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インドでおなかを守る極意と、インド的「下請け文化」の考察-②

(こちらの記事は、前回の投稿の続きとなります。インドでおなかを守る極意「習慣編」は、こちらの①の投稿をご覧ください
 

今回紹介するのは、インドでおなかを守る極意「道具編」である。
日本には素晴らしいグッズが揃っており、か弱い異邦人の我々も文明の利器を使ってインドの環境を制し、おなかを守ることができる。「道具を使った守り」に共通する特性は、もしもの時、その道具はあなただけでなく同行者も守ることができる点である。仮に同行者の具合が悪くなった場合、結局あなたの予定も崩れることになるのだから、せっかくの旅行や仕事の予定がダメになる前に、運命共同体としてお互いに助け合うことが大切だ。

時代を経るごとにインドの環境も変化し、使えるアイテムも変化していくため、今回紹介するアイテムは2024年現在のものである。ただ、10年近く前にインドを訪れた時もこれらの道具は役に立ったし、10年後も変わらず役に立つだろう。ここでは、それだけ基本的なアイテムを紹介している。

インドでおなかを守ってくれるアイテムは、「七つ道具:7つのP」として、次の通り纏めることができる。
 
1.  (P)ocket wet tissue : ウェットティッシュ
2.  (P)lastic straw : 自前のストロー 
3.  (P)aper for toilette : トイレットペーパー
4.  (P)lastic bag : 小さなビニール袋 
5.  (P)ocarisweat powder : ポカリスウェットの粉 
6.  (P)ants : 替えのパンツ 
7.  (P)lastic bottled water : ペットボトルの水 


これら「7つのP」の内、①~④についてはウェストポーチやポケットに常備しておきたいアイテム。⑤~⑦はビジネスバックや旅行カバンに入れておきたいアイテムである。アイテムをどのように持ち歩くかも、おなかを守るポイントとなるので、その点もこの後説明していく。


①  Pocket wet tissue : ウェットティッシュ 
7つのPの内、何よりも役に立つアイテムは、ウェットティッシュである。
日本ではポケットに入るサイズに小分けにされた便利な形でウェットティッシュが販売されているので、是非それを必ず携帯しておきたい。前回紹介したインドでおなかを守る「5W1H」の習慣の中で、手洗いや食器を拭く行為を説明した。ウェットティッシュは、まずこの用途で活躍してくれる。手洗いは必ず慣行してほしいが、うまくそのタイミングを取れないこともあるだろう。特に接待の時などは、会食時の流れもあるので自分だけ急に席を外すことが難しい場面もある。そうでなくとも単純に手を洗いに行くのが面倒くさい時もある。そんな時、ポケットに携帯できるサイズのウェットティッシュは役に立つ。食器を拭く際も、テーブルの上にある紙ティッシュがどことなく信用ならないかもしれない。そんな時自前のウェットティッシュがあれば、自信を持って食器を拭くことができる。
コンパクトな携帯型ウェットティッシュはインドではなかなか手に入りにくいので、駐在する場合は渡航時に大量に持参したり、日本に一時帰国した際に調達したりするとよい。もちろんインドにも売っているが、一度開けたら袋の蓋が閉まらず水分の保持ができないものだったり、プラスチックの大きなボトルに入ったものだったりする。ウェットティッシュは、他人に容易に共有できるし、緊急の時はトイレットペーパーの代わりにもなる。さらに、食べ物が服にこぼれた時にも使えるし、何か怪我をした時にも清潔な布として使用できる。多方面で役立つ最強の万能選手なのである。
 
②   Plastic straw : 自前のストロー
「5W1H」の中で、"Wary on can and cup"という習慣を説明した。缶や瓶やコップの飲み口は不衛生な可能性が高いので、直接口をつけずにストローを使って飲むように気を付ける習慣のことである。取引先や現地の先輩駐在員に連れられて食事に行くような都市部のレストランであれば、ほぼ100%レストラン側がストローを提供してくれる。しかし、出張中にローカルのレストランに突然入るような場合や、道中の商店で瓶や缶飲料を買う際はストローが提供されない可能性もある。そんな時に役立つのは自前のプラスチックストローだ。これを携帯しておけば、不測の事態に対応することができる。紙のストローでも用途は果たすが、持ち歩いている間に不意に折れ曲がってしまったり、湿気が多いシーズンには気づいたら湿っていることもあるので、プラスチックストローが一番おすすめである。

