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イツエとわたしの青④-『いくつもの絵』


1st Mini Album 『いくつもの絵』 2012.03.07

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このアルバムのことを、私はちゃんと話せるのだろうか。イツエが作った6枚のCDの中で1番、大切なのがこの『いくつもの絵』です。1番を決めるならば、です。好き度の高い曲だけで構成されている。

あと、振り切って暗い。どの曲も歌詞だったり音だったり、どこかしらにダークな感じを含んでいる。このアルバムがリリースされてから初めてライブに行った。初めてのイツエなうえに、予備知識なしにこの曲たちをぶつけられた。あの気持ちをもう一度体験できるならば、と思う。

初めて自分で購入したイツエの音源であり、初めて手売りしてもらったものでもあり。思い入れが強い。さあ、話すよ。


「あの日なにもなかった。ただわたしの中に残ったものは
6つほどの思想と、身体という海の中に柔らかく生きた愛しい彼女たち。」

1. 目次

0曲目と呼べばいいのだろうか、こういうトラックをアルバムの最初に置かれると好きになってしまう。イツエはMVだけをチェックするとか全曲シャッフルで聴くとか、それもいいんだけど、順に聴くとこういうところがよいのです。このアルバムは特に、ひとつの物語みたい。

ジャケットは瑞葵さんが描いている。歌詞カードだってアルバムのストーリーを作っている。すべてがイツエとしての作品。最初にも話したけどこのCDは友達に、貸しに貸したせいでボロボロなの。誰の手に渡ったときかわからないけど、ケースの根本の部分が折れてしまって、開くと蓋とトレーが真っ二つになってしまう。そういうの、本当は嫌だよ。話した通り初めての、手売りしてもらったCDだから。大事にしまっておきたい。

でも、ぜんぶを手に取ってほしくて。「行っておいで」という気持ちで送り出してきた。イツエの全音源を貸しては微妙な顔をされる、を繰り返してきた私の歴史がこの傷たちなのです。大げさかも。

そういうことまでぶわっと思い出すのが"目次"という曲。本をめくる音がする。「ヘルツはそのままで-ark-」のことを思う。“青い鳥”から始まる、あの、一生もののライブのこと。


2. 青い鳥

いつも一緒にイツエのライブに行っていた友人が、イントロのギターを聴いてやられてしまった曲。わかります。アルバムの始まり、ライブの始まり、一日の始まり。そういうことを連想する。実際、朝に合う。

この曲で歌われている言葉は少ない。それゆえ、聴く人の想像力次第で無限に世界が広がってしまう。私はこの曲に何年もの時間をかけて、たくさんの気持ちを乗せてしまっていると思う。何を思い出して泣けばいいのかわからないほど。

サビの歌詞から、ストレートに「少しだけでいいから、君の気持ちをくれよ」と思うことが多い。欲が深いからさ。最初は少しだけって思っているのに、慣れてくるともっともっと、と思ってしまう。嫌だな。でも「他にはもう望まないから」と思っていると、その気持ちのうえに胡坐をかかれたりするでしょ。うまい塩梅でどちらも持っておくのがいいのだろうけど、いつできるようになるかな。

シンプルで、ひとつひとつ、すべてが美しい。


3. 言葉は嘘をつく

前回も話した"言葉は嘘をつく"はこのアルバムにも収録されています。サビの歌詞の順が変わっている。こちらのほうが収まりがいい、ということだろうか。そういえばこれはカラオケにも入っている。誰かと行って歌うタイミングは、そうそう来ない。

MVを撮ったこともあって、この頃のイツエといえばこれが代表曲だった。こんなタイトルで、こんな出だしの音だったら敬遠されるのも無理はないのかもしれない。「未来が信じられない」って最初に言っちゃうし。でもこの曲、最後の「きっと眠れるよ」を言うためだけに作られているみたいだ。そう気づいてから聴くその言葉は、とっても優しい。

ひとこと、誰かを許す言葉を言うだけのために遠回りをしている。ベッドの上で膝を抱えて泣いている恋人を抱き締めるために、ああだこうだ言い訳をしながら照れ隠しをしている不器用な人みたい。結局、抱き締めずにはいられないような。


4. 侵緑

ベースの馬場さんが初めてイツエの曲にタイトルをつけたと、何かで言っていた。最初の記事に載せたライブ映像はこの曲。言葉で理解できる範疇を越えて好きなんだよね。

「もしも戻れるなら、今と変わらないように」。そうだね。そうやって自分の辿ってきた道を受け入れていくことは、時間がかかってしまうもの。選んだことは、選んだこと。選ばなかったことは、「選ばない」と選んだこと。自己責任? そんなに厳しいことを言わないでよ。でも、間違いなく私の最善が今。なるべく怒らず悲しまず、腑に落ちた私でありたい。

ライブで聴けると嬉しい曲。こうしてライブ映像や音源が残っているということは、イツエにとってもそういう曲だったのだと思う。ちょっと楽しげなリズムで、音で。なのに歌詞がこうだから気持ちがぐちゃぐちゃになってしまう。イツエはそういうバンドなの。象徴的だから好きなのかも。


