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書評:凶鳥<フッケバイン>

鏖殺の凶鳥 - Wikipedia

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佐藤大輔は多くの仮想戦記小説を書いたが、その中で、コンパクトにまとまっていて、予備知識も不要で、気軽に楽しめる作品を選ぶなら、この作品となる。あらすじはWikipediaに書いてあるから、以下に見どころを点描する。

ドイツ第三帝国、最後の1ヶ月

1945年4月というと、日本では本土決戦までの時間稼ぎとして沖縄戦をやっていたのだが、ドイツでは本土決戦が片付き、首都ベルリンを連合軍が包囲しつつあった。
ドイツ人は、軍民ともに、敗戦後の身の振り方を考えねばならない時期であり、まじめに職務を遂行する気分は消滅しつつあった。
最後まで任務を遂行するもの、第三国に逃げるもの、理由を作ってサボタージュするもの、ヒトラーに追従するものなど、いろいろいて、人の人生観や本音が出ている。

ドイツ南部に墜落した謎の飛行物体

今風にいえばUFO、アダムスキー型円盤、通称<フッケバイン>がドイツ南部に飛来し、ジェット戦闘機Me262に銃撃されて墜落した。UFOの残骸が戦局を挽回する切り札になると思い込んだヒトラーは、特殊部隊を現地に派遣する。
第二次世界大戦時に「謎の飛行物体」が多数目撃されたのは事実なのだが、制空権が重要となり、空に注目が集まった時代だから、妙なものが見えたのだ。本作品では、それが幻ではなくて、エイリアンクラフトだったという設定である。

厄介事を押しつけられた指揮官、グロスマイスター大尉

降下猟兵中隊指揮官、グロスマイスター大尉。
敗戦間際で人材が枯渇していて、かつ、ヒトラーの手近にいたという程度の理由(ドイツの大半はすでに連合国の支配下にある)で、ヒトラーの腹心、スコルツェニー親衛隊少将によって選ばれた。
いまや、英米軍の制空権下にあるドイツにおいて、幸運にも生き残った部下40名とともに、鉄道も通わないドイツ南部の僻地まで出向いて、UFOの残骸を回収しろという無理難題を、スコルツェニーから命じられる。
総統地下壕にひきこもりながら、好き勝手な妄想を発信するヒトラー、第三帝国が滅亡間近であっても、自分の身を守るために、ひとまずはヒトラーの指示を聞かねばならないスコルツェニー、ナチスよりもヒトラーよりも「祖国」に忠誠を誓う軍人の鑑グロスマイスター。

ゾンビものとして

UFOに乗る異星人により、UFO墜落地点の付近住民は操作され、労働力として使われる。身体に、通常は死ぬほどの打撃が加えられても、死体が焼けただれるか、千切れるまで動き続ける。戦場では百戦錬磨の降下猟兵たちが、ゾンビに襲われて死んでいく。

発想はいいのだが、実用性に乏しいドイツ軍の試作兵器

大戦中、ドイツには多くの試作兵器があった。
超重戦車マウス(試作)、パンター第2世代パンターF(試作)、170mm戦車砲を装備する140トン戦車E-100(ペーパープランのみ)など、マニア垂涎の試作兵器が、<フッケバイン>捕獲のために派遣され、ソ連軍と死闘を繰り広げる。
他に、降下猟兵中隊を輸送するために、初期のヘリコプター、Fa 223 ドラッヘが使われていたりとか、中隊装備として、対空ロケット砲フリーゲルファウストや赤外線暗視装置ヴァンパイアがあったりとかして、細部まで楽しい。

登場人物たちの戦後

本作品は、エピローグが充実している。
ヒトラーは自殺したが、スコルツェニーはまんまと南米に逃げて、実業家として成功した。他の登場人物たちも大半が生き延びて、戦後を生きた。<フッケバイン>事件は、戦略防衛構想、SDIの推進力となった点で、戦後に微妙な影響を与えた。

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