 
③   Paper for toilette : トイレットペーパー
おなかを壊した場合の事後対応の道具であり、おなかを壊すかどうかに関わらず、インドでは必ず自己責任で携帯するべきアイテムである。最近はインドのトイレも随分ペーパーが付くようになったが、少しでも田舎に行ったり、外国人が使うことが少ない場所にあるトイレは、ホースか水桶しかない。やっとトイレに駆け込んで紙がなかった時の絶望は筆舌に尽くしがたい。ただペーパーが切れているのではなく、デフォルトでペーパーを設置する気がないので、係員に言ったとしてもペーパーは出てこない。自前のトイレットペーパーを持っていない時点でゲームオーバーである。ペーパーが常備されているトイレがなかなか見つからないからといって便意を我慢すると、それが原因でおなかを壊すこともある。出したい時に出すことも、おなかを守るための行動だ。
トイレットペーパーを持っていたとしてもまだ安心してはいけない。トイレットペーパーは、ビジネスバックやスーツケースに入れずに、必ず手持ちのウェストポーチやポケットにいれておくべきだ。もよおしたときに必ずしもバックが手元にない可能性もあるからだ。なぜそのような状況が発生しやすいかはこの後説明する。

 
④   Plastic bag : 小さなビニール袋
インドで本格的にお腹を壊した場合、お尻のほうからだけでなく、突然の吐き気に襲われることもある。
それはオフィスの中かもしれないし、車の中かもしれないし、飛行機の中かもしれない。トイレに駆け込もうしても、簡単にトイレを発見できるわけではないし、これだけ人がうじゃうじゃいると、やっと見つけたトイレは「使用中」という絶望が頻繁に起きる。そんな環境で吐き気をもよおすという危機的状況に対応するために、小さなビニール袋を携帯するとよい。これを携帯しているという安心感だけでも心強い。モディ首相が物凄い勢いで道路網を整備しているが、インドの道は少し脇道に入ればまだまだ整備されていないでこぼこ道である。ドライバーの運転も日本基準からすれば相当乱暴なので移動中に酔う可能性は十分にある。どこに行くにも人が多いので、人混みで酔ってしまう。前日食べたインドカレーで胃もたれしているかもしれない。インドはこのような最悪の条件が揃いやすいので、その時の備えをしておくべきである。
 

さて、「7つのP」の4つ目まで紹介したところで、少し話が脱線する。
①~④はバックパックやスーツケースではなく、どんな時でも手元から離すことがないウェストポーチなどのボディバック系のもの、それが難しければ服のポケットに入れておくことを強くお勧めする、と冒頭述べた。それは、急にトイレに行きたくなったり、吐き気を催したりした時に、バックパックやスーツケースが手元にない可能性が十分に考えられるからだ。

実際にインドを体験したことがない場合、直感的に理解しにくいかもしれないが、インドでは「バカバカしいことが頻繁に起こる」。例えば、車の中にバックはあるがドライバーが中で昼寝をしていて起きないとか、訪問先の会社の会議室にバックをおいたが、しばらく工場見学で留守にしている間に施錠されて、警備員がカギを持ったままランチに出かけたとか、こういったレベルのことがあちこちで発生する。そのような不確定性が高い状況下において、「身に着けているかどうか」が危機対応の鍵になる。身に着けていないものは、いつアクセスできなくなってもおかしくはないのだ。

インドの伝統衣装を思い浮かべてみると、金のネックレスなどがジャラジャラとついているのをイメージできるだろう。これらは宝飾品であるが、その起源は装飾と同時に財産を自分のアクセス可能な場所に身に着けておく行為なのである。今でもインド民の手元を見ると男性でも大きな純金の指輪に宝石が埋まっているようなものをつけている。金のネックレスや腕輪をしている人も多い。これは別に彼らがカニエ・ウェストになりたいのではなく、男性であっても両親や妻からプレゼントされたりしたものをお守り兼「財産」として身に着けているのだ。このたしなみ及び文化はインドから以西の中東地域でも見られる。トムクランシ―原作の人気ドラマシリーズ「ジャックライアン」にて、難民になってしまった中東の女性が、身に着けている金の腕輪を売って逃亡の資金を工面する場面があるが、これはまさに元来想定された用途に活用できたケースである。
 

