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『フランスの高校生が学んでいる哲学の教科書』本当の友だちってどうしたらわかりますか(世界の歴史)

 私が哲学に興味をもつ理由の一つは「一元論による対立を乗り越える哲学が知りたい」ということだ。西欧諸国も近代以降、宗教、言語、理念など自己の価値観を世界に押しつけ、彼らの文化体系で異文化を割り切ろうとしてきた。欧州最大の移民大国であるフランスには、それを良しとするだけではない何らかの哲学が生まれる素地があるのではないかという期待がある。しかも必要性が高いと考えられているならば、若者の段階に教育に取り入れられているはずだ。

 哲学を高校生に教えるための構成は、次のように分割されている。

  • 主体

  • 文化

  • 理性と現実

  • 政治

  • 道徳

 これを日本で哲学を分類した例として次の本と比較してみる。

  1. 道徳
    相対主義
    功利主義
    人格主義
    利己主義
    利他主義

  2. 組織
    社会主義①
    社会主義②
    資本主義
    自由主義
    民主主義
    ポピュリズム

  3. 認識
    合理主義と経験主義
    スピリチュアリズム、オカルティズム
    愛国主義
    テロリズム
    構造主義①
    構造主義②

  4. 幸福
    楽観主義 VS 悲観主義
    幸福主義 VS 快楽主義
    清貧主義 VS 拝金主義
    懐古主義
    実存主義

 フランスの高校生向けの構成の方がはるかにわかりやすいことがわかる。次に「主体」の内容をみてみる。

  • デカルト:自分の存在は他者に依存するものではなく、自意識によるものだ(自意識)

  • ヘーゲル:他者との関係があってはじめて、主体はその存在意識を客観的に意識することができる(相互主観性)

  • フロイト:子どもが他者(両親や社会)と出会い、次々と新たな自分を発見することで人格形成が進行する中で抑圧は生まれる(無意識と他者)

 シンプルでわかりやすい。さらに具体的に身近な質問形式でも哲学を教える。たとえばアリストテレスの哲学で次のような例が紹介されている。

「本当の友だちってどうしたらわかりますか」

  友人とはあなたをより良いものにしてくれる人。あなたを成長させてくれる人、その人と出会わなかったら眠ったままになっていただろう部分を目覚めさせてくれる人とある。
 古代ギリシャにとっては無欲であることは美徳ではなく、人生は大きな可能性を秘めたものであり、その可能性を最大限に活かす方法はどんなものでも肯定的にとらえれれていた。
 友の条件は「この人を信頼できるか」ではなく、「この人といることで自分に自信がもてるようになるか」で決まる。その意味では、師匠が弟子にとっての「友人」である場合もあるし、先生が生徒にとって「友人」であることもある。

 これもわかりやすい。アリストテレスの例がすべてではなく、キリスト教的に、困ったときにこそ寄り添ってくれる人を友人という、という答えでも構わないと思うが、身近な例で考えるきっかけを生み出してくれるように構成されている。

 フランスの高校における哲学教育は、ディベートに重きを置いていない。教えることは「考え方」と「書き方」だ。試験は小論文形式で行なわれ、その書き方にも様式があるという。確かに「書く」ということは自分の考えをまとめることにつながる。

 どうやら移民大国のフランスでは、「一元論による対立を乗り越える哲学」は、まだないようだ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。