いのししとの出会い

25年ほど前から六甲山を切り開いた辺りに住んでいます。何年か前に市の条例でいのししへの餌づけが禁止されて、今ではその姿を見ることは少なくなりましたが、それまでは夕方によくいのしし(1頭だったり7〜8頭の群だったり)と出会い、通り過ぎるのを、息をひそめて待ったりした事がよくありました。暗い時間帯に車のテールランプに照らされたその毛並みは艶やかで、まさにけものです。家族連れらしき集団は、子供のうり坊をはじめ大小様々なサイズで、足の長さとか歩く速度も違っていると思われるのだけれどまとまって移動していて、家族、兄弟あるいは仲間思いの動物に違いないと思わせます。怖いもの見たさで離れた所から見ているうちはよかったけれど、ある日とうとういのししによる窃盗(?)の被害者になってしまいました。

日没までにはまだ時間がある明るい時間帯でした。バスから降りて家に向かって歩いていると、持っていた買い物袋が背後から引っ張られ、振り向くと中位の大きさのいのししが一頭、袋を足でしっかと押さえて鼻で袋の中をまさぐっているようです。取り返すわけにいかず、いのししが去っていくまで少し離れたところから様子を伺っていました。引っ張られた瞬間、ヒェーーーという声と言うか息が私の口から出たように記憶しています。翌日の朝ご飯用に買っていたフランスパンと、おやつの三色だんごを食べられてしまいました。幸い私は怪我をすることはありませんでしたが、新聞には時々、お尻を噛まれただの、つつかれただの、被害の記事が載ったり、また、飼い犬が散歩中に襲われたという話を近所の人から聞いたこともありました。私は食べ物を持っていたから良かったのかしら、もしお腹の減っているいのししと出会って食べ物が無ければ、お尻を噛まれていたかも知れないと、後になって運が良かったのだとしみじみ思い返すのでした。

「朝顔に釣瓶取られてもらひ水」加賀千代女の有名な句ですが、この出来事の後なぜかこの句が浮んで来て、真似して「いのししに朝餉(あさげ)取られて・・・・・?」千代女のように格調高くは行けません。後が続きませんでした。


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