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『白黒つけないベニガオザル:やられたらやり返すサルの「平和」の秘訣』人間社会へのヒント満載(環境研究)

 人間における口角を上げて笑う行為は、ニホンザルが強いサルに出合ったとき、歯をむき出して笑いのような表情を見せることに由来したものといわれている。しかし、楽しくて笑っているわけではない。相手に自分が劣位で、敵意がないことを知らせ相手から攻撃されないようにしているのだ。ニホンザルは食物や休み場、交尾相手などをめぐるトラブルを、すぐに勝ち負けを決めて解消しようとする性質をもっている。相手が自分より強ければすぐに敗者の態度を示し、それ以上争いがエスカレートしないようにしているのである。笑いは敗者の表情なのだ。

 このニホンザルの仲間にベニガオザルがいる。ベニガオザルの群れ社会には、ニホンザルのそれと違い明確な順位がない。どの個体も好き勝手に振る舞って、ケンカを売られたら買ってでる。叩かれれば叩き返す。噛まれれば噛み返す。順位がはっきりしない社会あやられたらやり返す社会なのだ。しかしそこには、食物分配もある。食べ物のかけらや食べかすや取っても怒られない、消極的かつ寛容な分配があるのだ。

 ベニガオザルの和解行動にはさまざまなバリエーションがある。ケンカ中に他方が腕を差し出し、他方がそれを噛んでケンカが終わる。あるいは、唇をくっつけたり、相手の肩に手を載せたり、相手の睾丸を握ったりすることで、和解が成立する。ニホンザルのように順位がはっきりした社会だと、弱者が強者い絶対に逆らわないことによって衝突の発生が回避されている。この社会は、抑止力によって戦争を未然に防ぐ国際関係と同じだが、ベニガオザルの平等社会では、このように和解行動を洗練化することで、平和を維持している。
 しかし、かなり激しいケンカで、収まりがつかないときに、白い赤ちゃんが自らの意志でヨチヨチと歩いて参入する。すると、ケンカをしていたオスがとっさに赤ちゃんを抱き上げる。相手も赤ちゃんを触りにくる。交互に赤ちゃんを触ることで、平穏になるのである。つまり、白い赤ちゃんの和解行動がエスカレーションしたケンカを治めるのだ。

 また、ベニガオザルには共感力がある。誰かが怪我をしていれば、様子を見に来る。怪我をした子どもの母親が見当たらなければ、オスが代わりに世話をする。初産で子育てに苦戦しているメスが危機に直面すれば、群れの誰かが援助するのである。
 ベニガオザルの社会を研究することで、人間社会に応用できるシステムが生まれるのではないかというヒント満載の研究成果だ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。