5. エンドオブソロウ

覚えていてくれた? ふたつ目、『あの小鳥はいつ泣くの』の記事で話した“ソロウ”のこと。あの曲は"エンドオブソロウ"として生まれ直した。悲しみは終わったのか、終わるのか。“ソロウ”がライブで聴けなかったのは、ライブに行ったときにはもう生まれ直していたから。

Aメロ以外はごっそりと変わっている。2番のコーラスが可愛い。サビ終わりの歌詞が好き。追いつかないのって誰のことかと考えたけど、きっと自分を含めた誰もが、ということなのかも。自分の頭の中のことなのに、自分の体の中で起きていることなのにコントロールできない。悲しい夢なんか見たくはない。制御できないという事実は、歳を重ねるごとに目立つようになってくる。

それをうまく静めながら生きている人をあまり見たことがない。静められる時間や頻度を徐々に多くしていきたいし、君にもそうしてほしい。願いながら聴く。

「雨の日は嫌い 何もかも思い出しそう」。悲しみの季節って、いつを想像する?


6. ラブレターフロム

いつかのライブで、瑞葵さんがこの曲を歌うのが辛くなってしまったと話していた。その辛さを乗り越えたとき、コロスケさんがゲストでアコギを弾いて、瑞葵さんが歌った。最後のサビのところでイツエの楽器隊が入ってきて、うわ、どのライブだったっけ。やられてしまって前後の記憶が曖昧だ。

(ずっとイツエを一緒に観てきた友人曰く、『優しい四季たち』リリースツアーファイナルの初ワンマンだって。これは信頼できる情報です)

次の"生活"もそうだけど、軽い気持ちでBGMにはできない曲。このアルバムを通して聴いていると最後にこの2曲が畳みかけてくる。だから聴くのが難しいのよ。現に歌詞カードを見て死にそうになっている。というかこのアルバムを語るに際し、5回以上の挫折を経験している。正直なところ、あまり語りたくない。矛盾。

大切な人に贈りたい曲。許しであり、救いであり。大切な人たちに対してはこういう気持ちでもって触れていきたいと常々思っている。そうしてきたつもりです。つもり。伝えた途端に伝わるなんてことは絶対に起きなくて、根気強く愛していくことが必要。“青い鳥”のとき、気持ちの上に胡坐をかかれる話をした。そういうこともあるけどね。だからってすべてを諦めてしまっては、そんなに悲しいことはない。

簡単な言葉たちに見えるし、実際に言葉自体は簡単。でもそれを伝えることがいかに難しいか。他人に対してもそうだし、自分にも、ちゃんと伝えてあげてね。


7. 生活

これは泣いちゃったプレイリストに入れた曲。泣いた場所は「友達ママの腕の中」。私の愛すべき友人が歌っていてさ。それだけでもうキャパを越えているのに、曲が終わって振り向いたら彼女のママが抱き締めてきて、人前であんなに泣いたことはないですよ。それこそイツエが活休したときくらい。

イントロが大好きです。生きていると力が入ってしまうのを、解して聴いてねって言われているみたい。小さな言葉が並べられていく。タイトルの通り、生活のことがひとつひとつイツエによって歌われる。「終わる事をやめ 生きる事をおそれ」、悲しい曲に聴こえる? これって終わらないことを選んだ人、終われないと気づいてしまった人、もとから終わりたくない人、それらすべてにとって普遍的なことじゃないかと今の私は思うのです。


また友人の話。「光に当てられた 私は陰ばかり大きかった」という歌詞でこの曲は終わる。それを無事に聴き終わり泣いていたとき、同じく泣きながら私のもとまで来てくれて異様な空間が生まれたんだけど。

「陰ばかりが大きいけど、その前に私たちはちゃんと光に当てられてるから」

だから大丈夫って彼女が言っていた。私の友人のなんと素敵なこと。陰が見えてしまうのは仕方のないこと。だから、陰ができる前の光の存在に気づいて「大丈夫」と言ってくれる彼女が眩しかった。君も大丈夫だから、光のほうを向いて生きていこうね。


いくつもの絵

イツエは愛のバンドだということをずっと話している。でも、このアルバムを聴くと「やっぱ無理へこむ」とか言いながら自分の身体を抱きしめてしまう。悲しみを自覚して初めて愛せると思っているけど、そういうことなのだろうか。

私が至る所でイツエイツエと騒いできたから、今でも「最近イツエを聴いてみたらすごくよかった」と報告してくれる人がいる。とても嬉しい。この記事を発見してくれた友達もメッセージをくれた。私にはなんの力もないけど、今でも新しくイツエを聴き始める人がいるということが、イツエのメンバーたちにもなるべくたくさん伝わっていてほしいな。

ずっと自分語りをしているだけ、何のことやら? という文章ですが読んでくれてありがとう。音楽のことも人のことも、言葉で語るのはとても難しい。でも話さずにはいられなくて、イツエとわたしの青。

またね。



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イツエ

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