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『物語としての旧約聖書: 人類史に何をもたらしたのか』ヘブロンはアブラハム契約による土地(世界の歴史)

 この本はNHKラジオ第2放送『宗教の時間』という番組のガイドブックが書籍になったものだ。『100 de 名著』もそうだが、この手のNHKのガイドブックはわかりやすい。

 旧約聖書そのものは、『聖書』(旧約聖書続編付き 引照・注付き)を調べものとして、断片的に読むことはもちろんだが、解説された本もnoteで検索すると36冊ほど読んでいるようだ。にも関わらず、本書でもいくつかの発見があったので、まとめておく。

 旧約聖書では「人間は一人でいるのはよくない」という大前提がある。ギリシア人は「人間は社会的な動物である」と表現している。ヘブライ語で人間は「アダーム」と言うが、男性でも女性でも子供でもない。神がアダームの肋骨から女性を造り、人間は女性に会うことで男性となったのである。それまで男性という概念はなかった。
 人間の基本単位は「2」で、それは親子でも兄弟でもなく、夫と妻となり、「夫は父と母を見捨てて、妻と結び合い、彼らは一つの体となる」(創世記2章24節)

 旧約聖書には、カインとアベル、イサクの息子エサウとヤコブ、サウルの息子アムノンとアブサロム、アドニヤとソロモンなど、兄弟間の確執や更迭が描かれている。人間の嫉妬がもたらす災いが伝わる物語だ。

 神はアブラハムに「土地の授与」「子孫の増加」「地上のあらゆる民族の祝福」の3つの約束をした。土地の授与については、「カナンの全地を永遠の所有として」(創世記7章8節)と表現しているが、物語で父祖たちが手に入れた土地は、アブラハムが妻を葬るために購入したヘブロン郊外のマクペラの洞穴とその周辺、ヤコブが買い入れたシケム郊外の一画だけだ。ヨシュア記以降にカナンの土地を「約束の地」として取得しているが、イスラエルの民がカナンの全地を所有し続けることはなかった。

ノアの契約:空にかかる虹が契約のしるし
アブラハム契約:割礼が契約のしるし

 割礼の習慣は、古代エジプト人の間でも行なわれていた。歴史家ヘロドトスによると「世界中でコルキス人(グルジア民族)とエジプト人とエチオピア人だけが昔から割礼を行っている。フェニキア人、パレスチナのシリア人は、その風習をエジプト人から学んだ」と書き残している。

 「出エジプト」はエジプト側の資料からは一切確認されていない。役人のルーツはエジプトの記録係だったことから記録をするかしないかは、その程度によるのだろう。つまり、記録に残すほどの規模ではなかったのである。

 ヨシュア記にあるように先住の民を撃破し手に入れた土地は、神から授けられたとしていることが、現在のパレスチナ問題にもつながっている。

 本書は入門書としては内容が豊富だが、読みやすくわかりやすい。それは著者がカトリックのクリスチャンである井上ひさしの次の言葉を念頭においたからだという。

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに」

 実に参考になる言葉だ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。