ina111 / 稲川貴大

インターステラテクノロジズというロケット会社の代表。北海道大樹町か東京都江東区か福島県…

ina111 / 稲川貴大

インターステラテクノロジズというロケット会社の代表。北海道大樹町か東京都江東区か福島県南相馬市。 技術+経営。MOMOというロケット作りました。宇宙を身近に。 北海道科学大学客員准教授・LAND INSIGHT社外取締役

最近の記事

東工大の卒業式で祝辞、述べてみた

母校の東京工業大学の卒業式(正式には学位授与式、学部および大学院の2回)で来賓として祝辞を読む機会を頂いた。2024年3月26日。 東工大は24年10月には東京医科歯科大学と合併して東京科学大学となるので、「東京工業大学」としては最後の春の卒業式だった。 そんな大事な機会に、もっと王道的に凄い卒業生がアボガドロ定数ほどいる中で、私を推薦してくれた益学長には感謝です。 聞いてる卒業生・親御さんたちに、眠くならない時間を提供出来たので良かった。加えて、なにか新しいことやろうとい

    • もし国会の予算委員会で質問できたら、宇宙関係でこう質問する

      2024年3月、某所向けにある程度中立的な立場で質問するために書いた文書。多少使われたけど、少しだったので供養のためにnoteの記事で公開。エッセンスだけでもどこかで使われたらうれしい。 今後、成長産業として大きく期待される「宇宙産業の振興」について質問します。 我が国の宇宙技術は世界でも高いレベルにあります。日本は人工衛星の打ち上げに成功した世界で4カ国目の国であり、今年1月には月面探査機のSLIM(スリム)は世界で5カ国目となる月面着陸に成功し、世界初のピンポイント着

      • Virgin Galacticの費用調査

        「いつ有人宇宙旅行ロケットを開発するのか?」とたまに聞かれる。 ロケット会社経営の立場として、いつも回答に悩む。 回答は「やりたい。しかし安易に言ってもダメで、今は大々的には出していない、一緒に考えていこう」と言っている。 有人宇宙旅行のハードルは高い。 他の例を調査することで大枠が掴めてくる。 ここでは商業宇宙旅行を開始したVirgin Galactic社の開発費用を見てみる。 Virgin GalacticとはVirgin Galacticは2004年に創業したサブ

        • 要注目な北朝鮮の新型ロケット:千里馬1型

          イチ民間人としてロケット開発している立場からの純粋に技術的な感想文 北朝鮮のレベルと脅威日本人は過去の印象でバカにしがちだが、北朝鮮のロケット関連技術力は高い。特に、2023年5月に打上げが実施され軌道投入失敗に終わった千里馬1型などは結果こそ出なかったが、レベルは高いと感じた。 北朝鮮は今後も、軍事や国威発揚のためにロケットの打上を続けるだろう。 しかし、地理的側面や国際関係から、北朝鮮のロケットが産業・科学用途で使われることは無いだろう。 ここで、脅威的な点は、2つ。

        東工大の卒業式で祝辞、述べてみた

          空中発射ロケット企業Virgin Orbitはなぜ破綻したのか?

          航空機にぶら下げたロケットで小型人工衛星を打ち上げる、いわゆる「空中発射ロケット」のVirgin Orbitが2023年4月4日に倒産し、5月には資産が売却され事業停止した。 4月時点では民事再生法に相当するChapter 11であり、事業継続も検討されていたが、航空機や工場、試験場など主な資産が売却されたので事実上の会社清算で経営破綻となった。 ここではVirgin Orbitの悪かった点を挙げていくが、彼らは民間で人工衛星打上成功させた世界有数の偉業を成し遂げた企業であ

          空中発射ロケット企業Virgin Orbitはなぜ破綻したのか?

          360度評価の書き方

          会社で360度評価というのを実施している。 目的や詳細は下記リンク先がわかりやすい。 実際の360度評価の自由記述欄の文面を書くときに各人でバラツキが大きい。360度評価は評価される側だけではなく、評価書く側も書き方で評価を受けるものである。なので、上手く書けた方が良い。 正直、どんな書き方でも良いんだけど目的とエッセンスがわかっていると楽に良い文章が作れる。 自分はある程度テンプレート化しているので紹介。 前提360度評価は自分の気持ちの書くのでは無い。相手の次の行動を

          360度評価の書き方

          光格子時計の可能性

          2023年7月7日、埼玉県和光市にある理化学研究所の光格子時計を研究されている香取研究室に訪問させてもらった。 光格子時計の概要は下記URLが詳しい。 世界最高性能の時計である光格子時計。 18桁精度(300億年に1秒のずれ)をもつ。これまでの原子時計の15桁から3桁の精度向上。 現在はセシウム原子時計で秒が定義されているが、2030年頃には光格子時計が秒の定義になるかもしれない。 基本原理は原子のバンドギャップ由来の電磁波の周波数を計測する。そういう大雑把な意味では原子

          光格子時計の可能性

          地方自治体の宇宙予算2023年度

          県レベルの自治体(都道府県、広域自治体)の宇宙と名前のつく予算を調べてみた。2023年7月時点 背景宇宙企業の代表者として、宇宙系イベントに登壇依頼を受けることが多い。 事業者代表、スタートアップ経営者、技術者、世界の宇宙開発ウォッチャー、地方創生の一例などなど呼ばれる文脈は様々であり、それぞれ意見を求められる。 呼ばれるのも国、自治体、業界団体、企業、大学それぞれ多方面にわたる。 その中で、各自治体の取り組みの違いはいつも興味深く見ているし、発言もしてきている。 宇宙事

          地方自治体の宇宙予算2023年度

          グッバイメガネ(日記)

          誕生日を迎え、30代も半ばを過ぎてきた。 このぐらいの年齢になるとなのか、周りに助けられているために出来ることが増えるようなレベルアップは感じ続けているが、自分個人のレベルアップ速度は鈍化しているような気持ちになる。 なにかレベルアップになるようなもの出来ないかと考えているうちに、これからは身体性が重要な時代が来るはずで、そのためにすぐ出来ることとして、メガネを辞めようと決めた。完全に思いつきである。 思いつきとはいえ、目的は2つ。 1つ目。メタバースやAR/VRのた

          グッバイメガネ(日記)

          ロケット打上中止後の延期は失敗なのか?

