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地域分析の基礎 第14回 人口だけでなく世帯も、世帯だけでなく家族も

 前回は高齢者について私見をいくつか述べましたが、今回は人口について、これまでとは別の視点で述べてみたいと思います。
 地方創生では、人口ビジョンが国と地方自治体で策定され、人口が最も重要な成果として捉えられています。なお、これは定住人口のことですが、居住がなくても交流人口や関係人口という形で地域にプラスをもたらすものも注目されています。しかし、これもまた人口の派生形態であり、人口であることに変わりはありません。

 しかし、人口とは個人単位の捉え方です。私たちは日々の生活を個人だけで営んでいるわけではありません。自宅では親や配偶者、子どもなどと暮らして、互いに支え合いながら生活しています。つまり、世帯として家計を営んでいるわけです。
 家計という単位も人口と同様に国勢調査などのデータがありますが、人口とは逆に増えているのが実態です。2020年の国勢調査で人口は5年前の前回から約87万人減少しましたが、逆に世帯数は約227万も増えています。つまり、世帯当たりの人員が大きく減り、核家族化や1人暮らしが進んでいるわけですが、それだけ家計の単位が増えていることでもあるのです。世帯ごとに住居を構え、水や電気などのインフラを利用し、生活に必要な消費をしています。3世代が同居する10人暮らしの世帯における生活費は、1人暮らしの生活費の10倍にはなりません。したがって、人口が減っても世帯数が増えれば需要が増加する要素もある、ということになります。
 地方創生では人口への着目が強すぎるあまり世帯の面にあまり目を向けていないように思えます。人口減少がさまざまな側面に影響を与えるわけですが、経済への影響も非常に大きいとすれば、世帯の増加がその緩和をもたらしているという点にも着目すべきではないでしょうか。

 一方、人口減少の中で世帯数が増えれば世帯当たりの人員が大きく減少するため、世帯の中での支え合いがあまり行われなくなるという面もあります。そこで、支え合いを社会的に行わねばならなくなり、保育や介護などへのニーズを強めます。これは支え合いを無償から有償に切り替えて行うことになるので、公共サービスの費用を増加させることになります。
 しかし、ここでもう一つ注目したいのは、「世帯」ではなく「家族」ということです。世帯も家族の一形態なので完全に区別できるわけではありません、離れて暮らしながら支え合っているような家族のケースもあるわけです。これは、世帯は別であっても家族としては一体になっていることになります。車や電車で30分以内くらいの場所に離れて暮らしていれば、普段の生活は世帯ごとに行われていても、例えば病気や子どもの世話など必要な時にすぐできることができれば、離れていても支え合うことができます。これも立派な家族の形態なのです。
 交通機関が発達し、私たちの行動範囲が広がった結果、自治体のエリアをまたがる移動が容易になっています。それは経済活動だけでなく、家族の支え合いでも同様です。今やLINEを使えば常に動画で様子を確認できますし、流行のメタバースが普及すればほぼ同居しているような感覚さえ得られるようになるのではないでしょうか。

 しかし、このような家族形態は国勢調査では全く捉えることができません。国勢調査は世帯ごとに統計を取っているので、世帯の状況が分かっても離れて暮らす家族の状況は捉えることができないのです。同じ自治体で離れて暮らしているのであれば、戸籍や住民票で追うことはできるかもしれません。しかし、それにも大きな手間がかかるので容易ではありません。ましてや自治体を超えた家族の構成は、全く把握できないと言ってよいでしょう。
 そこで、次のような事態が起こりえます。例えば保育のニーズを把握する場合、核家族であれば生活の面倒を見るのは親しかいませんし、3世代同居であれば祖父母も面倒を見ることができます。これは自治体でも分かるでしょう。しかし、世帯が離れれば自治体でも正確に捉えることが難しくなり、核家族に見えても実際は祖父母が自治体の中で離れて、あるいは近隣の自治体に離れて暮らしている場合は、実質的に3世代同居と同じような状況になっています。こうしたことがわからない状態で「家族の支え合いが弱くなっている」「保育ニーズが高まっている」と捉えることは早計かもしれません。
 また、学生時代は親と同居していても、大学への進学の際にいったん実家を離れ、卒業後の就職で再びUターンする場合も同様です。Uターンして実家に戻れば学生時代と同じ世帯に戻るので把握できるでしょうが、近隣で別居する場合は、実質的にはUターンであってもそれを確定することが難しくなります。

 このように、家族による支え合いがどうなっているのかは、公共サービスのコストに関わる重要な問題ですが、データでは正確に分からなくなってしまいます。人口は非常に明確なデータなので、そればかりが注目されてしまいがちですが、世帯や家族にも目を向けることの必要性を今回述べました。皆さんの地域分析に参考になれば幸いです。

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