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負けた社長候補。組織に属することとのコツは負け戦を避ける。専務の事例から。

1.秘書室のモニター

当社の秘書室内には役員の動きが分かるモニターがある。シャープ亀山モデルの30インチのテレビが6つ、壁に掛けられている。

その6つのモニターで役員フロアにいるすべての役員が手に取るように分かる。これはどこの会社も同じで、役員の動きを随時みている。電話の取次ぎ、面談などに不備があってはならないからだろう。

さらにフロア内のみでなく、役員フロアの入り口もモニターで映し出されており、誰が来たかは一目瞭然だ。

また、部屋の出入りを知らせる音声があり、社長が部屋から出てきたら「社長・社長」と知らせてくれる。その機械音が鳴ったら秘書は顔を上げてモニターをチェックする。こんな完璧な設計だ。

1月になると人事案件でバタバタする。そのため秘書室のモニターにたくさんの人が行き来しているのが見える。

2.社長候補として挙げられていた専務

木曜日の夕方に、ボーっとモニターを見ていると専務が役員フロアに入ってくる。彼は取締役だが事業担当なので役員フロアにはおらず、27階に執務室がある。ウィーンと自動ドアがあき、役員フロア内にある秘書室の前をとおり、「社長・社長」という音声が流れ、社長の部屋のなかに入っていくのがモニターに見える。

30分くらい経ち、「社長・社長」という機械音が鳴り響き、専務が出てくる。モニターで見ながら専務が歩いて出てくるのを確認する。秘書室の前を通る。顔はやや強張っている。

専務の担当事業は、ここ数年赤字続きである。マクロ環境的にも、商品的にも、誰がやっても赤字になりそうな部門だが、責任はトップに立つ専務にある。先ほど、社長はこの専務に退任を告げた。当然、顔は強張るだろう。

3.政治家から認められなかった専務

元々、この専務は新社長の対抗馬として扱われていた。つい2年ほど前の話しである。

当社には、社長を決めるプロセスに社外アドバイザー6名でなる指名委員会がある。その会議で専務と現社長が取り上げられ、2年前に七田社長は専務を押した。

すると外国人アドバイザーが「NOooooo」と強烈に拒否反応を示した。かれはお爺ちゃんで会議に出ていても、半分寝ているような状態で、コメントも「御社はすばらしい。将来のびる」とばかり言う。そののんびりした外国人アドバイザーが目を見開き拒否反応を示したのに、すべての人が「え!」と驚いた。

彼はフランスの元大臣。超大物政治家である。アドバイザー達は「彼がそれほど強く言うならば、再検討が必要なのではないか」という議論になり、社長交代を1年遅らせた。

それが専務の運のつきであった。翌年、七田社長が押したのは、業績悪化の事業を抱える専務ではなかった。

そして、まさに今、専務は任期を待たずに「退任」を言い渡された。引責辞任といっても過言ではないだろう。

とぼとぼ歩いている後姿をモニターで見ながら、切ない気持ちになる。ただ、専務までいけばサラリーマンとしては十分もとは取れただろう。終わりよければ、とは成らなかったが、十分だ。役員の期間のみで、2億円は稼いでいるはずだ。

やはり、組織において属している部門というのはひどく重要だ。マクロ的に儲かっていれば、能力が無くても有能と評価されることもあるし、給料も増える。逆に、どんなに能力が高くても、マクロ的にアゲインストな事業におり赤字になれば、「バカ」扱いだ。

専務が、フィルム事業を担当したのは3年前。もし別の事業を担当していたら結果は違っただろう。組織内の振る舞いとして、儲かっている部署に自分をもっていくように仕向けることは一つのスキル。彼が足りなかったのはそれかも知れない。

一方、ひたすら赤字を続けながらも副社長になった人がいる。この人は能力があるのか定かではない。ただ、キャラクターが明るく、かつ弁が立つ。

そのキャラクターがゆえに、赤字事業を続けながら、副社長になり、そして特別顧問という隠居職にも上手につくことが出来たのだと思う。専務は、弁は立つが、キャラクターとしては明るくない。もしキャラクターが違っていたら、また終わり方も変わっただろう。

会社員はむずかしいものだ。

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