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『メダリスト』感想(1)

7巻まで。

・7巻までのネタバレあり
・批判めいた感想が多いので注意


面白い。面白い……が!! 欠点はいくつかあります。明白に。
ひとつ、釣りが多すぎる。こんなに正道な漫画なのに、クリフハンガーの使い方がチェンソーマンのそれと変わらない。ぱっと思いつくだけでも

  • 「西の強豪」編のいのりのパフォーマンス

    • 演技の最後に転倒し、ダメージに顔を歪める描写があり、その後すぐ深刻な顔をした司先生によって医務室に連れて行かれるところで話が終わる。しかし結局ただの捻挫でシンスプリントにもなっておらず、次以降の話にも何ら影響はなかった

  • 「金メダルが己の首を絞めていく」

    • 3Lz+3Fの練習をすべて捨てていたいのりが周りに置いていかれる焦燥感や今後の挫折を十全に匂わせたが、蓋を開ければ次話で両方とも一瞬で解決される

  • 司先生のハーネス特訓時の怪我

    • コマのラストに大げさに描写することで致命的打撃に見せたが、案の定蓋を開ければ大した怪我ではなかった

マガジン連載でしたっけ。ジャンプみたいなアンケート制度でもあるのか?そうとしか思えなくらい釣り方が露骨かつ雑。話が進むにつれてその傾向が強くなっている気がする。好きじゃないですねえ~(逆スキゾー)
これの何が問題かって、クリフハンガーというのは「その後どう解決されるか」が予測できないから緊張感と期待感を出すことができる手法なのに、ワンパターンに多用しすぎるとその後どう解決されるかが容易に読めてしまうから「茶番」でしかなくなるということです。7巻目くらいまで来ると例えばさっきの司先生の怪我の引きも「はいはい、どうせ大した事ない」というかなり信頼度強めの予測が働いてしまい、結果やはり大したことはなかったので、こういう茶番が挟まれるたびに減点になる。クリフハンガーを使ったとしても、釣りじゃなくて実際に深刻だったみたいなパターンが半々くらいあれば全然良いんですけど、この作品においてはほぼ100%釣り確定なのでもう機能していない。例えば『コードギアス』とかはその辺のバランス比較的良かったように思う。

その2。軋轢や挫折がない。全体論としてそうなんだけど、特に司先生といのりの関係性。1巻から7巻に至るまで、一度も喧嘩をしていない。ていうか喧嘩どころか些細ないざこざとか言い争いすらしていない。コーチと生徒という関係、それも多感な時期の小学生を相手にしているわけですから、冷静に考えてンなわけないんですよ。出会い方が特別だったとしても。実際対リオウくんや他の生徒&コーチの関係性ではある程度(プロレスだったとしても)そういう諍いは見られている。雨降って地固まる的な「過程」の扱いだったとしても。
この一度もすれ違わない関係性を、いのりと先生の信頼関係の証と取るにはいささか無理がある。

あのね…『信じる事』と『疑う事』って、きっと反対の意味じゃないと思うんだ。
疑いもするけど…それでも信じたい。その先にあるのが『信じる』って気持ちなんだよ。
だって…疑う余地のないハッキリしている事なら、信じる必要だってないでしょ?
誰かを信じる為にはね…『疑う』って事を乗り越えなきゃいけないんだよ。
『疑う』事を放棄した『信じる』なんて…そんなのただの嘘っぱちだよ。

