咲まゆみ

大学卒業後、OL、編プロ、NGO広報を経て、フリーランスのライターとなる。売れっ子では…

咲まゆみ

大学卒業後、OL、編プロ、NGO広報を経て、フリーランスのライターとなる。売れっ子ではないので、収入は同年代の半分以下だが、満員電車から解放され、人間関係のストレスはなくなった。お金はないけど、まあまあな人生を送っている。

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最近の記事

書店を舞台にした『店長がバカすぎて』(早見和真 著)は、本好きの心をひっかける魅力が満載だ。

 てっきり書店の裏話を暴露するような内容だと思ったが、しっかり小説になっていた。しかも、後半になると推理小説の様相を呈してくる。いったい、誰が覆面作家なのか。そして、店長は本当にバカなのか。地味な展開になると思いきや、意外と楽しめるストーリーである。  ヒロインは書店で働く派遣社員。無類の本好きである。本が好きで書店員になったが、薄給で重労働ときている。ことある事に退職届をバッグにしたためているが、出したことはない。    彼女の神経をいらだたせるもの。それは店長であり、書

    • 『平安ガールフレンズ』(酒井順子 著)を読めば、平安の才女たちが身近になる! 

       平成のガールフレンズといえば、紫式部や清少納言などの小説家やエッセイストである。彼女たちが現代の私たちのように思い悩んだり、嫉妬したり、うらやんだり。時代は変わっても、人間の本質は変わらないと思わせてくれる本である。  紫式部も清少納言も、高校時代の古文でしか知らない。遠い昔の、自分とは関係のない人たちだと思っていた。この本を読むまでは。  著者が解説する紫式部と清少納言の性格の違いには笑ってしまった。清少納言が「私を見て、見て」という開放系の女子だとしたら、紫式部は思

      • 『〈叱る依存〉がとまらない』という自覚がある人、必読の書。

         人はなぜ、叱るのか。たとえば、親が子どもに、先輩が後輩に、上司が部下に。それはさまざまな場面で見聞きする。  ともすると「子どものしつけのため」「相手のためを思って」「社会常識を伝えるため」といったもっともらしい理由づけがなされるが、果たして相手のためを思って叱っているのだろうか。 〈叱る〉の内側にある心理的な機序について解説する本である。  自分の胸に手を当てて思い出してみよう。 「いつも子どもを叱っていないだろうか」 「後輩を指導する意味で叱責していないだろうか」 「

        • 非行少年を支援するむずかしさを実感する『どうしても頑張れない人たち〜ケーキの切れない非行少年たち2』(宮口幸治 著)。

           本書は、累計発行部数120万部のベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』の続編である。実際に支援する人が陥りやすい間違いについて紹介している。  私は子どもがいないため、具体的な実感はないが、非行少年を持った親御さんではなくても、思い当たる節があるのではないだろうか。  それがなぜ、子どものやる気を削ぐのか、詳しく書かれている。日頃、子どもの行動に手を焼いている親御さんにとっても参考になる本である。  前著では「ケーキを3等分できない非行少年がいる」ということに衝撃を

        書店を舞台にした『店長がバカすぎて』(早見和真 著)は、本好きの心をひっかける魅力が満載だ。

        • 『平安ガールフレンズ』(酒井順子 著)を読めば、平安の才女たちが身近になる! 

        • 『〈叱る依存〉がとまらない』という自覚がある人、必読の書。

        • 非行少年を支援するむずかしさを実感する『どうしても頑張れない人たち〜ケーキの切れない非行少年たち2』(宮口幸治 著)。

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        • 南西諸島の話
          1本
        • 書評
          1本
        • ライター
          2本
        • 飼い猫のこと
          2本

        記事

          人間が老いるのと同じように、巨大な団地も老いていく。そこで起きた殺人事件を追ったのが『マンモスの抜け殻』(相場英雄 著)である。

           40年ほど前、東京の郊外には団地が多く建てられ、その中に商店街ができ、活気ある様相を呈していた。しかし、いま、そこに暮らす人々は年を取り、子どもたちも成長して団地を出てしまった。まるでマンモスの抜け殻のようになり、老人の住処になっている。  そんな時が止まったような団地で起きた殺人事件。殺したのは誰なのか。その団地で育った刑事が真相を追う。  殺人事件を追う刑事、仲村勝也は事件のあった団地の出身である。殺されたのは、勝也が子どもの頃から団地内で高利貸しをしていた藤原光輝で

