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fictional diary#14 想像上の象

バスを待っていた。季節にしては暑すぎるくらいのよく晴れた日で、わたしは着てきた上着を脱いだ。バス停には何人かほかの観光客も並んでいて、ガイドブックやカメラを手に楽しそうにおしゃべりをしていた。バスの行き先は有名な遺跡だった。草原の真ん中にそびえたつ、高さ25メートル、重さ5トン以上の、中途半端に巨大な象の像。象なんてまったくいないこの国に、なぜそんな遺跡があるのかは、世界七不思議に入るほどではないけど、歴史上のおおきな謎のひとつだ。昔々その像、もとい象をつくった人たちは、ほんとうに象を見たことがあったのだろうか。それとも絵で見ただけだったのか、話を聞いただけで、姿形は知らなかったのか。そんなことに思いを巡らせながら、やってきた青い車体のバスに乗りこんだ。窓際の席に座って、2時間ほどガタゴトと道を揺られていった。目的地にたどり着いて、料金を払ってバスから出ると、空はさっきより少し曇っていて、わたしはさっき脱いだ上着をもういちど着込んだ。目の前には、黄色に近いような乾いた色の草が生い茂る野原が広がっていた。その真ん中に堂々とそびえ立つ象は、灰色で、巨大で、どこかバランスが悪かった。おしりが大きすぎ、鼻はすこし短めで、長いキバが生えており、まるで絶滅した恐竜みたいだった。その象を見上げながら、ああ、これを作ったひとたちは、象を見たことがなくて、おそらくは遠い国に旅してきた誰かの話を聞いて、想像でこの像を作り上げたんだな、と思うと、象のアンバランスさがなんだかとても可愛く見えてきて、おもわず声に出して笑ってしまった。


Fictional Diary..... in企画(あいえぬきかく)主宰、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!