ミオリネになれなかった男

テンペストも読んでいる方が「ミオリネとグエルが1つの役を分け合っている」という考察をされている
そこから着想を得たが、主要な登場人物は結構似た部分を持っている、ミオリネとシャディクもこれに当たり、シャディクはまるで「ヒロインになれなかったミオリネ」のようだ、という見方の話

シャディクは表向きプレイボーイで、会社の経営や実務にも携わるエリートで、自信満々のイケメンだ
が、実体はかなり女々しい、というより性質が女性、それも夢見がちな少女という男だった

「私をここから連れ出して」と逃がし屋フェンに言ったミオリネと同じく、虎視眈々とベネリットグループ解体を狙って、恐らくは下準備はしていたとは思うけれども、結局のところ本気で地球へ逃げる気がなさそうだったミオリネのように、シャディクもグループを解体する直接の動きはしなかった

スレッタが決闘に勝ってホルダーとなり、現状を変えて自分を救い出してくれるかも、と期待したミオリネ
スレッタの乗るエアリアルがガンダムだと聞き、それが現状を破壊するゲームチェンジャーだと期待したシャディク

だがスレッタはミオリネに付いてしまった、当然彼女が操るガンダムも

それでも時間をかけて、奪うなり機会をうかがえばいい、シャディクはそう思ったのかもしれない
ところが、ずっと愚痴は言い続けるけど変わらなかったミオリネが変わって、守られ救いを待っているだけの女じゃなくなってしまった
たぶんミオリネがグループの人間との結婚を望まなかったので、シャディクはグループを解体したら自分に権利ができると思って、ただそれだけのために解体したかったのだろう

10話でのサリウスとの会話、次の総裁が決まらないという話をしていたが、サリウスが次期総裁を狙っているのかどうかわからないため、このセリフの意図がつかめなかった
が、ここでもシャディクがミオリネの隣に立つことを諦めてなかった、と考えると「決闘で次の総裁は決まらない」つまり次の総裁に自分がなればルールを変えられる、ホルダーにならなくてもミオリネと一緒になれる、そんな風な感情が、あの場に相応しくもないことを言わせたのか

そうなるとグループ自体は解体しないし、グループの人間と結婚したくないというミオリネの意思は、せっかくシャディクが長年尊重して手を出せなかった意思は無視することになる

けど「俺はもうためらわない」そうなので、やり方は変えたのかもしれない
そもそもの話、決闘の駆け対象には無かったはずの「(株)ガンダムに今後手を出さない」という誓約はとうに破っている

それもフォルドの夜明けとの通信で見せた「デリング・レンブランを襲撃してもらいたい」という、明確に殺害を指示しないやり方と同じで、直接自分が手を出していないので誓約には背いてない、という詭弁で押し通そうとしているのかもしれない

ミオリネはスレッタに、シャディクはガンダムに、現状の自分を救い出してほしいと願った
けどその2つは1つだったので、結局シャディクは選ばれなかった

それは多分、他の誰よりも「進まなかった」から

グエルはスレッタに認められて変わり、4号は最初からガンダムパイロットに興味があって、スレッタに進んだ
シャディクも怒りから決闘へ進むも、暗殺計画を知ってミオリネへの執着を捨てられず、進みきれなかった

以前ゲームチェンジャーという言葉から、シャディクをどこか上から目線、グループの当事者でない感じがする、とつぶやいたことがある
ミオリネはグループの「起爆剤」とヴィムの言葉を真似て表現したが、こちらは「グループにとっての」であり、ゲームチェンジャーは「硬直した軍需産業にとっての」だった、つまりグループに限っていない

シャディクにとってはグループだけでない「視野の広さ」だと思っているんだろうが、結局のところそれでどう変えてどういう方向にするのか、そもそも起爆剤のように現状を「良く」しようという思想がなく、単に変わるという漠然とした考えしか見えてこない
「視野も思想も」狭いとサリウスを評したが、視野は知らんが思想はシャディクの方が狭い、と現状わかる範囲では思える

そうねー、ミオリネがまどかに対応してないけど、シャディクは『魔法少女まどか☆マギカ』の暁美ほむら、それも劇場版で魔女になったほむらのようなもんかな
恨まれてでもまどかともう一度会いたい、そのためにはどんな手でも使う、憎しみすら愛に近い、無関心よりはまし、というヤンデレ気質が

実際には計算高い男だ、彼なりの勝算というか、それなりの計画はあるのだろう。けどそれも、根本のところはミオリネへの暗くて湿気たっぷりの感情だと思う

何より他のキャラもそうだと思うが、大人の奸計にかかっていいようにされるという匂いがプンプンする
特にシャディクの場合、書いてきた通りミオリネへの感情で突き動かされているので、それを利用されていいように使われるようにしか思えない

感情で突き動かされる、と言えばスレッタに決闘を挑んだ4号、スレッタへの感情でデスルターに乗ったグエル
二人の結果から見ても、やはりシャディクも同じような道をたどる暗示なんじゃないか

ミオリネがスレッタに選ばれず、それでいてスレッタへの感情が強くて諦められず闇落ちしたら、シャディクのようになってたのかもしれない
けどミオリネは失敗しても脱走を続けてたし、スレッタにも進んでいった、何もせず大人ぶって傍観し続けたのが勝敗を分けたな、サリウスも「学生は学生らしく~」って言ってたし

だけど、シャディクは早く大人になるしかなかった
サリウスの養子として引き上げられた身で「子供らしいわがまま」を通すことなどできようはずもなく。だからプロスペラの言った「かわいい意地」を張り続けられるミオリネが、自分の出来ない事をする羨望と、同時にそれを抑えつけられているという同じ境遇で惹かれたんじゃないか

シャディクはミオリネの「隣に立つ」と言ったが、多分「ミオリネになりたい」だったんだと思う。スレッタは「花婿」として一緒に居たい、と望んでいたので、同一視の面からは、いつの間にかスレッタの方が一歩進んでいたのかもしれない

シャディク的にはスレッタは、ミオリネを守る力も視野も持ち合わせず、ただすがるだけの子供に見えたようだが、11話で「任せって言ってよ」というように、その一言だけでミオリネにとっては心の支えになるということで、何ができるかできないかじゃ、もうないんだろうなあ
隣に立つに相応しい、を準備している間に、隣に立ち続けたスレッタの方が、何をするでもなくミオリネの方を変えてしまった

純粋な憧れを手に入れる方法に、打算を使ったらだめだと学んだはずなのにまだやるシャディク、他の手段を知らぬ哀れな男

タニザワモトフミの「きみにとどけ」の歌詞を思い出す
何よりも大事なきみの前で 傷つかないように大事にしてたのは そう自分
ほんの少し大人になってく 君になりたい僕を超えて

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