          人間が老いるのと同じように、巨大な団地も老いていく。そこで起きた殺人事件を追ったのが『マンモスの抜け殻』(相場英雄 著)である。

          広島に軍隊の乗船基地があったことを教えてくれた『暁の宇品』(堀川惠子 著)は、一級のノンフィクションである。

          なぜ、広島に原爆が落とされたのか。著者の疑問から軍隊の乗船基地「宇品」の存在が浮かび上がる。軍港の「呉」を知る人は多いが、「宇品」を知る人はほとんどいないだろう。 「宇品」は物資や兵隊を輸送する日本一大きな輸送基地だった。だから、原爆投下の候補地に選ばれたのか。そもそも、そこに置かれた陸軍船舶司令部とはどんなところだったのか。船舶司令部を通して、日中戦争から太平洋戦争、敗戦に至るまでを見事に描いた、読み応えのある一冊である。  私は歴史に詳しくなく、日中戦争や太平洋戦争がど

          広島に軍隊の乗船基地があったことを教えてくれた『暁の宇品』(堀川惠子 著)は、一級のノンフィクションである。

          『そして、バトンを渡された』(瀬尾まいこ 著)は、子どもの虐待死が多い現実を忘れさせてくれる一冊である。

           タイトルだけ見ると何のことかわからないが、バトンは実父から継母に渡され、それが継父へと引き継がれる。最終的に何の血縁もない若い父親と一緒に暮らすことになった女子高生の何とも不思議な物語である。  こんなふうに他人の子どもに愛情を注げる人ばかりだったら、この世に子どもの虐待死なんて存在しないのに。まさに理想的な疑似親子を描いた小説である。  最初の疑問はなぜ、実父と暮らしていないのか、ということだ。実母は幼い頃に亡くなり、どういうわけか、血縁関係のない男性と暮らしている。

          『そして、バトンを渡された』(瀬尾まいこ 著)は、子どもの虐待死が多い現実を忘れさせてくれる一冊である。

          「夜回り猫」が表紙の『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(稲葉剛・小林美穂子・和田靜香 編)の著者らは、猫の手も借りたいほど忙しい。

           表紙絵の「夜回り猫」は、本書の内容に即している。  不安そうにたたずむ白猫に、マスクと食料を持って駆けつける茶トラの猫と白黒猫。これはまさにSOSを発信した生活困窮者に、なりふり構わず支援に行く著者の稲葉さん、小林さんの姿である。  絵の手前に「我関せず」の様相で何羽もの鳩がこちらを凝視しているが、これは他人事として無視を決め込む私たち市民の姿だろうか。  本書は生活困窮者支援団体「つくろい東京ファンド」のスタッフ、小林美穂子さんがFacebookにアップした文章をまとめ

          「夜回り猫」が表紙の『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(稲葉剛・小林美穂子・和田靜香 編)の著者らは、猫の手も借りたいほど忙しい。

          『ワンダフル・ライフ』(丸山正樹 著)は、いままでにない構成で、読む者を飽きさせない。

           短編集かと思いきや、実は全部がつながっていくという、いままでにない構成がおもしろい。いったい、どんなふうに話が展開していくのだろうと思っていると、最後にまたどんでん返しがある。すっかり、騙されたと脱帽する本である。  目次を見ると「無力の王」「真昼の月」「不肖の子」「仮面の恋」と続き、それが(1)〜(3)まである。 最初は何のことかと思ったが、それぞれの主人公の話が短編を間にはさんで続くのである。  たまに時間軸が異なることもあり、頭がこんがらがりつつ先に進む。最後には、

          『ワンダフル・ライフ』(丸山正樹 著)は、いままでにない構成で、読む者を飽きさせない。

          『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた』(和田靜香 著/取材協力 小川淳也)は、政治家が言う「自助」に真っ向から異を唱える必読の書である。

          「まず自助を実行せよ」と政治家は言う。しかし、国民の4割は非正規労働者なのである。国民の半数近くが最低賃金か、少し高いぐらいの給料しかもらっていない。それで、どうやって自助をしろというのか。  至極、真っ当な疑問を、ドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の主役である小川淳也・衆議院議員に投げかけ、できあがったのが本書である。  私は選挙の投票を欠かしたことがない。国民の義務というより、唯一、政治に関われる権利だと思っている。しかし、投票した候補者が当選するこ

          『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた』(和田靜香 著/取材協力 小川淳也)は、政治家が言う「自助」に真っ向から異を唱える必読の書である。

          分厚い上下巻でも一気に読めるスティーブン・キングの『アウトサイダー』

           少年を拉致し、残酷に殺害した犯人が特定され、衆人環視の中で逮捕される。一件落着かと思われたが、刑事たちは矛盾する証拠に翻弄され、新たな展開を迎える。上下巻の分厚い本書だが、ずんずん読ませる力業は、さすがホラーの帝王だけある。    スティーブン・キングの作品を読むのは初めてとなる。モダン・ホラーを生み出し、第一人者といわれる。ネットの情報によると、それまでのホラー小説は非現実的な世界を描いていたが、キングはリアルな日常生活に不可思議な現象を取り込み、事件の解決を試みるのだと