七海千秋

互いにハイハイ従っているだけの関係性なんて強固でもなんでもない。
とはいえ、そもそも司先生といのり、双方の人格が出来すぎていてかつ双方のメンタルが超強靭であることも要因だとは思うけど。いのりは小学生にしては達観しすぎだし覚悟完了しすぎだし、司先生はブルアカの先生並に先生ぜんとしすぎていて互いに欠落がない・もしくは互いの欠落を補い合っているから火種が起き得ないというのはある。
ただ、それならそれでやはり「挫折」は必要だったと思うんです。軋轢か挫折、どっちかは要るだろうと。メダリストという戦いの舞台を描くなら。いのりは今の所完全サクセスストーリーで一度も敗退したことがない。(1回2位になったことはあるけど、あんなんは負けのうちに入らないでしょう)いきなり5級までトントン拍子で進むとかまでは、実際のスケートでも2Aが要求される段階までは割とスムーズに行くらしいからそこまで非現実的ではないんですけど、それ以降はどう考えてもちょっとやりすぎ。目指している舞台が全国大会っていうこともあって、それまでのバッジ試験とか予選は通過点というのはわかるんですけど、にしても行き過ぎよね。アニポケのヒカリですらもっと挫折してるよコンテストで。いのりを「天才少女」として描いてほしくはなかった。対となる光が(少なくとも世間的には)「天才少女」なのだから、それを追っているだけじゃ本末転倒だろうと。7巻もあれば2,3回は大会敗退しててもいいよね。司先生の「これこれこういう理由で”今”金メダル(優勝)が欲しい!」みたいなのも、初回はともかくとして結構毎回「今欲しい」って言ってるんでずっと今じゃねーかっていう。
いのりの言葉はいつも覚悟に満ちているが、その覚悟の真性を証明するバックグラウンドが氷上にひとつもないので、忍極風にいえば「運が良かった成功者の戯言」に取れなくもない。弛まぬ努力をしているのは他の選手も同じですから証明にならない。
作者としては氷上に上がるまでの苦しい過去で精算しているつもりなのかもしれないが、そこの動機からしてまずあまり納得していない。熱意はあるんだけど目的の詳細の意図が不明というか。世界一や打倒光に固執する理由が「誇れる自分になりたいから」だけでは曖昧すぎる。別に今でも十分誇れる自分であるはずですし。光に関してはヨダカジュンに先生を馬鹿にされたこともあるから代理戦争としてそれを動機にすることもできるんだけど、打倒光はそのイベントが起きる前からの目標だったので遡及して説明することはできない。まだ「死ぬほど負けず嫌いだから」とかの方が説得力あったんじゃないかと思う。……まぁ、それは明示されていないだけでそうな気もしますけど。いのりってかなり「幼稚で負けず嫌い」ですよね。リオウくんの時もなんかオリンピックで言い訳する気かみたいに言われた時も強気に実現可能性が薄いことを断定調で言い返していたから。ずっと「できらぁっ!」だよ。
そうね……せめて一回、一回くらいどっかでもうメッチャクチャに敗北すべきだったと思う。まぁ今からでも遅くは……いや、遅いけども。今からでもいいんですけど、何かここまで読んでいる感じだとこの作者が結束いのりを負けさせる気がしないんですよね。何が起ころうとも。そうなると一番まずいのではと思う。プロットアーマーを悟られると漫画は面白くならない。

インタビューを読むと作者のつるまいかだ氏自身が逆・蓮舫みたいなイデオロギーを持っているらしく、「一番」に相当固執しているようなのでその辺が漫画のテイストにあらわれているのかなと思う。多分この固執には理屈がないので、作者の中の想いは強くとも読者に一番の重要性をロジックで伝えきれていないんじゃないかと思う。

負けたことがあるというのがいつか 大きな財産になる

スラムダンク

今のところ、本当に、本当にいのりが負けるビジョンが見えないので、このまま光にもストレート勝ちして終わっても不思議ではないですね。そうなると10巻も続くかこのペースで?と思うので負けるのかもしれないけど。まぁ光にボコボコに負けるならまだ盛り上がれるかなぁ。挫折をずっと遠ざけていただけあって、ここにきて一旦ギャフンが入ると流れ変わる気がするので。

一応メダリストが「敗北について描かない作品」ではまったくないということには触れておく。むしろ敗者の心情や矜持の描写はかなり丁寧な方じゃないでしょうか。ただそれは主人公の結束いのりとは完全に隔離されており、どうも「役割」としていのり以外の全キャラにそれをもたせるという風に決めているんじゃないかという気がする。司先生もまた挫折を経験している一人だし。
結束いのりはいつの間にかそういった「冷たい気持ち」とは無関係の聖域に置かれてしまっている。初期と比べて身も心もタフになってしまったから多分ここから”絶望”しようがないんですよね。そういう意味では、やはり今から負けさせてもちょっと遅い。積み重ねた年数が少ないこともあって、結束いのりというキャラクターのサクセスストーリーに運や才能以外の説得力が薄いと思うんです。さっきも言ったように「努力」は選手なら誰もがやっているので、年数が伴わない限りフィクションにおいては説得力にならない。説得力をもたせられるのは「経験」であり、即ち挫折や葛藤。ところが『メダリスト』ではそういう要素が読者にとってストレス要素になり得ることを極度に恐れているきらいがあり、ハーネス訓練で3Lz+3Fをすっ飛ばしたのが一番わかりやすいけど、軒並み修行描写をトバしていく。挫折なき成功は空虚で物語としては映えない。

あと以前つるまいかだ氏は女性ではないか、と言ったと思うんですけど、訂正します。つるまいかだ氏は女性です。断言します。一応オフィシャルには性別不明だが、絶対に女性だ。私とアブドゥルと花京院の魂を賭けて良い。それだけです。

なんか批判ばかり書きましたが、私が作品の感想を書くときは基本的に気になった点しか書かないので、逆に言えばここに書いたこと以外のすべては面白かったということです。つまりトータル評価は「面白い」なので誤解なきよう。私が気になる点を書き出しまくるのは後世のためです。自身が物書きなので何を読むときもストーリーラインの欠点を参考にしたい。物語の「魅力」をパクることはとても難しいが、「欠点」を埋め合わせるという形でラーニングすることは其れと比較すれば圧倒的にやりやすく確実だからです。


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