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『アメリカの教会 「キリスト教国家」の歴史と本質』アメリカはキリスト教宗派の展示会(世界の歴史)

 正直アメリカという国が宗教国という意識があまりない。しかし、最近のアメリカの分裂の根底にはキリスト教の各宗派があるのだろうと推測はできる。それがどういうものなもかを知ることができればアメリカの本質を理解することができる。本書はそのニードを満たすために書かれたものだ。そして、最後の「結論」で社会学的な分析があるため、他国と比較しながらアメリカを構造的に理解することも可能となっている。

 ヨーロッパの大前提として、カトリックとプロテスタントの宗教戦争があった。それが最終的に決着したのは1648年の「ウェストファリア条約」だ。この条約では、住民の信仰とは君主の信仰と一致すべきと決められた。新大陸にはこの条約が適用されない。しかし、アメリカにおけるスペインやポルトガルの植民地はカトリックとなり、フランスの植民地もカトリックとなり、オランダの植民地では改革派となっていった。問題はイングランドの植民地だ。イングランドは国王がチャーター(特許状)を発行し、個人や法人に植民地の経営を任せる方法をとった。そのため、国教会を飛び出した分離派(ピューリタン)、国教会のメンバーのカルヴァン派などが別々の教会を作ることに。さらに、清教徒革命、名誉革命を経て、さらにさまざまな教会の展示場となったのがアメリカの宗教事情のルーツとなる。ここがアメリカの本質だ。

 アメリカの憲法のルーツはメイフラワー盟約だ。パウロによる「内面と外面」を分離する発想から、外面として憲法と契約し従うが、内面は別だという論理が成り立つ。つまりそれは、アメリカのキリスト教の一派であるクエーカーの良心的兵役拒否の非暴力主義も許与できる範囲ということになる。(徴兵を拒否すれば服役はするが)
 しかし、マルクス主義は無神論で、宗教を阿片だとし、階級闘争を誘発する暴力による革命思想だ。これはアメリカの憲法の理念とは合わない。マルクス主義はアメリカの反世界だ。ここからベトナム戦争が導き出された。

 受精の瞬間を人間が造られたとするプロライフは、カトリックの発想で福音派も同じ考えだ。受精卵の発生の過程でだんだん人間になるというプロチョイスは、世俗派の考えだ。この2つは教会の立場の違いから生まれる。したがって、平行線のままとなる。

 アメリカのキリスト教の人口はヨーロッパと違い増え続けている。1800年には30万人のプロテスタント、1950年にはその143倍の4300万人となった。どれかの宗派に属する人は、1980年には62%にも達するのである。しかし、面白いことに、アメリカ全体ではプロテスタントが多数派だが、各宗派で比較すると、単独の宗派で最大なのはカトリックなのだ。

 実はバイデン大統領もカトリックだ。一方、前大統領のトランプ氏は、プロテスタントの福音派が母体だ。彼らは敬虔主義で、信仰を重視し、回心の体験を重要視する。大学の神学教育、知的な権威、教会の組織、牧師の決まりきった説教などはどうでもいいと考える。村から村、町から町を説教して回る巡回説教師の説教こそ本物だと感じるという。この巡教説教師の匂いがプンプンするのがトランプなのだ。

 アメリカの構造は、世俗の政府+政府と関係のないいくつもの教会の組み合わせだ。他国の構造は、イングランドは政府+国教会、ドイツは政府+ルター派、ロシアは政府+ロシア正教、フランスは政府+哲学、ソ連は政府+共産党、中国は政府+中国共産党、日本は政府+国家神道となっている。この違いがアメリカを分かりにくくしている。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。