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商人のDQ3【18】だだんだっだだ?

「旅を続けることにして、よかったでち」

 月明かりが照らす夜、複雑に分岐したヴィンランド南の大河を船でさかのぼりながら、シャルロッテがカルカスの女領主に答えを告げたときのことを思い出しています。

「なんと!ロマリア領主の任を果たしながら、冒険を続けるのですか?」
「マリカしゃんみたいに、旅先から夢渡りでロマリアに帰ればいいでち」

 マリカはシャルロッテたちと旅をしながら、寝ている間に夢渡りでアリアハンに渡って、アッシュ少年が旅立つ準備を手伝っていました。
 同じように、シャルロッテがアバター体で夜の間に領地を飛んで回って、各部門の担当者の夢に入って報告を受ければ。まさかのリモート経営です。

「オティス商会の創業者、シャルロッテのおじいちゃんが望んだことは。可愛い子に旅をさせることでち」

 領地経営も学びが多いが、外の世界を知らなければ外交もままならないと。シャルロッテが珍しく真顔で話しています。

「時代は変わりましたね。私も夢渡りで、市井の声に耳を傾けなくては」
「もちろん、喜んでお教えするわよ」

 最初こそ驚いたものの、有能な領主だけあって順応が早い。マリカはカルカスの女領主にも夢渡りの技を教えるようです。彼女なら悪用はするまいと信じて。

「まっすぐ進むと橋が邪魔だから、左に入ったあとの分岐を右折して」

 そのマリカは、今もアバター体で水先案内人を務めてくれています。本人の身体は、船の上でクワンダに見守られながらお休み中。
 わけが分からなくなったら、映画「アバター」を思い出してください。

「グズリーズの話では、集落を襲った魔物たちの中に先住民らしき人影を見たらしいが…」
「警戒はするが、まだスー族が襲撃犯だと決め付けない方がいいだろう」

 ソルフィンとクワンダが、周囲を見張りつつグズリーズの集落で聞いた話を考察しています。

 私たちの世界では、残念ながらネイティブアメリカンと入植者の間に血塗られた衝突が起きてしまいました。史実でのソルフィンたちもヴィンランドに入った後、先住民とのトラブルから数年で開拓地を去ることになります。この世界では、はたしてどうなるのでしょうか。

「大変!スーの村が焼かれているわ!!」
「な、なんでちゅか!?」

 そこへ、慌てた様子でマリカが飛んできて。精神が自分の身体に戻って、ガバッと目覚めます。

「覆面にパンツ一丁の色白マッチョマンが、村を襲っているの!」

 そう言われてシャルロッテたちが真っ先に思い浮かべるのは、あの盗賊カンダタ。ですが、状況が変です。

「カンダタしゃんは、正義の怪傑でち!」

 襲撃犯の正体は、果たしてナニモノか。一行は全力で船を走らせ、スーの村へ急ぎます。

※ ※ ※

 筋肉ムキムキの覆面男が、住民の家のドアに無言で斧を振りかざします。中には、逃げ遅れた女性が立てこもっている模様。

「キャ〜ッ!助けて!!」

 木製のドアがバリバリと音を立てて破られ、隙間から覆面男の顔がのぞいて、目が不気味に光ります。こんな感じ。

「そこのお前、止まれ!」
「相手は魔物と思った方がいい」

 アッシュ少年が勇ましく、覆面男に制止の声をかけますが。魔物相手に警告は無意味と、クワンダが問答無用でバリスタを男に向けます。連射式の太い矢が、間髪入れずに飛来して次々と覆面男の背中に突き刺さるも。血の一滴も流れないまま、男は暴れ続けます。

「こいつ、バーサーカーか!?」

 無力な人々が虐殺されるのを見ていられず、稲妻のような勢いで飛び出したソルフィンが全力で男を突き飛ばします。しかし、まるで鎧のような感触にぶつかった方が鈍い痛みをおぼえて、顔をしかめます。体当たりに見せて死角から突き立てていた短剣の刃も、弾かれてしまっていました。

「ソルフィンさん、そいつはマシン系モンスターですっ!」
「なにッ!」

 ソルフィンの不意打ちにもダメージを受けた様子がなく、ゆっくり起き上がる覆面男。その様子から、敵の正体に見当をつけたアッシュが叫びます。

「お願い、ヘルバオム!」

 マリカがベナンダンティとしての植物使役のチカラを用いて、覆面男を何本もの太いツタで拘束します。起きてても使えたんかい。

「これは、拘束呪文『シバルタ』よ」

「いまのうちに、村から引き離すでち!」

 シャルロッテやクワンダも、ツタを握って覆面男を引っ張ります。よく見ると、怪物は「エリミネーター」にも見えるのですが…!

「バリスタ用の矢でも倒れないなら、仕方ありません…!」

 魔法の玉の使用を決断したアッシュ少年が、エリミネーターもどきに照準を合わせます。幸い、村を爆発に巻き込まないだけの距離は稼げています。状況を察したソルフィンも、とっさに間合いをとって物陰に隠れます。

「アリアハンの遺産は、悪用させません!」

 この世界でマシン系モンスターといえば、たいていは古代アリアハンで作られたものです。普通は遺跡の番人をしているはずですが、なぜ村を襲っているのか。謎は深まりますが、今はこの怪物を止めることが先決。
 覚悟を決めて、勇者アッシュがバリスタのトリガーを引くと。ツタで拘束されて身動きの取れないエリミネーターもどきを、激しい爆炎が包みます。

 通常のモンスターなら、一撃必殺の大爆発です。けれど信じ難いことに、炎の中に動くシルエットが見えます。

「まだ、倒れないでちかっ?ソルフィンしゃん、逃げるでち!」
「シャルロッテ!?」

 矢も盾もたまらず、ソルフィンのところにシャルロッテが駆け込んできてタックルで受けたダメージを回復させるべく、ベホイミをかけます。

「回復呪文は不慣れでちけど…!」
「まずい、あいつこっちに来るぞ!!」

 むせ返るような炎の中から、異常なしぶとさで立ち上がる金属の骸骨。その姿は、まるで…!

 だだんだっだだ! だだんだっだだ!!

 それ、○○ミネーターです。エリミネーターじゃありません。

「あわわわわ…!」
「古代の戦争では、こんなのが軍団で動いてたってのか!?」

 思わず、ソルフィンにしがみつくシャルロッテ。ソルフィンも小柄な彼女を抱きかかえたまま、この場をどう切り抜けようかと機をうかがいます。

 しかし、エリミネーターもどきはそれ以上動くことはありませんでした。

「ライデイン!」

 突然落ちてきた晴天の霹靂が、バケモノを機能停止に追い込んだのです。

「やるじゃない、勇者様。聖なる雷が、邪悪なチカラを断ち切ったのね」
「魔法の玉でも倒れなくて、とっさに閃いて唱えてしまいましたけど」

 マリカを含めた全員の視線が、勇者として急成長しつつあるアッシュ少年に注がれました。


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