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ビジネスモデルキャンバスで学ぶ事例~9割が失敗すると言った服のサブスク、“エアークローゼット”成功の秘訣~【番外編】

 この記事では、ファッションサブスクで国内トップクラスのユーザー数を誇る『airCloset』について、その発想の経緯や成功の秘訣などについて記述している。
 番外編では、「『airCloset』が競合に比べて何が優れているのか」などについてまとめているので、ぜひ読んでみてほしい。

目次
前編
1.BMCとは
2.創業者の想いとairCloset発想の経緯
3.ファッションレンタルサービスの発想
後編
4.ユーザーのことを第一に考える
5.最後に
番外編 ⇐ここから!
6.地道なコスト削減の取り組み
7.ユーザーの離脱率を低下させるための取り組み

6.地道なコスト削減の取り組み

 ファッションサブスクの難しさを象徴するものに、こんな出来事がある。
 
 「AOKI スーツのサブスクから撤退」「ZOZO服のサブスクから1年で撤退」

(出典:フリー画像)

 AOKIやZOZOが失敗して、『airCloset』が成功しているのは、なぜだろうか?それは、「徹底的なコスト削減」を行っているからである。
 そもそも服のサブスクにおいて、コスト削減がとりわけ重要な理由は、需要予測を少しでも間違えると、多くの不良在庫を抱えることになるからだ。というのも、流行っている洋服は借り手が多くつくため、大量に仕入れる必要があるが、その流行が終われば、そのアイテムは不良在庫となってしまう。そのため、他のサブスクリプションサービスに比べ、正確な量の仕入れを行わないと、無駄なコストがかかってしまう可能性が非常に高い。
 
 では、コスト削減に立ち向かうため、具体的に『airCloset』が行っている取り組みを見ていこう。「洋服の仕入れ」「パーソナルスタイリング」「クリーニング」「倉庫内の在庫配置・管理業務」など多岐にわたっている。
 
 まずは「洋服の仕入れ」だ。需要予測に対して、足りない在庫をどのくらい買うかを考える一般的なアパレル会社に対し、サブスクの『airCloset』は、不良在庫が増える、夏用の服を1年後も貸し出すなど、様々なことを考慮する必要があるため、在庫がお客様一人当たり何着あることが最適なのか、今までのアパレル会社の計算方法では出すことができず、独自の管理が必要となる。
 そのため、単にトップスというカテゴリーに留まらず、シャツやブラウス、セーターのように、かなり細かい洋服のカテゴリーに分け、それぞれで利用者の数やレンタル回数、レンタル後の購入率などのデータを蓄積してAIがどの程度在庫を保持しておけばよいか予測している。その精度を高めていくために、振り返りや仮説検証サイクルを回していき、服の在庫を最小限に抑え、仕入れに無駄なコストを割かないような取り組みがなされている
 
 また、パーソナルスタイリングにおいては、スタイリストの業務を効率化し、短時間で1人でも多くのユーザーのスタイリングができる状態を創り上げている。
 
 一つ目の取り組みは、スタイリングを補助するAIへのデータ蓄積である。『airCloset』では、洋服単体で好まれたのかについてのデータだけでなく、それらを組み合わせたコーディネートが好まれたのか、というデータまで取得している。
 AIにそれらの詳細なデータが蓄積されればされるほど、AIの質が向上し、スタイリストに提示されるコーディネートの候補が減少する。現在では、スタイリストは35万着以上の中からAIが選んだ十数着をもとにしてスタイリングを行える状態になっており、ユーザー1人あたりのスタイリングにかける時間をかなり減少させることができる。
 
 二つ目の取り組みは、スタイリストの作業画面を常に更新することだ。地味な取り組みに思えるが、ユーザーのデータをPC画面のどこに配置したら、最も速くスタイリストが業務を行うことができるのかなど、かなり細かい部分までスタイリストと相談しながら、システムを刷新している。
 
