「パンツ」

短い詩かエッセイを、と言われたのに超短篇みたいなのを書いてしまった。けど気に入ってるので残しとこう。


「パンツ」

「ゆうちゃんの畳みよるパンツは、おはぎみたいじゃな。おはぎ、畳みよんか?」
大真面目にその日乾いた洗濯物を畳んでいたら、ハコが昔話でも読むみたいにたっぷりとそう聞いてきたから焦って「ちがう!キチンとしまうからこうなの!」と返した。両端から三分の一ずつ縦に折って、股の部分が中にくるようにくるくるするのをおはぎと言われてふつふつ沸いてくる笑いをみぞおちのあたりで痙攣に変えて堪えた。「おはぎ言うんやったら、自分のは自分で畳みぃ」とアゴを上げて言い放つと、ハコはビールの泡をひげにつけたままソファからこちらへ這ってきた。ニコニコしながら悲壮な声で叫んだ。
「ゆうちゃん!わしはゆうちゃんの畳んでくれたおはぎみたいなパンツが履きたいんじゃ!ゆうちゃんがおはぎにしてくれんかったら、わしは明日からどうしたらええんじゃ!もうパンツを履けん!パンツを履けんから、直接ズボンを履かんといけん!ほいでそのまま仕事に行かんといけん!スースーしたまま仕事をせんといけん!風邪ひいたら、ゆうちゃんのせいじゃぞ!看病しとくれ?」上目遣いをするには小さくて切れ長な目をこちらの目に近づけて少しでも大きく見せようとがんばっている。およそ可愛いところが見つからないのだけど、ハコ本人はいつだって思い通りに可愛くなれてるしカッコよくなれてる自信があるのがすごい。今もハコは自分の上目遣いがアリアナグランデに匹敵する可愛さと信じて疑ってないんだろう。岡山弁のアリアナグランデ。岡山の太陽光はどんな授業より受けるべきものかもしれない。
追い打ちで「ねっ」「お願いじゃあ」と媚びてくる。もうダメだ。目を逸らしきれない、ぎゃーっはっはっはと吹き出した。さっき消化しきれなかった笑いも涙になって出てきた。「何わろとん!ヒトがいっしょうけんめいお願いしとるのに!」もうお願い事が完全に看病に変わっている。「風邪がうつっても知らんけんね!ゆうちゃんにうつしてわしは治るけえ」ソファに戻ろうとするハコに「うつすん?」と声をかけたらがばっと振り向いて大げさに頬ずりしてきた。
「ゆうちゃんにうつすわけなかろうが!カワイイカワイイゆうチャン!よしよし、あっ噛まんで!噛まんでっ。見い、歯形じゃ。コイツは加減を知らんとる…風邪ひかんようにおはぎ、あ、間違うた、パンツ重ねて履きいよ!」
もう今日は寝られなくなるかと思うくらいぎゃあぎゃあ笑ってたけど、雑誌の上に虫を見つけて二人ともぴたりと黙った。ゆうちゃんはもう何があっても中華屋さんの上には住まないと思う。

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