          分厚い上下巻でも一気に読めるスティーブン・キングの『アウトサイダー』

          日本の政治の貧困をあぶり出す『貧困パンデミック〜寝ている「公助」を叩き起こす』(稲葉 剛 著)

           日本は弱者に冷たい社会だと痛感させられる本である。政治が生活困窮者に目を向けず、菅元首相が提起した「自助・共助・公助」という優先順位がいまも続いている。  著者は、つくろい東京ファンド代表理事、ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人、生活保護問題対策全国会議幹事、いのちのとりで裁判全国アクション共同代表として、生活困窮者支援を行っている人物で、本書は、コロナ禍が始まった2020年春からの1年間の活動を記録したものである。  著者の稲葉剛氏は

          日本の政治の貧困をあぶり出す『貧困パンデミック〜寝ている「公助」を叩き起こす』(稲葉 剛 著)

          フィンセント・ゴッホの自殺にまつわる出来事に新解釈を施した小説『リボルバー』(原田マハ 著)

          死後、世界的に人気を博すようになった天才画家フィンセント・ゴッホ。ピストル自殺によって亡くなったといわれているが、実際に何が起こったのかはいまだによくわかっていない。そこに焦点を当てて書かれたのが本書である。ゴッホが自分に向けて拳銃を発射し、それがもとで亡くなったというのが定説である。しかし、その場にいたものはおらず、ゴッホの臨終に付き添った弟のテオが妻のヨーに書き送った手紙には「ゴッホが自殺を図った」とはひと言も書かれていないという。 ゴッホが亡くなった半年後にテオも亡く

          フィンセント・ゴッホの自殺にまつわる出来事に新解釈を施した小説『リボルバー』(原田マハ 著)

          『高瀬庄左衛門御留書』(砂原浩太朗 著)は時代小説のおもしろさを満喫させてくれる一冊である。

          主人公の高瀬庄左衛門は農村を回り、田圃の検見をする役回りの下役である。妻を亡くし、ひとり息子に仕事を任せ、まもなく隠居しようかという頃に息子を突然、亡くしてしまう。そこから物語は急展開し、お家騒動に巻き込まれてしまう。予期せぬ事態に遭遇しつつも、主人公が持つ穏和で思慮分別のある行動で窮地を乗り越えていく。 主人公は欲のない人間である。出世しようというどん欲な気持ちもなく、日々、何事もなく人生を終わりたいというような人物だ。 しかし、小説というものは、そういう人物にときとし

          『高瀬庄左衛門御留書』(砂原浩太朗 著)は時代小説のおもしろさを満喫させてくれる一冊である。

          『ハザードランプをさがして〜黙殺されるコロナ禍の闇を追う〜』(藤田和恵 著)は、コロナ禍で住む場所を失い、路上に出ざるを得ない人々を追ったルポである。

           菅元首相が政策理念として掲げたのが「自助・共助・公助」である。「公助」を最後に挙げているが、それは政治家として「国民を守る」という義務を放棄していることになる。  コロナ禍が始まる前から、非正規労働者はぎりぎりの生活を強いられてきた。飲食業界で働いていた人たちは、緊急事態宣言により仕事がなくなり、宿泊していたネットカフェも閉鎖され、路上に出ざるを得なくなった。  本来、こうした社会的弱者を救うのが国の役目ではないのか。それを放棄して「自助・共助・公助」を公言するのは、まさ

          『ハザードランプをさがして〜黙殺されるコロナ禍の闇を追う〜』(藤田和恵 著)は、コロナ禍で住む場所を失い、路上に出ざるを得ない人々を追ったルポである。

          『本心』(平野啓一郎 著)は、近未来の物語だが、生きることの意味を考えさせる一冊である。

          2040年。現代よりAI技術が進歩し、VF(バーチャル・フィギア)が当たり前のように使われている。VFとは、仮想空間で亡くなった人と会話ができるというものだ。主人公の朔也は、〝自由死〟を望んだ母親の「本心」を知りたくて、VFの製造を依頼する。そして、母を巡ってさまざまな人と出会い、いつしか〈母〉から卒業していく。 死んだ人の過去のデータから、見た目も考え方も話し方も、生前の本人そっくりなVFを作ることができる。そんな世の中になったら、どんなに心が癒されるだろう。たとえ、相手

          『本心』(平野啓一郎 著)は、近未来の物語だが、生きることの意味を考えさせる一冊である。