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社長のプレゼンテーション能力が尋常ではない。それでもプレゼンの改善点を指摘をしてみた。結果は良かった!

1. ICMの経営フォーラムの準備

社長秘書は何人かいる。そのうち女性の社長秘書がタイムスケジュールを管理する。丸山さんがその社長秘書だ。

「ICMの件で、30分ほど時間を確保したいのですが」と彼女に伝えると、モレスキンの巨大なスケジュール帳を開いてくれる。このモレスキンは代々引き継がれているようだ。

「今日の16:20なら30分とれます」と分刻みのスケジュールに組み込んでくれた。

ついてで、スケジュール帳を見せてもらった。「ノートの左に1日のタイムスケジュール、右にその要件と内容」がきれいな字で書かれている。分刻みだ。多忙だ。朝から打合せが3件、そのあと大臣とランチミーティング。午後からは部長研修だ。

「外出とか、海外出張とは無いんですか」と聞くと、移動する時間がかかるので社内にいることが多いと言う。社長は飛び回っているイメージがあるが、社内にいるのが基本のようだ

ICMのフォーラムの打合せの時間になった。今回は木下課長と社長室に入っていく。ICM用の資料は、木下課長がたたき台を作ってくれている。

社長室に入り、さっそく資料を見てもらう。

社長室は広い。社長の執務用デスク以外に打合せ用デスクがある。そこでパワーポイントの紙資料、50枚ほどをみてもらうことになった。

七田社長の手には赤鉛筆がある。その赤鉛筆でシャカシャカと資料の内容を変えていく。木下課長とぼくは、それを見ているだけだ。50枚の資料もあっという間に見終わった。紙資料には赤鉛筆で、真っ赤になっている。速記でバンバン書いていったにも関わらず、とてもきれい、わかりやすい字だ。

「これで修正しておいて」と渡される。「承知しました」と2名が踵を返す。

木下課長が言う。

「なぜか、あのくらいの60歳を超える年代の経営者は赤鉛筆を使う人が多いんだ。うちの社外取締役も赤鉛筆つかんだよ。真似して私も使ってみたけど、良さがわからなかったね」と、デジタル派なのかiPadを手にしながら、そんなことを言う。

そして、「それでは稲盛さん、修正よろしく。あと、社長が帰るときにUSBに入れて資料を渡して。今晩、帰宅後に社長が最終チェックするから」と。

会食が終わる時間が23時だと聞く。それからまた仕事をするのか、社長も大変だ。

2. ICMフォーラムへ

「ICMですけど、資料はまだでしょうか」と早朝問い合わせがくる。本日の午前中に印刷をしなければならなく、催促の電話だ。さすが世界最大のIT企業。「トムソンが勝手に電話しているのではないか」と疑ってしまうほど、絶妙なタイミングで電話してくる。

ICMの経営フォーラムは500人ほどの参加者だ。日経新聞に、経営セミナーの案内が載っていることがある。一人数万円するセミナー。それと同じような会合だ。

早朝、七田社長より最終版をUSBで渡された。誤字脱字を、ぼくが最終チェックしており、それがちょうど終わったタイミングだった。さっそくICMの事務局に資料をメールした。

資料の内容は、うちの会社がどのように発展してきたか、またマーケットの環境、そして七田社長が大切にしている言葉などが書かれている。ありふれた内容だったので、資料を見てもさほど面白みを感じられなかった。

ICMフォーラムに出発する時間が来た。七田社長がエレベーターで降りるタイミングに合わせて、ぼくは待ち伏せだ。資料一式をもって、まるで芸能人を待ち伏せするように、社長を待つ。

社長が出てくる。40階から地下一階の車寄せに移動する。エレベーターに社長と二人きりは重苦しい。適当な会話をしても、別のことを考えているのか「ああ、そう」という反応だけである。重たい空気だ。

地下一階につくと、レクサスが待ち構えている。運転手がドアを開けるとスィーと社長が入っていく。私は逆側に回って、後部座席に座る。すると、

「きみ、秘書は助手席に座るものだぞ。覚えておきなさい」と戒められる。反省しながら、大手町にある経団連フォーラム会場に到着する。

会場の車寄せに3人が待機している。待ってましたと、レクサスのドアを開ける。「七田社長、お待ちしておりました!」と仰々しく、挨拶をします。「ささ、こちらへ」と言われるがままに、応接室に入ることに。

