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【詩】凪 ー3月11日ー

 全てを奪った海は、
 何事も無かった様に落ち着いている。
 あっけらかんとした水面に、
 やり場のない悲しみを浮かべた。

 かつての町々の営みも、
 あの笑いあった通学路も、
 毎年の楽しみだった祭囃子も、
 しんしんと降った雪の美しさも、
 お小遣いをくれた祖父母の笑みも、
 温かい母の手料理も。

 ……戻る事の無い、全て。

 潮風吹かれ、
 僕はとうとう大人になった。
 僕は嫌いになったそれ等を、
 眺める事しか無かった。

 一新した町々。
 歩み出した時間。
 変わってしまった生活の中、
 今年も変わらずあの時間がやってくる。

 「……黙祷」
 今日の海は、凪である。

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