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あと何回、家族と飯が食えたのか。(『ミッドナイト・バス』)

2019年に上京してから、帰郷した2021年7月現在まで、家族に会った回数は片手で収まるほどでした。なんとなく、30歳くらいには新潟に帰ろうと考えて、今の年齢やこれからの月日を指折り数え、新潟に帰ってからやりたいこと、30歳までにできるようになっていたいこと、ぼんやりとメモに書き起こしていました。その間思うのは、「あと何回家族に会えるのかな」ということでした。

しかし、訳あって新潟にUターン。帰ってきて一番思うのは、家族と過ごす時間が増えてとてもうれしい。何気ない会話と、一緒に食べる食事。学んだコーヒーの知識を少しでも生かして、家で家族にコーヒーを淹れてあげることができるのも、尚うれしい。

東京にいたときに感じた「幸せ観」はまさにこういうことでした。好きな人と一緒にご飯を食べる、広い空を見て星を眺める、自然の近い場所にいる。

映画『ミッドナイト・バス』は、地元新潟の新聞、新潟日報の創業140年を記念した映画。元々は小説が原作。全編ほぼオール新潟ロケが敢行されたこともあり、ストーリーだけでなく舞台風景でも、新潟人には特に楽しめる作品です。

以下、ストーリーは公式サイトからの引用です。

主人公の高宮利一は、東京での過酷な仕事を辞め、
故郷の新潟で長距離深夜バスの運転士として働く中年の男。
ある夜、利一がいつもの東京発─新潟行のバスを発車させようとしたその時、滑り込むように乗車してきたのが、
十六年前に離婚した妻・美雪だった。突然の、思いがけない再会。
美雪は東京で新しい家庭を持ち、新潟に独り暮らしている病床の父親を見舞うところだった。
美雪の疲れ果てた様子が気になる利一。利一には、美雪との間に怜司と彩菜という子どもがいる。
利一が東京で定食屋を営む恋人・志穂との再婚を考えていた矢先、
長男の怜司は東京での仕事を辞めて帰ってくる。
娘の彩菜は、友人とルームシェアしながら、インターネットでマンガやグッズのウェブショップを立ち上げていたが、
実現しそうな夢と、結婚の間で揺れていた。
そして利一は、元妻の美雪が夫の浮気と身体の不調に悩み、幸せとはいえない結婚生活を送っていると知る。
利一と美雪の離婚で一度ばらばらになった家族が、今、それぞれの問題を抱えて、故郷「新潟」に集まってくる。
家族がもう一度前に進むために、どうすればいいのか──。
十六年という長い時を経て、やるせない現実と人生への不安が、
再び、利一と美雪の心を近づけていく。
利一とは違う場所で、美雪もまた、同じ分の歳月を生きていた。
だけど、どんなに惹かれ合っても、一度分かれてしまった道は、もう二度と交わらないこともわかっている。
この数ヶ月、志穂といた利一は美雪を思い、美雪といた利一は志穂を思った。
利一には恋人の志穂が、美雪には夫とまだ幼い息子がいる──。
奇跡のような再会から数ヶ月が過ぎ、小雪が舞う中を、
美雪は利一に見送られ、東京行きの深夜バスに乗る。
ひとりになった利一は、自分が今、人生のどこにいるのかと考える。
それは、暗い昼かもしれないし、夜かもしれない。
たとえ夜の中、先も見えない暗がりの中にいたとしても、利一はそんな夜をいくつも越えてきた。
だから恐れずに進めばいい。走り続けたその先にはいつだって、きれいな朝が待っているはずだ。
利一は願いをこめて、志穂の元へバスを走らせる。
もう一度、明日へと、自分自身の人生を前に進ませるために──。

高速バスで新潟と東京を行き交うのは、個人的にもとても思い入れのある時間。就活時代は、長い乗車時間を、志望動機や自己PRを何度も復習する時間にあてていた。上京する時には、親友が寄せ書き入りのバッグを渡してくれ、2、300メートルもダッシュでバスに伴走してくれた。一時帰省するときは、新潟へのワクワクを増幅させる装置になった。帰郷するときは、ブルーボトルのマイメンたちがバスの発車の直前までそばにいてくれた。

7時間弱のバスドライブは、目的地へのワクワクを一層大きなものにしたり、終わった旅を気分だけでも延長してくれたり、背中を押し、送り出してくれる人への感謝を反芻するのにとても良い時間になるのです。

正直、バスに乗りたくない、離れがたい、思い出の残り香はその場に残っているので、むしろゆっくり移動して欲しい。到着地点に降り立つまではまだその楽しかった場所と地続きな気がしているので、そんなときも高速バス。新幹線も速くて良いけど、時間に余裕があるなら、途中のパーキングも楽しめる高速バスもたまには良いですよ。

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さて、映画の本題は、止まっていた家族との時間、生じていたしこりがなくなり自分の人生がまた動きだすことにあります。コロナってやつは、形態を変えながら未だに世界を駆け巡り、誰彼構わず人の体や心を蝕む憎いやつです。一方で、人との関わりや接触を断たざるを得なくなった期間は、自分が大切にしたいこと、時間、愛するコミュニティ、また実は大事じゃなかった事柄、変えるべき生活様式や仕事観などあらゆることを浮き彫りにし、認識を改める機会にもなりました。

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望むと望まざるとにかかわらず、時間は進み、人は年齢を重ね、老いていきます。心が赴くことには蓋をせず、伝えたいことは恥ずかしがりながらもきちんと伝える。大事なことは結局シンプル。

初めてこの映画を観たのは今年の1月でしたが、また観返してみて、やはり拠り所となる家族って良いもんだなと思いました。もしまだ関東にいたら、あと何回家族と飯が食えたのだろうか。正直、ブルーボトルコーヒーでの仕事もすごく楽しかったし、関東生活もさらに充実しそうな予感がしていましたが、でも今は帰郷できたことを素直に喜んでいます。

いつか、新潟と東京(or横浜)での2拠点生活ができるように、まずは新潟で仕事を頑張っていきたい。

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