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昔話❷

レイが突如ハサミを持ち
「こうしたら気が済むんですよ....」と、呟きおもむろに前髪を引っ張りながら切ったのである...
奇しくも数日前に誕生日を迎え誕生日前にサイドを刈り上げパーマまであてて後頭部で括る自分の中の憧れであったのであろうヘアスタイルをブッタ切ったのである
絶句である....
「何を...しとんねんお前」
胸ぐらを掴む寸前でレイが一言
「こんなもんでアイツの気が済むなら安いもんですよ」満面の笑みで答えてくるのである
右も左も分からない、ましてや水商売の世界なんて知りもしない田舎者が、たった2年でこうまで覚悟を決めているとは思いませんでした

「よし!お前の根性は分かった後は俺に介錯させてくれ」
「お願いします」
バリカンなど気の利いた物など無いので当然仕上がりは虎刈りである
俺も虎刈りで行くか?と言うと
「それじゃあ意味が無いじゃないすかショーゴさんは堂々とそのままで振る舞って下さい」
とニヤニヤしながら諭して来る、レイの頭を叩き作戦会議である

「7時って言ってたよな?」

坊主頭の方がまだマシってな感じのレイがタバコを吸いながら
「言ってましたね....」
サントリー角の水割りを呑みながら答える
「朝の7時にしようぜ?」
底意地の悪そうな笑みを浮かべながら
「晩の7時じゃないんすかぁ?」
「明日の7時だったら朝も晩も分からないだろう?それに我々夜の住人は朝の方が都合が良い」
「まぁ...そうすね~」
細かい毛が刺さり痒いのだろう、頭をボリボリ掻きながら答える
ほな朝まで頑張ろか?と言うとこの男何時もボソボソと覇気の無い返答をするのだが、この時ばかりは威勢が良かったのを記憶している
それから客が来ては
「レイなんなーん?その頭~下手打ったん~?」
などと矯正を浴びながら野良犬二匹の夜は明けて行くのである
時刻は6時過ぎ、客達も今日は休みだけど限界とか、今から現場だとか、それぞれ今日が在るのだろう見送って片付けを終わらせテキーラを乾杯しながら本題である
「そろそろ...いい時間だな?」
「はい...」

「よっしゃほな行こか」
「了解っす」
気の抜けた返事に若干苛立ちながら重い腰を上げるのである
出発時の我々の格好はというと私は紺地に白のストライプのてろてろした素材のバーバリーのスーツに、だらしなく襟元の伸びたTシャツにサンダル
レイはというと、お客さまに頂いたTシャツにウォーホルのバナナがプリントしてあるステテコにサンダルそして決め手は虎刈り、もうどこからツッコミを入れて良いのか分からない珍妙なスタイルである
今思うと2人とも絵に書いた様なドチンピラスタイルでした
さぁ...行くか...と高級車や単車で向かうと格好の良いものだが如何せん貧乏な我々は当然の様に買い出し兼通勤用のママチャリなのである(ニケツ)
道中レイが
「…ってか連絡入れたんすか?」
「そうや入れて無いわ」
と言うとそんな事だと言わんばかりにへへへとレイは笑っている
電話を掛け今向かっている旨を伝え自宅へ
自宅前で立ち竦んで居るので元気良く二人で

「おはようございまーす!!!!!!」

一瞬ビクッとしたのか驚いた顔で

「おう...おはようさん...レイ...お前何や...?その頭...?」

覚えて無いのか目を丸くさせながら訊ねてくるのである

「いえ反省の色を示せと仰るのでキチンと丸刈りにして参りましたっ!」

「いやっ...そんなん...真に受けるなや...そもそも
7時言うて朝来るアホおらんど...」

すかさず僕も

「朝か夜か分からないので足りない頭をひねり朝に決めましたっ!」

と伝えると、はあ...と、溜め息をつきタバコを投げ捨て

「お前ら腹減ってるやろ?そこのサテンでモーニングでも食べに行くぞ」

と言われ我々は一刻も早く帰りたいが、食い気に負けてモーニングを食べに行くのである
お前らは根性座ってるだとか漢とはどーだとかこーだとか本当に、私達にとってどーでもいい事をつらつらと語って来るのである
暫くして
「ワシもそろそろ用事があるさかいに帰るで!」
我々、
「お疲れ様でしたー!」
手をひらひらさせながら帰って行く後ろ姿は安物のVシネマを観てる気分になったが、そんな事はもうどうでもいい疲れたのだ
レイと目を合わせ

「呑みなおすか?」
「はいっ!」
さぁ...店に戻って本物のテキーラを呑もう...罰ゲームだとか売り上げだとかキチ〇イのふりしたりだとかetc
そんな事は関係無しにテキーラをブン回すのだ!
ボロのママチャリをキィーキィーいわせながら店に帰る大切な店へ

映画だとか小説みたいに痛快な復讐劇があれば面白いのだが現実はそんな事も無く情けなくブルージーに過ぎて行く
僕とレイの青春の1ページでした

この1年後レイは酒の飲み過ぎでウェルニッケ脳症を発症しバーテンダーを引退せざるを得ない状況になり地元へ帰りました
それから数年後私は本格的なアルコール依存症で精神が錯乱してしまい店をたたむ事になる…

2023年現在 読み返すと
とんでもねー日々を送ってたなーと感慨深い気持ちでいっぱいです笑
今じゃ酒もきっぱり止めたしややこしーお客さんもおらず千林のお年寄り達や地元の商店街の方と楽しく過ごさせて貰っています
人生色々これから先も珍道中は続くのだろう

ちなみにレイは今じゃ地元に戻って結婚し家族を養い大企業の募集で当時面接倍率100倍位の難関に立ち向かい人事に
「目付きが気に入った!!」
と言う理由で名だたる高学歴に勝利し頑張って働いている自慢の弟分です。

僕はというと千林商店街の裏路地で芋を焼いてます笑

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