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じぶんのいろ

 買ったばかりの青いバスタオルをご主人が不用意に洗濯機に投げ入れたものですから、その色が他の洗濯物に色うつりしてしまいました。
 黄色いタオルはたちまち若草色に。桃色のハンディタオルは紫色に。
 彼らはますます青ざめたバスタオルの背中を叩きます。
「実はオレ若草色が大好きだったんだ。気にするな」
「私だっていつまでも子どもじゃないからね。大人の色サイコー!」
 Tシャツはそんなやり取りを見て、
「人生いろいろ」
とまとめようとしますが、元々あんたは黒色だから色うつり関係ないわな、と軽く流されてしまいます。

 続いて皆が一斉に新顔のハンカチ、つまりあなた、に目をやります。
 真っ白のハンカチだったあなたは初めての洗濯機の渦で目を回して気を失いまだ自分の色に気付いていません。
 目を覚ましたあなたにバスタオルが「びっくりしてまた気絶するなよ」と前置きしてから申し訳なさそうに事実を打ち明けます。
 あなたは、え、という驚いた顔を一瞬浮かべた後、おそるおそる自分の姿を見ました。
 薄青色に染められすっかり変りはてた自分の姿。
 そこにいる皆はどう声を掛けたらいいやら判りません。
 気まずい沈黙を破ったのはあなたでした。

 実はね、ボクは自分の色が欲しかったんだ。
 なんでもいい。自分だけの色が欲しかったんだ。
 それが鈍色だったとしても、ムラがあったとしてもそれでもいいの。
 もちろん白はそれ自体素晴らしい色に違いないよ。
 だがいつまでもこのままでいられない。古くなってくるし汚れてくる。
 自分が真っ白のままでいるために周りの人にどれほど気を遣わせたり手を煩わせたりするのか。そんなことを思っていたら、だんだん自分の色が欲しくなってきたんだ。
 これがボクの色なんだね。今すごくどきどきしているよ。
 そうやって、あなたはあなたの言葉で気持ちを語るのです。
 
 今日も皆、色とりどりに仲良く並んで竿にぶら下がります。しっかり乾いたらまたそれぞれの役目に戻ります。
 自分の色を持ったあなたの出番が果たして増えたのか、舞台が変わったのか、実はあなたにもまだよくわかりません。
 そもそもあなた自身が決めた色でもありません。それでもいいのです。
 なにより自分の人生だと思えるようになったのだから。
 若草色のタオルは早速ご主人家族たちのピクニックにお伴するそうです。
 それは色関係ないだろ、とツッコミを入れたいところですが、あなたはだまって目を閉じます。
 今日はとにかく日向ぼっこが気持ちいいのです。