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『フードサービス業チェーン化入門 』渥美俊一氏と大野耐一氏を比較すると見えてくる(業界の歴史)

 なぜ、日本の流通業がグローバル市場で通用しないのか、なぜ撤退が相次ぐのか、これらの原因を探るため、ほとんどの流通業チェーンが参加しているペガサスクラブの創始者 渥美俊一氏の書いたこの本を読んでみた。また、本書の対象はフードサービスだが、チェーンストアということでは同じだろう。

 渥美俊一氏によると、日本の流通業の進化のパターンはほとんど同じだという。30年、40年という企業の歴史の中で、5年から10年、疾駆した時期がある。走りはじめた時期の5年ほど前から、各社共通に人材対策、計数管理を獲得することを死にもの狂いで取り組んでいた。しかもそれは、経営者の成功物語には出てこないことだ。渥美俊一氏は、「学ぶ」ことが重要で、「考える」のはおこがましいと主張する。確かに、天才と呼ばれる人たちも先人から学び、創造性の花を咲かせている。有能な人を店長にするのは間違いだという。つまり、業績を属人性に頼ってはいけない、と。

 また、チェーンストアには、IE(インダストリアル・エンジニアリング)の技術者が必要だとしている。名古屋のステーキチェーンである「ブロンコビリー」の創業社長にお願いして、トヨタ生産管理(TPS)の導入を推進した経験があるが、管理技術としてのIEは流通業に役に立つ。このように渥美俊一氏がアメリカからキャッチアップした考えや実践方法はチェーンストアを拡大するのには必要条件なのだろう。ならば、日本にあるグローバル企業のチェーン店はなぜ成功し、日本のチェーン店はグローバルで成功しないのか。その違いは何か。

 渥美俊一氏の書いた別の書籍『チェーンストア能力開発の原則』に、以下のように記述されている。

「日本のビッグストアづくりがアメリカの二分の一の短い期間に行われたのも、私どもが主催したアメリカの視察ツアーのためだ。1963年から2009年春までに約280チーム、延べ18,000人以上が参加している。あと10年あまりでアメリカのチェーンストア産業に追いつけるはずというのも、アメリカ・ツアーの成果である。毎年春に、100人から160人の大部隊を私が率いて渡米している。」

 TPSは、発案当時は「スーパーマーケット方式」と呼ばれていた。それは、大野耐一氏がアメリカ視察でスーパーマーケットを見て、それをヒントに工夫していったからだ。つまり、大野耐一氏も渥美俊一氏も、アメリカ視察で学んだことを日本に持ち込んだ訳だが、違いは以下にまとめれる。

【渥美俊一】アメリカで学んだことをペガサスクラブという会員組織に浸透させた。アメリカから学んだことを切り取り、まとめて各社にヨコテンさせることでペガサスクラブが維持された。つまり、教科書化されたチェーンストア理論を絶え間なくバージョンアップするのではなく、Ver1.0をたくさんの企業にヨコテンさせることが目的となった。

【大野耐一】アメリカで学んだことを元町工場に浸透させた。Ver1.0がヨコテンさせる中で、Ver2.0で電子カンバンに、Ver3.0でQRコードなどにバージョンアップされていった。つまり、TPSは哲学であって、その手段は時代とともに進化していった。

 したがって、渥美俊一氏が言うように、学ぶことが重要で考えることはおこがましいという段階で止まるのでなく、グローバルな市場に対して同じ方法でうまくいかないとしたら、「考える」ことが必要になる。そういう人材を生み出す仕組みが流通業にないとも言える。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。