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地方公務員が読んでおきたい書籍の紹介 小西砂千夫・今井大志「自治体の財政診断-財政指標の見方・読み方・考え方」ぎょうせい、2021年

 「少子高齢化の進展により本市の財政は年々厳しさを増しており~」「住民の価値観の多様化が進み~」など、常套句とも言える言葉は誰にもすんなり入ってくる意味で便利な一方、深くて正しい現状認識を止めてしまう思考停止の弊害もある。特に自治体の財政状況は「厳しい」という言葉以外に聞いたことはなく、多方面からの支出拡大の要請を食い止めるための方便のような役割も果たしているのが現実ではないか。

 本書は、自治体の財政状況を的確に見極めるための方法を、分かりやすく、具体的に、なおかつ理論的背景も含めて説明した本である。財政担当者に有益であることは言うまでもないが、財政に関係のある自治体職員・議員や住民にも読んでほしい。なぜならば、「財政が厳しいから~」という常套句を見抜くことができるからである。それは、本当に求められる財政のあり方を考えるきっかけになる。

 例えば、基礎的財政収支が国の財政健全化の目標として注目されている。しかし、これは自治体には必ずしも当てはまらないと筆者は述べる。なぜならば、地方自治体は国と違って赤字公債を発行できないからだ。国がめざしている財政健全化のメインテーマは赤字公債の縮小・解消であるから、地方自治体には無関係とも言えるのである。

 また、経常収支比率が近年90%台で推移し、以前と比較すれば高い傾向にある。しかし、以前の水準に戻れないまま苦しい状態が続いている、という解釈は正しくない、と筆者は指摘する。地方財政の支出構造が大きく変わったために、経常収支比率の望ましい水準も以前とは異なると理解しなければならない。

 また、本書のもう1つの特徴として、北海道の市町村における財政分析が詳しく紹介されている。既存の財政指標とは異なる分析も行われており、これまで見えてこなかった地方財政の実態が浮かび上がってきて興味深い。それぞれの自治体でも行われることで、より深みのある財政診断ができるのではないだろうか。

 ただし、本書は財政の担当者でない方がいきなり読むのは難しい。まずは地方財政の概要が分かるものを読む必要があるだろう。地方財政白書(ビジュアル版)など、手軽に地方財政の全体像を把握するのに便利な資料を読んでから本書を読まれることを勧めたい。

 財政担当の職員には、ぜひとも「自治体財政を取り巻く環境は年々厳しさを増しており~」の常套句から、少なくとも思考停止に陥らないようにするために本書を読み、所属する自治体の財政を本書で紹介された方法に沿って分析してみるのが良いと思う。


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