ロケットの雷・静電気対策のあれこれ

MOMOロケット

2019年5月に「宇宙品質にシフトMOMO3号機」というロケットの打上げに成功した。これにより国内では民間初の宇宙空間へ到達したロケットが出来た。
その後、連続成功を目指して2019年7月に「ペイターズドリームMOMO4号機」という同型機の打上げ実施。しかし、この4号機は残念ながら途中で緊急停止して、ミッション成功ならずという結果だった。

結果と原因究明

詳細は上のPDFをみてもらうのが良いが、要は以下の通り。

・機体搭載の無線機が止まって、安全装置であるエンジン停止機能が働いた
・無線機が止まった理由は絞り込め無かったが、中でも可能性が高いのは以下の通り
 ・静電気・雷による電子部品故障
 ・ケーブルやコネクタが外れるか切れるかして電源が落ちた

次号機への対策の実務としては、細かい設計変更や作業工程管理や作業自体の改善がメインで実施している。しかし、この記事としては、推定される原因の一つである静電気・雷についてを題材にする。

海外のロケットと雷・静電気の歴史

NASA アポロ12号

NASAは1967年のアポロ12号(初めて月に着陸した11号の次の打上げ)で落雷を2度直撃するというインシデントを起こしている。奇跡的かつドラマチックな現場の判断によって重大事故は避けられた。アポロ12号は月に着陸し無事に帰還している。しかしNASAはこの打上げを機に天候の基準を厳格に設けるようになったようだ。

Atlas Centaur-67

アメリカのアトラス・セントールというロケット(シリーズの中でもAtlas G)のAC-67という打上げ番号がついたロケットは米海軍の通信衛星を積んでいたが、打上げに失敗した。打上げ後49秒後落雷、搭載コンピュータが落ちて機体破損、衛星も破壊。今の金額にして数百億円が吹き飛んだ。
当日は自然の雷放電は観測されなかったが誘起(triggerd)雷が発生し落雷したと考えれている。気象担当官は(本来は事前に危険性をディレクターに報告すべきだったが)後での解析のために気象を見ていると思っていて、打上げ後3分後にフライトディレクターに気象報告をした。事前の測定と規定とコミュニケーションがあれば事故を阻止出来たと思われている。
ロケットは機体長さが長いこと&長い炎を噴き出していること、によって自然状態では雷にならないような状態であっても誘起される雷が発生しやすいという直感から外れた現象があり、これが見逃されていた。

Europa II

欧州が協力して作ったEuropa(ロケットの名前としてヨーロッパ)というロケットがあった。市場競争力の強く素晴らしいロケットであるArianeの前身だが、Europaは失敗ロケットとして有名。その11号機は雷ではなく「帯電」にやられた。Europa Iを6号機から10号機まで連続失敗していて、改良しようと11号機をEuropa IIの新型機にして失敗というなんとも、、、な状況。
打上げをT+0秒として、T+105秒で高度27kmの時点で、ロケットの第3段階にある誘導コンピューターが機能しなく姿勢制御喪失。約3秒間続く他の電気的異常が同時に発生。第1段階と第2段階にかかる応力によって爆発。
この大きな事故により、ロケット以外もヨーロッパ主要な共同事業は全てキャンセルされた。
後の原因調査によると「ブースターの排気の陰イオンと陽イオンの関係から機体に帯電する」ことにより電子部品が壊れたと結論づけられている。帯電による故障だとしても電子部品へ適切な接地・接合・絶縁表面の処理がされていれば避けれたと考えられている。

NASAの技術基準

上記のような経験もあり、NASAでは技術基準が作れている。
この基準が”LIGHTNING LAUNCH COMMIT CRITERIA”、略してLLCCと呼ばれる。LLCCは1967年のアポロ12号以来更新されていて、最新版は2017年版で以下の技術標準文章になっている。
[NASA-STD-4010]NASA STANDARD FOR LIGHTNING LAUNCH COMMIT CRITERIA FOR SPACE FLIGHT

NASAがすごい点は、LLCCのような基準の歴史的経緯や合理的な根拠も同様にまとめられているところ。

LLCCのほとんどが気象条件から雷を避けましょうという内容であるが、一部は摩擦帯電についての記載がある。MOMOではこの可能性があると報告書で(いちおう)書いている。