応接室に入ると、七田社長とともに登壇する社長がいる。誰もが知っている航空会社の社長だ。お互い知り合いのようだ。仲良く話している。ぼくは少し後ろに座りながら、貰った、おーいお茶を飲む。

3. 七田社長の登壇

七田社長の紹介があると、登壇し、話が始まる。「成長するための思考・行動」というタイトルだ。500人の参加者がいる。有名企業の部長以上が参加者とのことだ。重々しい雰囲気だ。参加料5万円なので、みんな本気だ。

社長のプレゼンテーションは初めて見る。山田部長の言ってた通り、かなりうまい。私はゲストとして前に座っているので、参加者が目の色かえて、ノートに書いているのが分かる。

その内容もさることながら、よどみがない。理路整然としている。迫力がある。グイグイと惹きつけられれて、聞き入ってしまう。講演者として引っ張りだこと聞くが、確かにこれならば納得である。

一時間半ほどである。最初から最後まで、聞き続けてしまうプレゼンテーションであった。


どのように良かったか、一概には言えないが、特徴をあげるならば、

・自信満々。言い切って言葉に迷いがない。曖昧なことでも白黒つける。

・「すわなわ、ようするに、いわゆる、そして、結局は」など理路整然になる接続詞を多用する。

・話に入る前に、「なぜこの話をするか」の目的を常に提示する。そのため聞いている人たちは、内容の把握がしっかりとできる。


社長のプレゼンテーション力の高さに、そしてその威圧感に、改めて思う。

ラオウだ。

4. ビビながら突っ込んでみる 

ICM事務局に書類を渡される。見ると、20万円支払います、という書かれている。「口座を後程、ご連絡ください」と言ってくるが、個人なのか、会社なのか、不明だ。この点はグレーでやり取りしているのだろう。社長の懐具合は不明だが、20万円は大したお金ではないのだろう。

「ありがとうございました」と仰々しく見送られる。まえには航空会社の社長のレクサスがあり、その後ろに我々のレクサスがある。

助手席に座る。すると「後部座席に来い」と言われる。さっきは、後部座席に座って指摘されたのに、ややこしい。

経団連フォーラム会場を後にする。

会社に戻ると、この土曜日に控える日本効率協会のセミナー資料を作成することになった。ICMの内容を類似するのと、たまたま社長の時間が空いていたため、「鉄は熱いうちに打て」なのか社長の執務室で打合せだ。

社長であっても自分のことは気になるのだろう。今日のプレゼンテーションの印象を聞いてきた。

ぼくは素直に「すごかったです」という。すると、つまらなそうな顔で「ああ、そうか」と言う。せっかく褒めたのに、お気に召さないよう様子だ

そのあと、早速、日本効率協会の資料作成に取り掛かった。ぼくはふと思った。「さきほど、褒めたときに、いまいちそうな顔をしていた。それならば、今回は厳しい言葉を投げてみよう」と。

資料作成はICMとほぼ同じ体裁で作ることになった。そこで、「先ほど、ここの話はイマイチ分かりずらかったです。」、「ここは意味不明でした」、「こっちはロジック崩壊していました」とプレゼンテーションにケチをつけながら、資料の改良を促してみた。

すると、「おお、そうか」と多少なりとも響いた反応をしてきた。

のちに気づいたことではある。社長クラスになるとYesマンが群がる。面と向かって、厳しい意見を言う人は皆無。そもそも意見を言わなくなる。その状態に社長クラスは、不満を覚えているのだ。そこで、バシバシ言ってくる社員は「こいつなかなか骨がある」となるのだ。ちょっと怖いが試してみるといいと思う。

そんな逆説的な話は聞いたことがあったが、自分がやってみて、本当に効果があると実感した。「社長クラスには遠慮せずにバシバシいうこと」。これが良いということは覚えておきたい。

この遠慮ない意見を投げつけたためだろう。社長が山田部長に「今回の奴は、なかなかやるぞ」と好評価をしていたようだ。これは最初だけだが。。。



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