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イツエとわたしの青⑦-『「今夜絶対」』


2nd Mini Album『「今夜絶対」』 2015.01.21

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いよいよ最後の1枚。先に伝えておきたいのは、これが最後の記事ではないということ。このミニアルバムはメンバーのライナーノーツが公開されているからそちらも読んでほしい。最後のツアーのことも話そうかな。

最後の音源だとわかっているから言えることでもあるが、これはイツエの集大成だ。ずっと音源化されるのを待っていた曲、新しい一面を見せてくれる曲、持っていた気持ちの純度を高めて音楽に込めた曲。1枚で歴史を振り返れるようなミニアルバムになっている。“56番線”と"トランシーバー"がようやく日常になってくれたの、嬉しかったなあ。

曲数が多いけど最後の、1曲ずつを。

「君に逢う。君に伝える。隠しきれないこのすべてを。またいつか、じゃなくて 今夜絶対。」

1. エピソード

このミニアルバムを最後まで聴いたら、ぐるりと戻ってもう一度これを聴くのがお決まり。ずっとずっとイツエを聴いているとね、"目次"や“エピソード”だけで泣けるようになります。ぐんぐんと進んでいく言葉と、逆再生される音楽。このときのイツエがぎゅっと詰まっている。好きな音が、好きな言葉が拾えたら、2曲目へ進んでみて。


2. 告白

メンバー全員が映画『告白』をイメージして作ったという曲。イツエを聴いて"告白"が好きだったと言った人を救えたことがなかった。「この痛みを伝える方法を何度も考えた」「やっと結んだ手を離す事はとても簡単」、そんな曲を一番に伝えてくる人たち。私にも誰にも、何かすればその人たちを救えたとは到底思えないけど、いつまでも少し思い出してしまう。

イツエの曲の中でもっとも悲しくなってしまう曲。これを聴いて、あなたにも伝えんとする痛みがあることや手を離さずにいることを再確認するのです。


3. ネモフィラ

前回の記事でも話した曲です。そのとき、最後に歌詞を置きました。

色褪せつつある 君が過ごした家はもう
知らない誰かの生活の音

ここ。曲を聴いて「間違えてんじゃねえよ」と思った人、そうじゃないの。これはデモのときの歌詞。MVとアルバム収録時の歌詞は「君と過ごした家はもう」になっている。君が、君と、一文字。MCで瑞葵さんがこの曲の物語を想像して、教えてほしいと言った。私はこの一文字で物語が大きく変わる気がして、イツエオタク(もうオタクって呼んじゃう)のふたりにも話したことを覚えている。

もしかしたらイツエの人たちにそこまでの他意はなかったかもしれない。でも私には全く違う景色が想像できて、考えて。作った人と受け取った人での認識の違いとか、作って一度手から離れたものはどんどん遠くにいってしまう感覚とか、そういうことを思う。でも一文字を変える必要はあったってことだよね。


4. 56番線

9曲の中で一番古い曲。ライブで聴いては「歌詞をちゃんと読んで生活の中で何度も聴きたい」と思っていた。夏というワードが入っている。イツエは夏を歌っていることが多い。私は曲で歌われる渦中である夏に聴きたいバンドだと思っているけど、弟と"56番線"が美しすぎるという話をしたときに「イツエはどこか別の季節から夏を思っているイメージだから冬に聴きたい」と言われた。それぞれのイツエがあって、そのことが愛しい。

曲の持つ世界が全体的に淡くて、でも確かに存在した。あの夏に。私がしてきたこと、一緒に過ごした人、場所、全部確かに私が選んできたこと。自己責任って言いたいわけじゃない。私のことは私が選ぶしかないし、選んだ道を正しくできるのも私だけだと思う。


5. トランシーバー

瑞葵さんがライナーノーツで「TVでストーカー特集を観ながら書いた歌詞」と言っているのを見ながら、瑞葵さんが好きな山本文緒の『恋愛中毒』という小説を思い出す。狂気を孕んだように見えることが大勢の共感を生むことってあるみたい。“56番線”と同じく長いことライブだけで聴いていて、最後の「さあ笑って」の部分が強く印象に残っている曲だった。

普段はラブソングを聴くつもりで聴くけど、ストーカー目線って考えると結構怖い。ラブソングとしては「君の脆いところまで」という歌詞が好きだ。実際に脆いところまで全てを……という話はまたあとで。愛は屈折しがちなのかなあ、いくつになってもわからないものだ、愛。


