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fictional diary#13 鈴の木

背の高い、わたしの国ではあまり見たことのない木がたくさん生えている、広い公園を散歩していた。町のいちばん真ん中にある公園なのに、驚くほど静かで、風が枯れ木や芝生を揺らすさわさわとした音がよく耳に入ってくる。誰かが手入れしているらしいきれいな芝生をじっと眺めながら歩いていたら、地面に木の実が落ちているのを見つけた。胡桃くらいのおおきさだけど、それよりもっと小ぶりで、色は黒に近いような濃い茶色。手をのばして拾った。耳のそばで振ってみると、鈴のようなチリチリというかすかな音が聞こえる。中身が見たくて殻を砕こうとしたけど、歯で噛んでみても、固い石にぶつけてみても全く割れなかった。小さな鈴の音をたてる木の実が、木にたくさん実って、風がその枝を揺らすところを想像してみた。まるでこの世のものではないような音色がきっと公園を包むのだろう。外国に行くと、珍しいことに出会えるものだなと感心して、わたしは、木の実の落とし主であるらしい高い木を見上げた。


Fictional Diary..... in企画(あいえぬきかく)主宰、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!