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『山本七平全対話 8 明日を読む』 境界値問題の解決策は何か(環境研究)

 1984年に21世紀などの日本の未来をバイオ、エネルギー、食料などを専門家、当時の有名人などが予測している内容。
 面白いのは、原発の反対論に対するフランス原子力庁長官の以下の対処方法が紹介されていること。

 ①決して論争をしてはいけない。論争をすると論理の正しさいかんに関わらず、到達する最善の点はフィフティ・フィフティー。
 ②危ないと言われたら、原子力はこういうことに約立つという話を一生懸命する。
 ③誰がみても嫌なヤツという俳優を雇ってきて、原子力は悪いという話を毎日する。

 現在の日本は、①の論争は福島事故から10年たち静かになり、現在は論争しない段階に、そして、
CO2削減に約立つとは言わないが、2030年の音質ガス削減目標を打ち上げた②の段階なので、次は③になる。例えば、ワイドショーで嫌われものの有名人が原発批判をやりだしたら、あんな嫌なやつが悪いと言っているのだから良いだろう、という感情が国民に生まれる、と。

 また最後の章に、山本七平氏と糸川英夫氏と小室直樹氏がイスラエルに旅行をした(おそらく1983年)感想をまとめてあり、糸川氏は死海熱塩発電プラント(死海の底は塩水なので90℃近くの水があり、それを汲み出して熱しタービンを回し発電する方法)、小室氏はMed-Deadプロジェクト(地中海の水を引いて死海に落とし発電しながら死海の枯渇を防ぐ、途中に巨大な魚の養殖場を作る)について語っています。

 最後に小室氏が糸川氏に「境界値問題」「特異点問題」を考える必要があると投げかけ、ある物体のスピードが音速を超すととたんに空気が鋼鉄のような存在になるりマッハの壁)、そこからは普通の空気力学が通用しなくなる。それが境界値問題だと糸川氏が解説。つまり、21世紀は境界値問題を突破することが必要だ、と。

「山本:境界値問題とは、じつにいいテーマですね。その前と後とでは、論理がまったく違うというのは、まさに生き残る道への模索ではないですか。」
「小室:そうなんです。これまでの日本はあるカーブの上に乗っていた。それが、ある点から、大幅に乱れることになる。予測がつかない。しかも、その乱調状態に法則性をみつける必要がある。」
「糸川:ICチップで説明しますとね、いま64Kです。4倍ずつで生きますから、次は256K、日本はこういう進歩ですよ。線上の上で発想しますから。ところがアメリカの学者は、6万Kをいま考えています。これは手先の器用さなどではどうにもならない数字です。境界値の先のことなんですから。日本人は、どうしてもそこから先が考えれない。」

 そして山本氏は、ユダヤ人は神との契約のみが絶対で、それ以外に絶対はないので、すべては仮説となり、イマジネーションの開放につながり、柔軟な発想が生まれ境界値を乗り越えれる。糸川さんは、日本人は予測不可能な新事態に直面したとき、乗り切る手だてを何ももっていない。小室氏は21世紀の日本はハルマゲドン。イスラエルでそれをくっきり感じた、と語る。

 1984年の段階で語られた「21世紀の日本は境界値問題に直面する」という3者の予測は、まさにその通りですね。いまの日本は「失われた20年、30年」という境界値でもがき続け、それを超えた段階ではない訳です。山本氏、糸川氏、小室氏の3人は、境界値を超えるヒントをイスラエルに垣間見たのかも知れませんね。

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