          日本の新しい基幹ロケットのH3の初号機の打上げが2023年2月17日に予定されていた。 日本の大型ロケットの現行機種H-ⅡAからは約20年ぶり、その前のH-Ⅱからは約30年ぶりの新機種なので、自分としても楽しみに見ていた。 結果としては1段目メインエンジンのLE-9の推力立ち上がり後に固体ロケットブースターSRB-3への点火信号を送らず、離昇せずにアボートに入った。打ち上げ時期を変更して次回の打上げを目指すようだ。 中止か失敗か?共同通信社や一部の速報で「衛星打ち上げ失敗」

          ロケット打上中止後の延期は失敗なのか?

          ひたすら熱中してたらロケットを作っていた話

          県立浦和高校の校内紙である麗和に寄稿した文章の転載(1200字)  稲川貴大(高57回)インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役社長 タイトル:ひたすら熱中してたらロケットを作っていた話 浦高時代に工芸部に入り、授業そっちのけで木工に熱中した。そこで「ものづくり沼」にハマった。人生捧げようと思うほどの達成感、それに至るまでの厳しい修行のような日々。傍から見たら狂気かもしれない。当時作った椅子はインターハイ相当の展覧会に出せた。進路を考えたときに漠然と、なにか面白い

          ひたすら熱中してたらロケットを作っていた話

          韓国の新型ロケット「ヌリ」がちゃんとスゴイ件

          2022年6月に2号機で初めて打上げ成功した韓国の新型ロケット、「ヌリ」(計画名:KSLV-2)について、ネット上や報道だと下に見ている雰囲気を感じた。自分の認識は全く違って、素晴らしいロケットが出来ていると思っている。 韓国は最新トレンドを捉えた合理的で高レベルのロケット開発を成功させている。この事実は広く知られるべきだと思う。 一般的な概要については下記リンクを参考にして欲しい。ここでは私のようなロケット技術者からヌリがどう見えているかを書く。 経緯 韓国は政府が宇

          韓国の新型ロケット「ヌリ」がちゃんとスゴイ件

          宇宙ゴミに関してロケット開発側から思うこと

          宇宙ゴミ(宇宙デブリ、スペースデブリとも言う)についてよく聞かれるのでnoteでも2022年の1月につぶやいていた内容を転載しておく。 宇宙ゴミ(スペースデブリ)は、正確な事実を元に役割の別を明確に認識された上で意見貰いたい。実は役割としては助ける側なのに、全く理解なく雰囲気で批判されるので困っている。本当に困っている。 口頭で説明すると簡単にでも10分ぐらい早口で話すのだが、ここでは端的に書く。 国別・原因別のデブリの数 まず、国別・原因別のデブリの数。(2017年な

          宇宙ゴミに関してロケット開発側から思うこと

          再使用ロケットの1段目戦略(論文紹介)

          これまで、再使用ロケットについて記事を書いてきた。国内だけでも再使用ロケットは手を動かし着実に進めている人もいれば、懐疑派(自分がそうだ)もいる。 宇宙開発プロ&ファンでも再使用ロケットについて、NASAが大好きで盲目的にSpace Shuttleを推す人は少なくなったが、SpaceXが大好きで盲目的にFalcon9やStarshipを推す人は多い(自分も半分はそうだ)。 再使用ロケットの議論が複雑なのは、論点がゴチャゴチャだからだと思っている。 技術論:そもそも技術的に可

          再使用ロケットの1段目戦略(論文紹介)

          ロケット打上げと緯度の話

          ロケット射場は赤道近くが良いだろうと信じている人は多い。実際にそうなのだろうか? 結論:目的の軌道(目的地)による ロケット打上げには人工衛星ごとの目的地がある。 宇宙空間では特定の1点に留まることは出来ない。したがって地球周辺であれば地球周回軌道というところで運動し続ける。 射場緯度の有利不利はこの目的の軌道に依存する。 静止軌道と地球低軌道静止軌道という軌道は赤道直上の高度約3.6万kmにある。日本上空にいれば、ずっと日本上空に見える極めて特殊な軌道。この静止軌道は気

          ロケット打上げと緯度の話

          再使用ロケットの経済性

          最近、世界中で再使用ロケット開発の機運が高まっている。再使用ロケット、つまり打ち上げた後に着陸・回収して繰り返し使うロケットのことだ。 これはSDGsの文脈が強くなってきたことに加え、SpaceXやBlue Originのロケットの派手な演出のためだろう。SpaceXのロケットの着陸する姿は多くの人を興奮させた。 ちなみに、スペースシャトルも1980年代には開発された再使用ロケットなのだが、色々あって再使用しても全く経済的で無かったので、最近では再使用ロケット枠に入れられ

          再使用ロケットの経済性