『Invention and Innovation: 歴史に学ぶ「未来」のつくり方』歴史の中で発明やイノベーションを相対的に俯瞰できる(技術の歴史)
著者はカナダのマニトバ大学の特別栄誉教授。カナダ王立協会フェローで、日本政府が主導する「Innovation for Cool」(ICEF)の運営委員会メンバーだ。
筆者は発明は4つのカテゴリーに分類している。
手製の道具:はじめての石器など
機械:大型水車、風車など
新素材:金属、合金、化合物など
製造・管理方法:大量生産、TPSなど
また、イノベーションについては次のように定義している。
歓迎されていたのに、迷惑な存在になった発明では、有鉛ガソリン、合成殺虫剤DDT、クロルフルオロカーボン類(フロンガス)を挙げている。
主流となるはずだったのに、あてがはずれた発明として、飛行船、核分裂反応を利用した原子力発電、超音速飛行を挙げている。
待ちわびているのに、いまだに実現されていない発明では、ハイパーループ・アルファ(真空に近いチューブを利用した高速輸送システム)、窒素固定作物(マメ科の植物のように土壌細菌との共生によって、作物に必要な窒素を確保)、制御核融合(制御できる状態で原子核同士を衝突させて膨大なエネルギーを生み出す)を挙げている。
それぞれの歴史とともに問題点を指摘しているとともに、社会的な背景もわかるのが面白いところだ。たとえば、アメリカが原子力発電を建設することにした理由を次のように紹介し、「成功した失敗」としている。
コンコルドの失敗では、マッハ2では最高級のアルミニウム合金でまかなえるが、マッハ2.2では機体の先端部の温度が135度℃に達する。最新のジェット機の胴体や翼の大部分を構成する炭素繊維強化プラスチックが軟化する温度(90℃)より高くなる。そのため、もっと重いチタンや鋼鉄が最高の選択肢になる。さらにコンコルドは、ボーイング747と比較すると乗客一人あたり3倍のジェット燃料を消費した。莫大な開発コストと輸送コストは当初の予想の12倍になったと解説している。
旅客機の速度が着実に上昇するのだから超音速飛行が次のステップという考えは「自然な流れ」ではない。1950年代後半以降、大半のジェット機の巡航速度はマッハ0.85で一定に保たれている。
また、核融合発電については、その実現は自信をもって予測できる未来ではなく、一部の有識者の推測に過ぎないとしている。
新たなテクノロジーの登場に目を奪われ、最先端のものばかりに惑わされるのではなく、過去と現在と未来が続いている歴史の中で相対的に俯瞰できることが本書の価値なのだろう。ベンチャーキャピタリスト必読の1冊だ。
Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。