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中村文則「カード師感想文」

中村文則さんの小説は、いつも新刊が出る度に買っていて、今回はオンラインサイン会で買わせてもらいました。

5月7日に届いたのですが、全然読んでいなくて頭の片隅に感想文コンテストの締め切りの日だけはやたら覚えていました。(今では手に入らない銃の初版の単行本に中村さんのサイン入りだなんて豪華すぎて絶対応募しようと記憶されていました)

そして、つい昨日(6月29日)やっと読み終わったところなんです。読むの遅いですよね。

カード師は、「タロット」「トランプ」「ポーカー」「違法賭博」「占い師」「手品」「イカサマディーラー」「ギリシャ神話」「ペスト」「悪魔」「宗教」「占星術」「錬金術」「魔女狩り」「ナチス政権」「科学」「オウム真理教」「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」「東日本大震災」「covid-19」など、様々なモチーフが散りばめられていて、それらを上手く料理してしまう中村さんの想像力というか無意識の力は、凄いなと思いました。

作中好きな文章は、

引用始め

P.52「私は人の人生というものを、百億年以上続く宇宙の片隅で点滅する、光の群れの一つのようなものだと思っている。宇宙の長い時間からすれば一瞬のその一つの点滅の中に、どれだけ長く濃密なものが含まれているか。思い返すと茫然とするほどだ。……私の人生は幸福だったよ。もちろん色んなことがあった。人は辛かった事柄に目が行きがちだが、試しに自分の人生の、どんな小さなことでもいい、幸福だったことだけを繋ぎ合わせてみるといい。自分でも驚くくらい、意外と幸福だったりもするよ。……人は大抵、自分で思ってるより幸福な人生を歩んでいるものだ。謙虚さを必要とする場合もあるかもしれないが、その謙虚さも美しい」

P.378「だから、人間は、本当は、誰も完全に絶望することはできないんだ。だってそうじゃないか?まだこの世界が、どのようなものかわからないんだから。わからない場所にいるのに絶望なんてできないんだよ」

P.399「それでも思います。重要なのは悲劇そのものではなく、その悲劇を受けてもなお、人生を放り出さない人間の姿だと」

引用終わり

コロナ禍であり、新たな変異株も次々とテレビで報道され収束も未だに見えなくて、なかなか生き辛い世の中になってしまいましたが、今作カード師の中村さんの文章にはポジティブな文章も多く励まされました。

中村さんの小説って暗い作品が多く、そのイメージが定着していますが、カード師は、今まで以上に前向きに生きる希望を持たせてくれる作品だし、読んだら明日のことさえわからない日々を大切に過ごしたくなる作品だと思います。

読んでいて楽しかったのは、やはり心理戦の最高の描写だと思う違法賭博クラブRのシーンで、自分だったらどうしよう?と、誰が読んでもハラハラするのではないかと思います。個人的には、Mさんには別の作品でも再登場してもらいたいと思いました。

週刊読書人のインタビューで、中村さんは、人は絶望すると視野が狭くなる。学校や、家や、会社が全てだと思ってしまう。ほんの少しでも視野を広げるか別の視点を向ければ絶望を遠ざける事が出来る。小説を読めば絶望を遠ざけることに繋がると語られていた。そんなわけで、閉塞感漂う暗い時代になってしまいましたが、絶望から遠ざける祈りを込められた中村文則さんの最新作「カード師」を一人でも多くの人に読んでもらいたいと思いました。

そういえば、中村さんが言っていたカード師に登場した過去キャラクターって、教団Xの芳子さんなんですかね?違うかもしれないので、カード師を再読しようとしたその時、本の間から、「星」のタロットカードがひらひらと、床に落ちた。


※ 星のカード:希望や理想、純粋な願いを象徴するものであり、新しい夢やヴィジョンが生まれることを暗示する。混沌として先が見えなかった状況に、一条の光が差すというサインである。

長々、読んで頂きありがとうございます。

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