見出し画像

イツエとわたしの青⑥-『すべての朝へ』


3rd demo 『すべての朝へ』 2013.12.18

画像1

ライブハウスへと入る際に、このCDを渡されることを想像してほしい。これを抱えたまま見たのはワンマン『四色定理』。“ネモフィラ”が新曲として演奏されたあの日。セットリストが記録されたノートを開くと、他にも新曲として“車窓”“セフィロトの樹”"夏のせいにして"が組み込まれている。その後どれかの曲になったのか、それとも音源化されないままなのか、さすがにわからない。

会場限定で配布されたデモです。今はどちらの曲も聴ける。バンドが活休しても音楽は残る。残してくれてありがとう。それでは、愛すべき2曲を。今回は曲というより1枚に対して話したいことがあるんだ。

1. ネモフィラ

3拍子の曲はずるい。好きになってしまう。こういうやり方もできるんだとびっくりした。サビから始まる曲も珍しい、というかこの曲だけだ。ギターとベースがユニゾンする部分もある。なんだなんだ、新しいぞ。

ネモフィラという花。英名は「Baby blue eyes」というらしい。花言葉は「可憐」「どこでも成功」「あなたを許す」。こんな英名と許しの意味を一緒に持っているなんて! と気づいたとき、それをイツエが歌ったとき、大事な花になってしまった。迂闊に見に行けない。だから最後に「赦し」を歌っているんだろうね。

歌詞を部分的にピックすることが難しい。私が言いたいことをずっと言ってくれているよう。でも「夜は思うよりもとても優しいもの」という言葉に何回でもハッとする。私の中にもその思想があるつもりでも、イツエを通して言われると本当に夜が優しくなってしまうの。私も夜の優しさを愛しい誰かに伝えられたらな。

君の生活にも私の生活にも色々なことが起こる。「されど街は変わる」ことに救われる。そういうときもある。最後に、後々意味を帯びてくる? 歌詞を置いて終わりにします。

色褪せつつある 君が過ごした家はもう
知らない誰かの生活の音


2. さよなら、まぼろし

この曲を何気なく鼻歌で歌いだし、あとからそれが“さよなら、まぼろし”で、こういう歌詞で、ということを自覚してぼろぼろと涙をこぼしたことがあります。何かで一杯一杯になっていたとき。なんだっけね。

新しいイツエを見せてくれた"ネモフィラ"に対して、この曲はどうしようもなくイツエだ。深い深いところに仕舞ってあったイツエがいる。どうしてそう思うのかは判然としないが、ずっとそんな気がしている。最近ではこの曲を聴くのはここぞというときだけ。大事な曲です。

どうしようもなく続く現実を歌っている。「終わりある物語はとても幸せだ」「現実はいつだって死ぬまで続いていく」。生きていく限り現実が続いていくことの幸福と不幸、両方を思う。眠れなくて外から新聞の届く音が聞こえる、その朝の正しさを思う。君の思うまぼろしは何? 「生きてれば、傷も痛む」「だから痛いほど君を抱きしめる」、この歌詞が並んでいるのすごいな。言いたいのは「自分を癒すために抱き締める」ということではないんだろう。痛みを経験した者の優しさはこうして強さになる。


すべての朝へ

前回の記事で「次の『すべての朝へ』は起承転結の転」と言った。瑞葵さんの中にとんでもない愛が生まれたとわかるデモだ。神聖で深い。前までに持っていた愛とは種類が全然違う。大きな変化。

イツエとしての「転」でもあると思う。この2曲が収録されているのを聴いてぎくりとする。終わりの予感がしたからだ。どうしてだろう。どちらも変わっていくこと、終わることを歌っている。悲しさも含んではいるけど、きっと伝えたいことは悲しみではない。新しさと隠し持っていた愛を一緒に渡される。怖かった。この新しさが、隠していたものを見せる強さが。どちらも別れの曲だということ以前に、もっともっと本能的な部分で、肌で、イツエの終わりを予感した。説明できない。あの感覚は一体なんだったのだろうか。

そのあと、ライブの情報がなにひとつ載らなくなった背景だけのホームページを見つけた。私はさよならの準備を始めた。活休が発表されたときには泣かなかった。どうしてもっとたくさんのライブに無理をしてでも足を運ばなかったのだろう。イツエのライブが行なわれない世界。わからない。


予想していたよりも当時の気持ちが鮮明に蘇ってきて参った。そういうことを抜きにしても好きなデモだということは伝えておきたい。生活の中で何かこう、あと一声、というときに助けてくれる。「私にはイツエがいるんだった」と思い出したときに目指すのはこのジャケット。SoundCloudにしかない“さよなら、まぼろし”はどのくらい聴かれているのだろう。たくさんの人に聴いてほしいな。大事な曲になってくれるはずだから。

それと嬉しいメッセージをもらいました。回答でも言ったように、私が書くものよりイツエを聴く今の貴方のイメージを大事にしてほしい。バンドの活動中に出会えるって奇跡みたいな確率だからね。ただ直接回答に書くのは違うかと思って言わなかったけど、高校生のときにイツエの活動を追えた私は間違いなく幸せ者です。

瑞葵さんは『四色定理』のMCで、この2曲の物語を想像して教えてほしいと言っていた。確か手紙で渡している人もいたよね。私にはできなかった。私の言葉や想像力では浅すぎると思った。まだ文章を書こうとなんて思いつきもしなかった頃。今それを克服したかと問われればそうではないが、それは横に置いて。

書いて渡しに行くべきだったと今では思う。好きなものは手の、足の届く距離にいてくれるうちに愛さないと。


画像2


イツエ

公式サイトTwitterYouTubeSoundCloud


珈琲を飲みに行きます