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「HIGH LIFE棚橋弘至自伝 1」棚橋 弘至(イーストプレス)


棚橋弘至10作目の著作。
プロレスラーとして本を10冊出すというのはかなり多くて、参考までに他のプロレスラーの自著の数を並べる。
(「自著」の数なので他の人が書いた評伝やノンフィクションは抜く。なお「内藤哲也自伝1~3」みたいなのは1作としてカウントした)


中邑真輔 4作
内藤哲也 2作
オカダカズチカ 2作
飯伏幸太 1作
永田裕志 2作
小橋建太 5作
天龍源一郎 9作
長州力 13作


ちなみにプロレスラーでもっとも著作が多いのは大仁田厚で、18作もある。
1990年代という一番本が売れた時代にピークを迎えてたってのが大きいけど、たぶんこれは抜かれないでしょう。

話戻って棚橋の本はいくつかの系列に分かれてて

《自伝系》
「オレはプロレスラー」(2007年、カンゼン)

《肉体改造コーチング系》
「棚橋弘至の100年に1人の逸材★BODYのつくりかた」(2012年、ベースボールマガジン)

《ビジネス・自己啓発系》
「棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか」(2014年、飛鳥新社)
「全力で生きる技術」(2015年)

《フォトブック・写真集系》
「1/100The one-hundredth」(扶桑社、2015年)

みたいになってるのだけど、著作の大半は自身の体験をもとにした《ビジネス・自己啓発系》であって、純粋な自伝は意外と少ない。
2007年にもう自伝を出したカンゼンは先見性があるけど、この頃の棚橋はいわゆる「ブーイングを浴びるチャンピオン」時代であって、先見性がありすぎた気がする。
なので純粋な自伝は久しぶり。
自伝といっても、もとは新日本プロレス有料ファンサイト向けに掲載されたロングインタビュー集です。
いわば「身内」向けの媒体なので、これまで長らくにわたって公開されてなかった学生プロレス時代を含むデビュー前の写真が盛りだくさんで載る一方、例の背中包丁事件に関してはインタビュアーの「ということもありましたけど」の一文だけでスルーするディフェンスぶりも含め、良くも悪くも棚橋が安心してしゃべってる感じが見受けられます。
なおタイトルに「1」と入ってるようにおそらく2巻組で(「2」は未発売)、今作の「1」も2009年のドームでかつて付き人をつとめた武藤敬司からIWGPを奪還するところで終わっています。

もう何作も本が出てるので、2002年の札幌猪木問答のとき自分だけはダー!をしなかったことや、2006年にレスナーが来なくなって最初にIWGPチャンピオンになったけど当初はファンのブーイングを食らって戸惑った話、といったレスラー人生のキーポイントになる話は正直聞いたような話が多い。
代わりに面白いのがプロ入り前の学生時代の話で、学プロやりながら法学部の授業にちゃんと出て、合間にはアルバイトもしていたそう。
一回「無印良品」でバイトしたとき、客がいない時間にレジの下にもぐって腕立て伏せしてたら客から「店員がいない」と問い合わせがあったことで店長にバレてクビになる話が最高でした。
「ヒンズースクワットにしておけばよかったですね」(棚橋)
そういうことじゃねえ。

そして後の人生を想起させるモテエピソードがいろいろ登場します。
筋トレしたら告白される回数が増えたとか。
まじかよちょっと俺ジム行ってくる(30年遅い)
そういえば棚橋の奥さんって「学生時代告白してフラれた人」らしいですね。
その人と結婚できることになったから、関係のあったHさんに別れを切り出して、「もうこの人はここに戻ってこない、だったら…」と考えたHさんが背中を…この続きは東京地方裁判所平成14年 (合わ) 第620号刑判例記録をご参照ください。

あといろんな選手との細かいエピソードがやっぱりいいですね。
中邑真輔とタッグを組んでた頃、3歳年下の中邑と距離を詰めようとして棚橋はいろいろやってみて、中邑もそれなりにしゃべるけどどうしても中邑の方には一枚壁があって、それに棚橋がモヤモヤしたまま二人のタッグは解散する。
けど対戦するようになるとそのモヤモヤの壁がライバルとして良い方に作用した話とか、ヤングライオン時代は真壁と柴田勝頼と棚橋が同部屋で、真壁が部屋の壁にグラビアアイドルのポスターを張ってたのをいないときに棚橋がボディビルのポスターに変えたところ「どんだけナイスバディだよ!」と叱られた話とか、柴田と二人で渋谷に服買いに行ってた話とか、そういうのがいろいろいい。
「2」ではどんな話が出てくるのか楽しみです。

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