだ。

まだ四半世紀かそこらしか生きていない若輩者がこんなことを言ったら鼻で笑われそうなのは百も承知だが、
この一文を読んだとき、私は、

わかる。と思った。
めちゃくちゃ共感した。

人生の中の食事回数なんてたかが知れている。しかもいつまでごはんを美味しいと思えるような健康体でいられるかなんてわかったもんじゃない。

ならば一回たりとも無駄にしたくはないし、常に美味しいと思えるものを、健康に気を使いつつ食べて、少しでも多く食事を楽しみたい。
そう思いながら生きている。


特にひとりで外食をするときはこの感覚が強い。
自炊やお弁当がほとんどなので、外食をする機会はめったにないのだが、だからこそ妥協したくなくて、何を食べるか、すごく、ものすごく、悩む。

あっちのお店のメニューを見ては悩み、
こっちのお店のメニューを見て悩み。
そういえばあそこにこんな店があったはずだと少し足を伸ばし、
いまいち気分じゃないなと思えば戻ってきたり。

 洋食……の気分じゃないなあ。
 こちらはそそられるがお値段がちと高い。
 気になる中華のお店は混んでるし。
 こっちの和食は先月行ったばかりだなあ。

めちゃくちゃ真剣に「今私が食べたいものは何か」で悩む。

だって貴重な外食の機会1回分と、1000円かそこらとはいえ自分のお金を使うんですよ。最高の使い方をしたいじゃないですか。

そしてその分、悩んだ末に行き当たったごはんが美味しかったときの喜びは格別で、
それだけでその日一日が幸せに過ごせるくらいテンションが上がる。

とはいえ、こういう食事に対する熱量は割と人一倍というか、人三倍くらいというか、少し異常なレベルというか、
つまりまああんまり共感されないことなのかな……、と思っていたのだが。


最近、こんな私と全く同じことをしているテレビ番組を見つけて、はまってしまった。
それがテレビ東京の『黄金の定食』と言う番組で。

番組の内容はものすごく単純。
毎回、MCの二人(シソンヌの長谷川さんと、なにわ男子の大橋くん)が、街の定食屋さんに入る。
メニューを見て、何を食べるか悩む。
ときおりディレクターさんや常連さんのおすすめ定食情報が入り、また悩む。
悩んだ末に、発注し、実食。
以上。

……え、それだけ?

って思いますよね?
私も思った。え、このご時世、それだけで番組として成り立つの? まじで?

しかし驚くなかれ。これが思いの外面白い。
ふたりともめっちゃくちゃ真剣に悩むのだ。

今日の気分はハンバーグだが、おすすめを聞くと心が揺れる、だの、
唐揚げとカキフライとエビフライ、全部食べたいがすべてが乗っている定食はないからなにか1つは諦めないといけない、だの、
そんなことを25分番組の前半まるまる15分をかけて延々と悩む。

他人が食べたいもので悩んでいる姿なんてたいして面白くなかろうと思われるかもしれないが、あまりにも真剣なので、気づくと視聴者たる我々も感情移入してしまう。

いやいやそこはやっぱりこのメニューでしょう。え、そこ行っちゃう? うわー、そうきたか!
……見てるだけなのに心が忙しい。

そして発注、実食シーン。
この実食シーンこそがこの番組の醍醐味で、
ふたりとも、めっちゃくちゃ美味しそうに食べるのである。

シソンヌの長谷川さんは噛みしめるように、なにわ男子の大橋くんは豪快に。そして口に入れた瞬間、ふたりともものすごく満たされた幸せな表情を浮かべる。
不思議なことに、見てるこちらまで幸せになってくる。

なにより、この番組の最大のポイントの一つだと思うのが、ふたりとも食レポが上手い。
特に大橋くん、単なるアイドル枠だと思ってごめんなさい。おそらくご自身が料理をする人なんですね(第4話の調理シーンで塩麹を言い当てたのを見て、この人料理する人だ!と思った)、だからかな、味の表現が逐一的確で、想像を掻き立てる。

いいな〜、定食食べたいな〜。
ただの飯テロと思いきや、見終わったあと、不思議な満足感が残る番組だ。

そんなわけで、月曜日の夕食時にTVerでこの番組を眺めるのが週イチの楽しみになりつつあるのでした。

たぶん、自分が好きなものに対して同じくらい、むしろそれ以上に真剣に向き合っている人を見ることの喜びがあるんですよね。
同志を見つけたようで、なんだか嬉しくなる。

特に大橋くん、只者じゃないぞ。第3話で、おすすめメニューの調理映像を見ながら「美味しそうすぎて涙出てきた」と言い、本当に涙を拭っていたシーン、最高でした。本当に食べることが好きなんだなあ。食事への熱量や真剣さ、めっちゃ好ましい。

「12話限定」となっていて、第4話の今からロスが心配な番組。シリーズ化したらいいのになあ。

最新話はTVerから見られます。
ひとりごはん中のお供に、ぜひ。


ちなみに、ヘッダー画像は私自身が最近出会った「黄金の定食」です。渋谷のNHK前にある、「寅や」というお店のネギたっぷり油淋鶏御膳。

カラッと揚がったアツアツの唐揚げに、その名の通りネギがたっぷり入った甘酢タレがとろりと絡んで、最高に美味しかった。
ピリ辛ナムルの小鉢もGPが高い!
(このお店に入るまでに、あのお店でもないこのお店でもないを繰り返し、代々木上原〜代々木公園エリアを30分近くうろうろしたのは内緒。その末に出会えた絶品油淋鶏、完全に黄金の定食)


もひとつちなみに、大橋くんが気になってYou Tubeでなにわ男子の動画を見ていたら完全にギャップにやられました。
え、めちゃめちゃ歌って踊る人じゃん。


追記:

この取材全文見てるだけで幸せになる。


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