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『逆転の知恵 天才ラヴロックの発想が生む』図書館で勉強する意味(ヤキトリの串)

 ジェームズ・ラブロックはその自伝『ガイア礼讃』のなかで、延々六ページにもわたり、1992年の秋の日本の公演旅行の思い出を楽しげに綴っている。この公演旅行は公害都市として有名だった三重県の四日市を含み、日本各地で行われた。ラブロックを日本に招き、講演を企画したのは糸川英夫氏だ。この本は糸氏により、はじめてガイア仮説を知る日本人に向けて書かれたものになる。

 糸川氏によると、ジェームズ・ラブロックのCV(履歴書)によると、1行目には「私は学校には行かなかった」と書いてあったという。Wikiには「マンチェスター大学で化学を学び、ロンドンの医学研究所に職を得た。1948年、London School of Hygiene and Tropical Medicine にて医学のPh.D.を取得」とあるので、大学には入学したのだろうが、ほとんど図書館で勉強したのだろう。(ラブロックの父もそうだった)
 図書館は幼児向けの本から専門書まで、あやゆるレベル、あらゆる分野の書物が揃えられていて、自分のレベルに合う本を探し出して学ぶことができる。そういう意味では、ラブロックが孤高の科学者と呼ばれる所以はここにあるのだろう。

 大気中の炭酸ガスを酸素に変えている主役は、アマゾンの森林でなく、その大半は海にいる珪藻だ。藻が大量に死ねば地球のバランスは大幅に崩れてしまう。ラブロックの考え方は、炭酸ガスが増えることを騒ぐより、炭酸ガスを酸素に変えている生物系とコミュニケーションするほうが、よりバランスがとれるというものだ。例えば、CCUなどで回収したCO2を使い藻などを養殖するプラントなどは的確なソリューションと言える。

 ラブロックも糸川氏も太陽の双子説を支持している。今の太陽はショボン型で、そのパートナーは爆発し飛び散り、今の太陽系の惑星になった。ラブロックは、地球上のどこかで五億年の一度の確率で生命のメカニズムを生み出したとしているが、最近の「はやぶさ2」の成果によると、惑星リュウグウのサンプルにアミノ酸が含まれることが分かったため、この説が違うことが立証された。糸川氏がロケットを開発した当時、宇宙から生物が飛んできた痕跡を調べたいという夢があったと書いているが、その夢は六十数年後に弟子たちが達成したことになる。素晴らしい!

 また、嫌気性のフローラ(バクテリア)の発酵作用によりメタンガスができることにも触れている。メタンガスは酸素を消費して少なくする働きがある。つまり、酸素の量に異変が起こるとバクテリアに何らかの警告があり、即座にその生産を調整するようになっている。これを恒常性(ホメオスタシス)というが、地球は大気を一定の状態に保つためにバクテリアや藻の働きで調整をしているのだ。海中も、海面から100メートルに深さまでの新光層に棲息している微生物群(珪藻類など)が、塩分濃度を三・四%に保っている。さらに、近海に棲息するある種の微細な藻類が、硫化ジメチルを大量に放出。この硫化ジメチルが核となり水蒸気が水滴となり、雲となる。雨も藻類によってコントルールされているという。

 最後にシステム工学屋でもある糸川氏は、ラブロックの発言から、以下のように締めくくっている。

 地球にとって大切なのは、ホリステック・アプローチである。地球物理学、生物学と別々に地球を診断するのではなく、つまらないセクト主義は捨て、あらゆる科学が協力しあって地球の生理を総合的に診断することが求められている、と。

 ラブロックがあらゆる分野を把握するため図書館で勉強したという習慣は、ホリステック・アプローチにつながることになる。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。