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ビジネスモデルキャンバスで学ぶ事例~9割がうまくいかないと言った服のサブスク、”エアークローゼット”成功の秘訣~【前編】

 多くの人に「このサービスはうまくいかないだろう」。そう言われながら、ユーザー数を順調に伸ばし、東京証券取引所グロース市場に上場したファッションサブスク企業がある。それは、エアークローゼットだ。

 エアークローゼットとは、「働く女性」をターゲットに、月額料金を支払うと、毎月プロのスタイリストが300以上のブランドの中からのその人に合ったお洋服をコーディネートして、毎月3~5着届けてくれるというファッションレンタルサービス『airCloset』を運営する企業である。
 2014年にIT戦略コンサル出身の天沼聰さん(現:代表取締役社長 兼 CEO)、前川祐介さん(現:取締役副社長)、小谷翔一さん(現:取締役/カスタマーコミュニケーショングループ長)の3名で設立され、サービス開始から8年で、ユーザー数は80万人を突破し、2022年7月には東証グロース市場に上場した。

 私たち(井上研究室16期 学部4年:丸山、安田)は卒業研究の一貫で、airClosetの社員の方へのインタビューや公刊資料を基に調査を行ったので、その内容についてビジネスモデルキャンバス(以下:BMC)を用いながら、『airCloset』の発想の経緯や成功の秘訣を述べていく。

画像出所:airCloset公式HP 〈https://www.air-closet.com/〉
画像出所:airCloset公式HP 〈https://www.air-closet.com/〉


airClosetのビジネスモデル(井上研究室監修のビジネスモデル図解を基に自主作成)
BM図解について〈https://www.docswell.com/s/Inoue_BM_Labo/KVGL3K-2023-01-14-222311〉

目次
前編
1.BMCとは
2.創業者の想いとairCloset発想の経緯
3.ファッションレンタルサービスの発想
後編
4.ユーザーのことを第一に考える
5.最後に
番外編
6.地道なコスト削減の取り組み
7.ユーザーの離脱率を低下させるための取り組み

【前編】

1.BMCとは

 最初に、今回扱うフレームワークのBMCについて簡単に説明しておく。
BMCとは、ビジネスモデルの構成要素を9つ網羅的に選び、ビジネスモデル全体をシンプルな図として視覚化したツールであり、アイデアを試作するのに適したフレームワークだ。(下の画像参照)
「価値提案」を中心に、左半分は価値を創り出すための舞台裏にかかわる、企業にとってのコスト要因が入り、右半分は狙った顧客セグメントに価値を届ける表舞台にかかわる、企業にとっての収入の流れが入る。
今回は、このBMCを次第に埋めていきながら、airCloset成功の秘訣を探っていく。
緑部分:コスト要因 青部分:収入の流れ

まずは、BMCの右側について、発想の経緯などを見ながら埋めていこう。

2.創業者の想いと『airCloset』発想の経緯

 2013年12月、前述した創業メンバー3人で会社を起こそうと決意したことがエアークローゼットの始まりだ。だが、実際にどのような事業をするか決まっていなかったため、まずは3人で100以上の事業アイデアを考え、議論を重ねた。エアークローゼットは“ビジョンドリブン”の会社なので、まずは議論の中で出てきた、3つの軸について見ていこう。

3つの軸とは、
①流行って無くなるものではなく、人々のライフスタイルを持続的に豊かにできるものを作ること。
②IT戦略コンサル出身なので、ITを使ったサービスにすること。
③シェアリング市場が伸びを見せ始めていた時期だったので、シェアリングサービスを作ること。
以上の3つである。

 さらにもう一つ、社長の天沼さんが強く想っていたことが「人々の『時間価値』を最大化できるサービスを作ること」だ。天沼さんは幼い頃、父が早くに他界したことをうけ、『人生は有限である』と教わった。時間は、全人類が平等に持っているが、使い方や感じ方によってその価値は大きく変わる。億劫だとかめんどくさいという時間より、「ワクワク」している時間の方が価値が高い。だからこそ、1分でも1秒でも多く「ワクワク」できるようなサービスを創ることが大切ではないかと考えたのである。エアークローゼットは、これらの想いを強く持ち続け、サービス構築を行っている。

