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うんがま糞闘記

序章 便因

とある朝、職場へ向かうため、いつものように家を出た。
いや、「いつものように」ではない。
その日は朝から2回トイレへ行っていた。
原因は分かっていた。
前日の夜に食べた辛口麻婆豆腐。
中華料理屋の「辛口」は、一般的な日本人の舌にとって間違いなく「激辛」だった。
まだなんとなく便意を感じながらも、遅刻しないように家を出た。
便意ではなく、『辛み成分が腸内で暴れているだけだ』と信じて。

第一章 気配

通勤時間はおよそドラマ1本分弱。
そのうち電車に乗っている時間は2/3ほどである。
恐る恐る電車に乗ったが、しばらく経っても便意はこない。
『良かった、やっぱり腸内がヒリついてるだけだ』
そう思い安堵する。
…が、電車内が人で満たされるにつれ、下腹部に妙な気配を感じるようになる。
『これは間違いなく"うんの者"の気配』
案の定、だ。
あとどれだけの時間電車に乗ることになるか考えると額に汗が滲んだ。
闘いの始まりである。

第二章 過ち

立ちながら尻に意識を集中させて応戦していると、目の前の席が空いた。
座ってしまうと劣勢になる懸念を抱き、一瞬迷ったものの「座れる誘惑」に勝てなかった。
これが大きな失敗だった。
明らかに、"耐えにくくなった"。

第三章 思考

このあたりから【合法的に最速で放出できる場所】を考え始める。
いつも使う駅すら降車後トイレがどこにあるか分からない。
途中下車をしてもトイレを見つけられる自信は無かった。
そうなると、職場への道中にある公園のトイレへ行くほか選択肢は無い。
『こんなことがあるからさっさとストッパ買っとくべきだったんだよ』
今嘆いても仕方がないことは分かっていたが、怠惰な自分を呪うしかなかった。

第四章 想像

とりあえず、最悪の状況を想像してみた。
そこに待っているのは"社会的な死"。
放出後の周囲からの視線、距離を置かれる様子、想像したくもない。
『俺はまだ生きたい』
強くそう想うことでなんとか踏ん張った(ここでは「もちこたえた」の意)。
『もしも自分がドMだったなら、この状況に興奮できるのかなあ』
ついでにそんなことも思った。

第五章 決着

なんとか限界を迎える前に、職場の最寄り駅に到着した。
普段はなんてことない昇り階段が恨めしい。
公園のトイレまであと少し。
『誰かが入っていたら耐えられるだろうか』
『トイレだと思っているあの建物がただの物置小屋だったらどうしよう』
不意に悪い展開を想像してしまったが、杞憂に終わった。
闘いは終わった、無事に。

終章 想起

勝利の余韻に浸りながら、色々なことを考えた。
勝ったことで心に余裕ができたせいだと思う。しょうもないことばかり頭に思い浮かんだ。

  • クソ(糞)野郎にならずに済んで良かったな

  • 我慢の果てにひり出すうんちって気持ち良いはずなのに、今回は(辛み成分のせいで)ただただ苦痛だったな

  • あんな "Dead or Alive" のヒリつき、平和な日常生活の中ではそうそう経験できないな

  • クセになりそう(さすがに冗談)

  • おいしいご飯の成れの果てごときが、二度と俺に逆らうなよ(フンッ)

あとがき

最後に一句詠って締めようと思う。

よくやった
よくがんばったよ
我が肛門
括約筋の
活躍金賞

通勤電車内便意奮闘記その1 -終-


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