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文化伝播のきっかけとは?獅子舞の爆発的ヒットの背景に迫る<富山編>

富山県は日本全国の中でも屈指の獅子舞の数を誇る。それゆえ、地域の人々は富山県のことを「獅子舞王国」と呼ぶ場合もある。なぜこれほどまで獅子舞が盛んなのだろうか?今までの取材で分かったことをここで概観しておこう。

獅子舞の数が多い富山県

富山県は氷見市に限らず、県全体的にも獅子舞の伝承数が多い。1000以上の数が確認されている。なぜこれだけ多くの獅子舞が富山県には受け継がれているのだろうか?祭りを支える経済的な基盤や、工芸品を制作する文化的な土壌があり、祭り道具がどんどん華やかになっていったこことももちろん理由の1つだろう。以前、南砺市で地域の学芸員の方が獅子舞をテーマにした講演会をされていて、そのときに伺ったことには「一番は外から来た文化を取りこむ力があったのではないか」とおっしゃっていた。富山県は隣の石川県の加賀獅子のような独自の獅子舞の形態を作り上げてきたわけではない。しかし、加賀、飛騨、越後など様々な方面から獅子舞の文化を取り入れ、それを自分のものにしていく力があったのではないかともお話しされていてなるほどと思った。文化伝来の道のりが東西南の三方から押し寄せ、文化の吹き溜まりとしての様相を呈したのだ。その結果として、砺波獅子、金蔵獅子、氷見獅子、射水獅子など様々な形態が生まれた。

獅子舞が広まっていくきっかけ

それでは、獅子舞が広まっていく背景についてもう少し考えてみたい。例えば、日本屈指の獅子舞数を誇る富山県氷見市に行ったとき、200弱の獅子舞が伝承されているようだが、なぜこんなに多いのか?を聞いてみた。氷見市には神社が177社あり、とても数が多いのが獅子舞の数の多さとの関係しているかもしれないという答えが返ってきた。お宮1つに1つの獅子舞という意識があり、小さな祠であっても1社と数え、獅子舞を伝承しているところもあるらしい。そう言う意味では、祈りの細分化が獅子舞の伝承数と関わっているのかもしれない。

1つの町内に4つの神社があり4つの獅子舞がある場合もあるという。また戸数が約30しかないにもかかわらず、獅子舞の道具を揃えるのに730万円かかり、一戸あたり換算で20万円以上の出費が必要だった町もあるらしい。そう考えると、祭り魂があるだけでなく、経済的に裕福でないと成り立たない発想でもあるだろう。

また地域によっては、舞い方が同じだと春と秋で分担してお互いの地域を回り合うという場合もあるようだ。氷見市含む呉西地区では結婚をしたら妻は故郷を離れるが、祭りの時には結婚した夫とともに戻ってくるのが習慣にもなっているらしい。そういう神社や行政的な境界を超えて繋がりを生む交流関係の中から、祭りの盛り上がりが生まれていったのかもしれない。

獅子舞団体が一同に会する機会

富山県南砺市などでは、獅子舞の講演会とセットで獅子舞団体同士の交流会が行われる場合がある。また、富山県には「共演会」という複数の獅子舞団体が集まり演舞を披露し合う機会が設けられる。高岡市、小矢部市、氷見市、射水市、南砺市など県内各所で開催されており、春に行われる場合が多い。

富山県の獅子舞情報を集約

獅子魂というサイトでは、富山県の獅子舞に関しての情報が集約&公開されている。市町村ごとにどのような獅子舞がいくつあるのかが、一覧でわかるようになっているのだ。こちらのサイトを運営されているのが獅子魂プロジェクト実行委員会という団体で、獅子舞団体の登録や応援するサポーターの募集も行なっている。富山県の有志が集い獅子舞を盛り上げていこうという熱量を感じる。有志の人々だけでなく、行政が主導して獅子舞の情報をオープンソース化していく動きも見られる。例えば、富山県南砺市では「南砺市芸術文化アーカイブズ」というサイトで「獅子舞」コーナーが設けられ、南砺市内の獅子舞の情報が一覧でまとまっている。県単位だけでなく、市区町村の単位でも獅子舞の情報が集約&公開がされているのだ。

日常に息づく獅子舞文化

富山県には全域的に日常の中で様々なところに獅子舞が溢れている。例えば、高岡市と射水市の新湊を結ぶ路面電車の万葉線は、2020年より獅子のデザインの「獅子舞トラム」の運転を開始した。カフェに行けば獅子舞がかたどられたモナカが売っているし、子供が作って遊べる段ボールの獅子舞「ダン獅子」を作って遊ぶ文化が根付いている地域もある。このように祭りの日だけでなく日常的な場にも獅子舞が溢れているのだ。近年は人口減少などの影響で全国的に獅子舞の実施は減っている。ただ、富山県の取り組みを見ていると、全く獅子舞を知らなかった人でもその存在を日常の中で意識するような機会は増えているようにも感じる。一部の担い手が盛り上がることに留まらず、それを生活のささやかなところでじっくりと受け継いでいく意識を感じるのだ。獅子舞文化が根付く背景として、究極的には獅子舞が日常の生活文化にどれだけ浸透しているかと言う視点が大事だと感じる。

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