摩擦帯電

下敷きを頭の上でこすったときに髪の毛が立つときの現象。セーター着ているとパチパチなるのもこれ。こすりつけて電荷が移動することによって帯電する。一般用語では静電気、専門用語では摩擦帯電。ロケットでは、飛行中に氷の粒子がロケットに衝突したときに、氷の粒子とロケットの間で電荷が移動することを意味する。

NASA TP-2016–219439という文書番号の書類に書かれていることを抜粋要約すると

氷の粒子が高速で飛行中のロケットに衝突すると、通常、ロケットの電位を数十または数百キロボルト、通常は負極性に上昇させる。ロケットの外面の誘電体を帯電させると、外側表面と内側表面の両方に面放電が発生する。浮いた金属表面の帯電は、表面間または機体へのスパークを引き起こす。対策として、機体表面の誘電体の表面抵抗率を下げるように表面処理をすることや、浮いた金属表面と機体との間の電気抵抗を下げて火花を防ぐことが有効。
表面の帯電を制御する予防措置がない限り、危険な静電気を発生させる可能性がある雲の中を通る打上げには制約を課す必要がある。このような雲は、-10°Cの気温以下となる高度において機体が910m/s以下の状態になる場合に注意が必要。雲の透明度は摩擦帯電を引き起こす能力とはほとんど関係がない。
一般的に、氷の結晶は、-10°Cよりも暖かいところにある雲の中ではそれほど顕著には発生しない。超音速飛行試験によって裏付けられた結果として、約910m/s(マッハ2.6ぐらい)を超える速度では、機体が衝突することで氷の結晶を完全に融解させるのに十分なエネルギーがあり、その速度では問題になる可能性は低い。

MOMOでの摩擦帯電

・氷だけ、液体の水だけの雲では問題にならない
・氷結層と呼ばれる「みぞれ」状の雲を通るときに気をつける
・固体ロケットのような一気に加速するロケットでは速すぎて問題になりにくい
・種子島で打上がっているロケットでの「冬は氷結層が出る」という単語は知っていても、気温からいうと北海道の場合、逆に冬以外の季節が該当する

というところが難しいところであり、不具合の原因の可能性の一つとして認識して、次の打上げに挑むところである。

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その他の参考

国内の文章で良いのはあまり無いが、宇宙開発委員会の文章に氷結層の説明がある。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/uchuu/016/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2011/02/02/1301018_4.pdf

1967年のアポロ12号
[NASA-TM-X-628SU]ANALYSIS OF APOLLO 12 LIGHTNING INCIDENT

1987年のAtlas Centaur AC-67
Atlas Centaur (AC-67) Lightning Strike Mishap 1987, Leadership VITS Meeting, March 5, 2007
[JGR 1989 30]The Atlas-Centaur 67 incident, Christian
[JGR 1989 30]The Atlas/Centaur lightning strike incident, Christian

2009年のAres-I-X、摩擦帯電のために延期を繰り返した
[AIAA 2010-2321]Operational Lessons Learned from the Ares I-X Flight Test

ロシアのSoyuz-2.1b 2019年5月27日のGLONASSの打上げは飛行中の機体に雷が落雷しても無事だった。
https://www.space.com/russian-rocket-launch-lightning-strike.html

NASA Technical Standardのうち、電子部品の対策はこれがある。
[NASA-HDBK-4001]ELECTRICAL GROUNDING ARCHITECTURE FOR UNMANNED SPACECRAFT
[NASA-STD-4003A]ELECTRICAL BONDING FOR NASA LAUNCH VEHICLES, SPACECRAFT, PAYLOADS, AND FLIGHT EQUIPMENT

2011年のIEEEのSpaceXの発表の論文も参考になる。
[IEEE 978-1-4577-0811-4/11]EMI/EMC, Lightning, and ESD Verification Approach for theFalcon 9 Launch Vehicle
[IEEE 978-1-4577-0811-4/11]Falcon 9 and Dragon Spacecraft Lightning and Tribo-Electric Charging Design and Protection Approach 
[IEEE 978-1-4577-0811-4/11]EMI/EMC, Lightning, Radiation Shielding Verification Approach for the Dragon COTS Spacecraft


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