⑤ ポカリスウェットの粉
何度インドで助けられたかわからない日本が発明したすばらしい商品がポカリスウェットの粉末だ。小分けになっていて1リットルの水に溶かせばすぐに飲めるような形で販売している。出張の際は、これを1、2袋でよいので、日本から持参しておくとよい。駐在する場合は箱買いMustな商品である。
下痢になったときにはとにかく脱水症状が心配だ。これがあれば、なんとかそのような深刻な事態になるのを防ぐ助けになる。インドもポカリスウェットに似た商品があるが、味が極めてマズイだけでなく、中身がどれだけポカリスウェットに似通っているか分からない。ポカリスウェットの粉ならば効果は保証されている上に、日本から持参することも保存することもできるので頼もしい味方である。駐在先の自宅に常備しておくのはもとより、出張先に持っていったりすれば、いざというときに頼もしい見方になる。とりあえず脱水症状にならなければ、いくらひどい下痢になったとしても生命の危機に陥ることは少ない。おなかの問題だけでなく、風邪などの体調不良の時にもこの商品は役に立つ。デリーやバンガロールなどの内陸地域は、昼と夜の寒暖差が激しい。インドのホテルの空調の質も悪く、デリーは季節によっては大気汚染も深刻なので、渡航時に風邪をひく方も多い。そんな時に早い回復のためにも塩分と糖分を摂取することは必須であり、ポカリスウェットは心強いアイテムだ。
非常に細かい点であるが、空港の手荷物検査などで引っかからないように、ポカリスウェットの粉はわざわざ包装から出すことなく、素直にそのままの状態で持っていくことに注意だ。

 
⑥ ペットボトルの水
インド民のバックパックを見る機会があったら、その横に水筒が当たり前のように刺さっていることに気付くだろう。インドにおいて自分がいつでも飲めるように安全な水を携帯することは常識である。下痢は熱中症の症状のひとつとして発生することもあり、その防止のためにはこまめな水分補給が必要だ。しかし、前の記事の通り、安全な水にアクセスすることは簡単ではないため、いつでも自分の手元に飲料水を携帯している必要がある。インド民は自宅から水筒を持ってきているが、出張者や旅行者はそれも難しいと思うので、せめてペットボトルの水は常時鞄に携帯してほしい。当然ながら買った時には開封されていないか確認しておこう。
インドは水に関しては非常に興味深い文化を持っており、水の携帯とアクセスは聖域的な立場にあるので、国内線の飛行機に乗る際も水であれば手荷物チェックの時にとがめられないという不思議なことが起きている。物乞いが来た時も、ただの物乞いであれば、軽くあしらっているインド民だが、「パ二(水)をください」という依頼に対してはほぼ必ず対応している。バスの運転手もタクシードライバーもわざわざ窓を開けて道の物乞いに自分が持っているペットボトル水をあげたりする。家にエアコンのメンテナンスに来たオヤジが何も悪びれるそびれもなく、「水を汲ませろ」と言ってきたりする。それだけ、水を手元に置いてくということは、インドで生きるために必要不可欠なたしなみなのである。

 
⑦ 替えのパンツ
単純にうんこを漏らした時のためである。インドで下痢になった場合、日本の下痢とは比べ物にならないくらい水下痢が起き、我慢しきれずにパンツが汚れることがある。替えのパンツをバックの中に入れておくことは緊急時の用意として必要なことだ。私もこの替えのパンツに助られたことがある。うんこが付いたパンツで次の取引先との会議に出席せずに済んだ。インドは日本のようになんでも売っているコンビニが珍しく、衣類を買う場合は、それを売っている個別の商店に行かないといけない。しかし、土地勘がない場所でパンツを売っているお店を即座に探しだすのは至難の業である。しかもその時あなたはノーパンである。
 
インドに慣れてくると、だんだんと体も順応してきて、何回かの深刻な体調不良を経て、おなかを壊す回数は減ってくる。しかし、それは体が慣れてきただけでなく、リスクファクターを認識して必要な道具を駆使して、それらを避けられるようになったからでもある。しかし、そこに至るまで苦労を一人一人がする必要はない。ある程度の基本動作を実行すればリスクはかなり減らせる。旅行者や出張者ならなおさら試行錯誤をしている暇はない。十分な注意と準備の下にインドを効率よく回って本来の目的を果たせばよい。

次の投稿は、インドの衛生環境の背景にある、インド的「下請け文化」について記載したいと思います。)


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