 軸が定まったところで、具体的に実装するサービスアイデアを詰めていく。
 1つ目の軸「ライフスタイル」には衣食住を含め、様々な領域があるが、常に人々が着用しており、「ワクワク」する時間を作れそうだと感じたのが「ファッション」だった。
 「ファッションが変わるだけで姿勢が変わったり、歩き方や話し方まで変わったりするかもしれない。それぐらい人の心を動かすことができるのがファッションの素敵なところだ」と天沼さんは語る。

 では、ファッションサービスを誰に対して届けようかと考えていく。試行錯誤する中で、たどり着いたのは「忙しい女性」だった。ここで言う忙しい女性とは、毎日仕事や育児に追われている女性のことだ。
 彼女らの日々の生活は、「朝食を作る→メイクや服選びなど朝の支度をする→子どもを幼稚園に送る→仕事に行く→子どもを迎えに行く→夕食を作る」というようにかなり多忙な毎日であり、自分のことを考える暇なんてない。そのため、ファッションについても考える余裕がないのではないかと考えたのである。

 実際にヒアリングしてみると、忙しい女性から「オシャレな格好をしたいという気持ちはあるが、日々の忙しさのために、自らのファッションに関して気遣う時間がなく、今日も同じような服装でいいやとファッションにおいて諦めてしまっていることが多い」という声を聴くことができた。

 そんな女性たちに、忙しくても「“ワクワク”するファッションと出会う感動体験」という価値を実現できたら素敵だと考え、ここで「忙しい女性向けのファッションサービス」を行おうと決意したのである。

3.ファッションレンタルサービスの発想

 この時点で、忙しい女性向けにワクワクするファッションと出会ってもらいたいという想いは決まっていたが、サービスの詳細はまだ煮詰まっていなかった。そこで、どうやってワクワクするファッションとの出会いを作ろうかと、試行錯誤し、バーチャル上の出会いなども含めて色々と考えた。

 だが、やはりファッションが一番「ワクワク」する瞬間は、実際に着用したときのフィット感や肌感、周りとのコミュニケーションから生まれるものであると天沼さんは考え、「リアルに」お洋服を届けるサービスにしたいと考えた。

 そして、どこか特定の店舗での出会いだけではなく、日本全国の忙しい女性にワクワクするファッションと出会ってほしいと考え、オンラインサービスにしようということが決まった。さらに、買い切りのサービスではなく、軸の一つ「シェアリング」の概念を取り入れることを考慮し、ここで「ファッションレンタルサービス」というアイデアが浮かびあがる。

 ここまでの話をBMCにまとめると、airClosetはインタビューを通して発見した「多忙な毎日のせいで、オシャレをしたいという願いを叶えられていない忙しい女性」に対して、「ファッションレンタルサービスを通したワクワクするファッションと出会う感動体験」を提供していると言える。レンタルサービスという形であるため、顧客との関係は「継続的な関係」になる。また『airCloset』は、サイトとアプリを通して、月額料金制でサービスを提供しているので、チャネルには「サイト・アプリ」が入り、収入部分には「月額料金」が当てはまる。

 前編はここで終了だ。後編では、「上記の価値をairClosetがいかにして実現しているのか」について、BMCの左側を埋めながら説明しているので、ぜひ後編も見ていただきたい!

 井上研究室では、他のSNSでも研究活動から日常のゼミ生の様子まで、発信しているので、下記リンクからぜひご覧ください!

・Youtube(研究事例の動画)
https://www.youtube.com/channel/UCU9OmZwev4LUa68pxygOG5A

・Docswell(ビジネスモデルの図解化)
https://www.docswell.com/search?q=%E4%BA%95%E4%B8%8A%E9%81%94%E5%BD%A6

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