見出し画像

医療大麻をがん治療に取り入れる目的  その2:がんを治す

前回の記事では、大麻ががんの標準治療による副作用の緩和に有用であるということをお伝えしました。近年の研究では、副作用を抑えるだけでなく、悪性腫瘍の「治療」にも効果がある可能性が明らかになりつつあります。

カンナビノイドの抗がん作用:基礎研究からわかること

実は、大麻によるがん治療の研究の歴史は意外と古く、最初の論文は、1975年にアメリカの国立がん研究所が発表した『カンナビノイドの抗腫瘍作用』と題されたものでした。

その後も基礎研究は続けられ、2010年代になると、特定の乳がんの進行をカンナビノイド(THC)が抑制するという、スペインの科学者らによる研究の結果が発表されています。

2016年までに発表された、カンナビノイドの抗がん作用についての 100本近い論文をまとめて分析した本があります。この本では、カンナビノイドはがんに対して (1) アポトーシスの誘導 (2) 血管新生の阻害 (3) 腫瘍細胞増殖の抑制 (4) 転移の減少という4つの作用機序がある、とまとめています。

※ これは 2016年の第2版の日本語版。Kindle版を amazon で発売中です。
英語版はその後も何度かアップデートされて第7版が 2021年に出版されており、
こちらでダウンロードできます。

カンナビノイドをがん治療に取り入れる際に2つの目的があるということは、一部の医療大麻先進国では良く知られています。たとえば、2018年にアメリカで公開され、Green Zone Japan が日本での自主上映権を獲得し、その後しばらく Netflix でも公開されていた『WEED THE PEOPLE』というドキュメンタリー映画があります(※ 今現在は Netflix Japan での公開は終了しているようです)。小児がんの治療にカンナビノイドを取り入れた5人の子どもたちとその家族を追ったドキュメンタリーです。5人のうちの一人で、横紋筋肉腫というがんと闘うチコ・ライダー君は、初めは抗がん剤治療の副作用による激しい吐き気を抑えるため、さらには抗がん剤の効果を高めるためにカンナビノイドを使っていました。

ご覧になっておわかりのように、一般的には「標準治療の副作用を抑える」ための使用と「がんを殺す」ための使用では用量が異なり、治療のためには一日に数百ミリグラムという、通常「ウェルネス」を目的として摂る量とは桁違いの用量が使われるのが普通です。

さらに、特定の抗がん剤とカンナビノイドを併用することで抗がん剤の効果が高まったという報告もあります。これはつまり、同等の抗がん作用を得るために必要な抗がん剤がより少量で済むということで、副作用を軽くし、抗がん剤に耐性がつくまでの治療期間を延ばすことができるということです。

『WEED THE PEOPLE』に登場する5人の子どもたちもみな、医療大麻のみで治療をしていたのではなく、標準治療との併用でした。(ただし、『CBD Nation』に登場するライリーちゃんのように、他の治療は一切せず、大麻のみでがんが治ったという事例も存在します。)

基礎研究と臨床利用を隔てる高い壁

大麻に抗がん作用があるとか、大麻でがんが治るかもしれない、というようなことを口にすると、条件反射的に「大麻でがんは治らない」「インチキだ」「嘘をつくな」と批判する人がいます。

でも、ちょっと考えてみてください。パクリタキセルという抗がん剤がありますが、それがもともとイチイの樹皮から発見された成分であることをご存知ですか?

https://gansupport.jp/article/drug/drug01/3391.html

これと同じことがこの先、大麻に含有される成分で起こらないと断言できるでしょうか?

もちろん、大麻の持つ抗がん作用についての研究は、これまでそのほとんどが培養皿や動物モデルを使った基礎研究で、人間を対象とした臨床試験はごくわずかしかありません。ですから今はまだ、大麻草「だけ」でがんが治る、とは決して言えません。パクリタキセルのように、植物由来の成分が病院で処方されるがんの治療薬になる可能性があるとは言っても、そのためには臨床試験が必須ですし、それには膨大な時間とお金がかかります。

大麻から採れる成分ががんの治療薬として承認されるのを待つ時間が残されていないかもしれないがん患者にとって、それはあまりにも長い時間です。だとしたら、現時点で基礎研究の結果としてわかっていることに基づいて自らのがんの治療にカンナビノイドを取り入れる、という決断をがん患者がするのを、批判したり止めたりする権利は誰にもない、と私は思います。


<参考資料>




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?