6. 螺旋

これも思い切って言うとイツエのことなのかなと考えてしまう曲。「染まらない私と」のあたり。どうだろうね。私にわかる日は来ないだろう。あと吉田さんが大変そう。手が取れちゃうよ。初心者の意見です。

はっきりと突き放す言葉を瑞葵さんの声で聴けることってあんまりないのかも。「むやみやたらに触るのはもうよして」。ときどき嫌な感じの干渉を受けたときに邪悪な顔をして聴いちゃう。代わりに怒ってくれ。そのうち別の気持ちに変換していくから。


7. 10番目の月

UNIDOTSの活動は全然追えていないけど、この曲と“グッドナイト”の歌詞はUNIDOTSでの瑞葵さんに近いんじゃないかと勝手に思っている。すごく可愛い曲。少し不気味さも感じるような月の大きい日に口ずさんでしまう。全体のイメージとしてはポップなのに、いざちゃんと聴くと使われている音はそこまで可愛いわけではない。面白い曲。

リリースされた当時はあまり共感できなかったけど、最近になって急激に共感できる部分が増えた。というか素直に「1から10まで君が好き」と言いたいし、「君には敵わない」し、そういう気分。ごちゃごちゃと考えた末の着地点がすごくシンプルであることが増えてきている。リリースから4年も経てば聴き方も変わるよね。


8. グッドナイト

イツエが客を踊らせて歌わせて。こんな日が来るなんて思ってもみなかった。曲の終盤、「優しさに背を向け 自分勝手に傷ついて」と、あの聴かせ方をしてくるのはすごい。大人がぎくりとなる仕様。「大人になるまであと少し」、このとき私は本当に大人になる一歩手前だったの。20歳になる1つ手前の季節。

踊らせる曲で、ティーンエイジャーのことを歌っているのに何故か安心する。包容力がある。何かを振り切ったイツエの、ということなのだろうか。


9. 名前のない花束

本気のラブレターを書くときに聴く曲です。イツエがこれだけの愛をストレートに伝えて活動を止めた。休止しているだけではあるけど、もちろんそうなのだけど、私は「これほどのハッピーエンドがあるのか」と思った。伝えられるようになったんだね。「目に焼き付けてきた 美しい朝露」という部分のメロディーが美しくて、その前の歌詞を歌い上げたあとだということも相まって泣けてしまう。

歌い上げられた歌詞というのがこちら。

悲しみも喜びも受け入れられるように
花を結ぶ大きな木になり
あなたを守りたい

あのイツエが。あれだけ突き放して、捩れたりもしながら愛を歌っていたイツエが、こんなに真っ直ぐに愛をぶつけてくるのです。真っ直ぐに伝えられる人の強さをイツエからも教わった。私も、あなたを守りたい。

それがどれだけ不可能なことで、そんなことは知っているのです。知ってなお、守らせて。これを知っているかどうかは天と地ほどの違いになるから。私はあなたを守っていきたい、なるべく、やっていくから、その気持ちでいることだけは見逃してほしい。


「今夜絶対」

『「今夜絶対」』がリリースされると同時にツアーが始まった。『君と五重奏』というタイトル。ついにタイトルに五重が入ったのか、と思った。イツエという名前の由来を知っている? イツエは「五つ重なる」でイツエ。「イツエの4人とあなた」で五重。

ツアーファイナルのワンマンに行った。セトリに気づいてびっくりしたよ。まるっきりリリース順だったから。デモ以外の音源の曲順をそのまま。だから次に何が演奏されるかわかる。ひとつ目の音から、気持ちから、全てを逃さず聴ける。あれはイツエの歴史を辿るライブだった。“青い鳥”から"名前のない花束"まで、アンコールに“さよなら、まぼろし”。

すごく楽しめたけど、すごく不安にもなった。また。歴史を辿ったあとに打つ手などあるのだろうか。活動しているバンドが歴史を辿るタイミングは何かが一区切りついたときだろうけど、これは何のタイミングなのか。それは活動休止を決めたというタイミングだったのだろう。決まっていたことなのだろう。『すべての朝へ』を聴いたときの予感正しく、私たちはそれを知らされたのです。

次は大事な曲のことと最後のライブのことを話します。またね。


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イツエ

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