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『なぜ、クリエイティブな人はメンタルが強いのか?』小さなクリエティビティ(リトルC)のエビデンス満載(異なる要素のコンバイン)

 まず第一に、著者は医学博士であることから、エビデンスを重要視している点に大きな特徴がある。エビデンスから導き出した本書の主張をまとめると次の3つになる。

1)消極的な(ネガティブに対処するだけの)メンタルマネジメントでは十分でなく、クリエイティブでいることができれば、メンタル不調にならない。
2)クリエイティブとは、ビックアイデアだけではなく、日々の決まった仕事を工夫したり、些細なアイデアを考えて実行してみたりすることも含まれている。このような「小さなクリエイティビティ」は「リトルC」と呼ばれている。
3)「クリエイティブ・メンタルマネジメント」が、ウェルビーイングを高めるために必要である。

 アメリカの心理学者ジェームス・カフマン博士によると、クリエイティビティには次の4つのタイプがあるという。

  • ビックC(Big-C):社会を変える⾰新的な創造性

  • プロC(Pro-c):専⾨分野での創造性

  • リトルC(little-c):他者への貢献がある⽇常的な創造性

  • ミニC(mini-c):学習プロセスの⼀部である個⼈内の創造性

 多くのビジネスパーソンに必要になるのはリトルCだ。日常的な小さいクリエイティブな行動(リトルC)が、3)のウェルビーイングを高めるのに効果的なのである。

 リトルCとは、レジ打ち係の人が、商品を無駄なくきれいにカゴに入れるかを工夫し喜んでもらうことや、バスの運転手が「後ろから自転車がきてますよ」とアナウンスするなど、誰の許可を得る必要もなく、自分で判断でき自己完結するタイプの仕事の工夫だ。しかし、このようなことだとしても、小さな責任やリスクをとることで、小さな成功体験として記憶されると、脳の報酬系システムが活性化し、ドーパミンが分泌される。このような成功体験が積み重なると、別の工夫や新しいことにも適応するようになる。実は、メンタル不調になりやすい人ほど気質が繊細なので観察力などに優れており、リトルCが得意なのだ。

 リトルCを生み出すためには土台として「ポジティブ感情」と「活性」を必要とする。そのため本書では、ポジティブ感情を生み出すための環境や笑い姿勢や軽い運動などが紹介されている。また、活性とは交感神経と副交感神経の両方が高いレベルで活動している状態を生み出す方法も紹介されている。もちろん、いずれもエビデンス付きだ。

 不安や恐怖などに関連が強いセロトニンという神経物質の伝達(セロトニントランスポーター)に関わる遺伝子にはS型とL型がある。S型がある人はL型がある人に比べて不安傾向が強く、その組み合わせSS型>SL型>LL型の順で不安傾向が強い。
 日本人はSS型68.2%、SL型が30.1%、LL型が1.7%で、S型を有している割合が98.3%にもなる。アメリカ人の場合は、SS型18.8%、SL型48.9%、LL型32.3%とLL型が1/3を占める。つまり、日本人は遺伝的に起業家が生まれにくいのだ。大企業の社内企業プログラムや新規プロジェクトなどが日本人に合うとも言える。そのためには、やはり普段からのリトルCの実践を通じた成功体験が他の国より必要になる。

 一方、もっともクリエイティビティの高い国は、という世界的なアンケートによると、日本は1位、アメリカは2位となっている。つまり、日本は世界からはクリエイティブな国と思われているにも関わらず、自分たちはクリエイティブではないと思っているのだ。

 リスクを不安視する日本人が創造力に自信をもつためには、企業内部でのリトルCの実践による成功体験を増やすのがもっとも有効な方法だ。ただし、IAT(潜在連合)テストによると、人間は不確実であるクリエイティブなアイデアを無意識に否定する傾向があるため、推進者はストレスが高まることになる。親切なことに、本書にはそれを乗り越えるエビデンスのある方法も紹介されている。

 本書を読みながら確信をもったのは、リトルCを生み出し成果につながった例がいくつかが、連続的に紹介されるような「場」があると、日本企業のビジネスパーソンは「みんなで渡れば怖くない」という意識をもつに違いないということだ。 
 そしてそれは、リトルCによる企業の発展だけでなく、プロCによる日本の発展にもつながり、ビックCによる世界の発展(修復)にもつながるのだろう。

 その第1歩であるリトルCとメンタルヘルスを組み合わせた筆者は、失われた30年と言われる日本にとり、貴重な「価値の創造主」だ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。