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人間が老いるのと同じように、巨大な団地も老いていく。そこで起きた殺人事件を追ったのが『マンモスの抜け殻』(相場英雄 著)である。
40年ほど前、東京の郊外には団地が多く建てられ、その中に商店街ができ、活気ある様相を呈していた。しかし、いま、そこに暮らす人々は年を取り、子どもたちも成長して団地を出てしまった。まるでマンモスの抜け殻のようになり、老人の住処になっている。 そんな時が止まったような団地で起きた殺人事件。殺したのは誰なのか。その団地で育った刑事が真相を追う。 殺人事件を追う刑事、仲村勝也は事件のあった団地の出身である。殺されたのは、勝也が子どもの頃から団地内で高利貸しをしていた藤原光輝で
「夜回り猫」が表紙の『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(稲葉剛・小林美穂子・和田靜香 編)の著者らは、猫の手も借りたいほど忙しい。
表紙絵の「夜回り猫」は、本書の内容に即している。 不安そうにたたずむ白猫に、マスクと食料を持って駆けつける茶トラの猫と白黒猫。これはまさにSOSを発信した生活困窮者に、なりふり構わず支援に行く著者の稲葉さん、小林さんの姿である。 絵の手前に「我関せず」の様相で何羽もの鳩がこちらを凝視しているが、これは他人事として無視を決め込む私たち市民の姿だろうか。 本書は生活困窮者支援団体「つくろい東京ファンド」のスタッフ、小林美穂子さんがFacebookにアップした文章をまとめ
『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた』(和田靜香 著/取材協力 小川淳也)は、政治家が言う「自助」に真っ向から異を唱える必読の書である。
「まず自助を実行せよ」と政治家は言う。しかし、国民の4割は非正規労働者なのである。国民の半数近くが最低賃金か、少し高いぐらいの給料しかもらっていない。それで、どうやって自助をしろというのか。 至極、真っ当な疑問を、ドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の主役である小川淳也・衆議院議員に投げかけ、できあがったのが本書である。 私は選挙の投票を欠かしたことがない。国民の義務というより、唯一、政治に関われる権利だと思っている。しかし、投票した候補者が当選するこ
『ハザードランプをさがして〜黙殺されるコロナ禍の闇を追う〜』(藤田和恵 著)は、コロナ禍で住む場所を失い、路上に出ざるを得ない人々を追ったルポである。
菅元首相が政策理念として掲げたのが「自助・共助・公助」である。「公助」を最後に挙げているが、それは政治家として「国民を守る」という義務を放棄していることになる。 コロナ禍が始まる前から、非正規労働者はぎりぎりの生活を強いられてきた。飲食業界で働いていた人たちは、緊急事態宣言により仕事がなくなり、宿泊していたネットカフェも閉鎖され、路上に出ざるを得なくなった。 本来、こうした社会的弱者を救うのが国の役目ではないのか。それを放棄して「自助・共助・公助」を公言するのは、まさ