 パーソナルスタイリング同様、倉庫管理システムの一部の「クリーニング」や「倉庫内の在庫配置・管理」においても『airCloset』はコスト削減を行っている。
 
 クリーニングについては、専門チームを社内に設置し、時にはクリーニングの現場に足を運び、実際に汚れ落としや服の仕上げなどを実施しながら、どうすればもっと短時間でオペレーションを回せるかについて考え、業務効率化を行っている。
 
 倉庫内の在庫配置についても、AIを活用している。返ってきた洋服が「何日後に再度貸し出される可能性が高いか」を、『airCloset』が構築したAIにより弾き出して、倉庫内の配置の調整をおこなっている。具体的には、近場に回転率の高いアイテムを置く、シーズン外で使わないアイテムは遠くに置くなど、倉庫のどこにモノを置くと、倉庫内の移動効率が高くなり、業務を効率化できるのかについてAIで予測している。そのことで、1着でも多くの服を短時間で取り出せるような状態を創り上げている。
 
 在庫管理については、個品毎のレンタル・返却・メンテナンス等の状態を全ての服で管理する必要があるため、RFIDという衣服に縫い付けた洗濯可能なタグを開発し、管理している。このタグを活用することで、どの服が返却されていて、どの服がレンタルされているのか、メンテナンスは完了しているかが全てシステムで管理され、人力でチェックする必要がなくなるため、在庫管理の業務がかなり効率化する。
 そして、RFIDタグを『airCloset』の独自の倉庫管理システムに活用していることが、「特許」として認められており、これもまた他社との競争優位性に寄与している。
 
 クリーニングや在庫の配置・管理業務の効率化により、サービス開始当初、最長で1週間かかっていた返却〜再貸し出しまでの期間は、現在は最短1日で再貸し出しできる体制を整えている。
 
 このように、ファッションサブスクという華やかなサービスの裏側では、ファッションサブスクで解決すべきコスト削減を地道に行い、難易度の高いサービス構築を実現しているのである。

7.ユーザーの離脱率を低下させるための取り組み


(出典:フリー画像)

この章では、サブスク系ビジネスを行う企業が必ずと言っていいほど頭を悩ませる「離脱率を低下させる取り組み」について、『airCloset』はどのようなことを行っているか説明していく。
 
 『airCloset』が大切にしている指標は「3か月」である。これは『airCloset』のユーザー離脱率が高い月だ。
 副社長の前川さんはこのように語っている。
 「3ヶ月の谷があるのは、初月に何か原因がある。その原因が何かって言うと、思ったのと違ったとか期待に対するギャップが多いこと新規のお客様については、好みなど分からないことが多く、本当にフィットするのかどうかは、わからない部分が多い。なので、お客様のより細かなニーズを聞く必要がある。そのため、初月は1着だけ好みのものを選んでもらうとか、届ける前に配送予定のお洋服を見られるようにして、違ったらやり直しをするなどの取り組みをして改善を図っている。
 ただそれは短期的な解決策であって、長い目で見ると、その人の好みに合わせたものを一発で提供できていないサービス品質に問題があるという考え方を採っている。そのため、『airCloset』の中のスタイリング作業の効率をさらに上げるために、お客様からどのような情報をいただくことがいいのか、それをスタイリストがどう理解することがいいのか、お客さまに今後どのようなことをヒアリングするのかなどの改善を常に行っている。お洋服を選ぶ画面も自分たちで作っており、スタイリストがお客様の登録情報を漏れなく活用して、そのお客様に合ったスタイリングをするためにはどういったシステムや画面が最も適しているのか、そういったところを地道に改善している。」
 
 さらに、『airCloset』では、現在の会員だけではなく、退会者の方にもインタビューをするようにしている。
 「離脱に関してインタビューを通して気づきがあったのは、届いたお洋服が「いつも着ているものだった」「持っているものが多かった」という理由でやめている方がいたこと。
 つまり、スタイリストが今のユーザーの好みに「ピッタリなお洋服」を届けすぎたことが、実はサービス体験としてはネガティブに働いてしまっていたというケースである。
 今では、登録時のアンケートで「どれくらいチャレンジしたお洋服を着てみたいか」を聞くようにして、お客様の好みに即したお洋服のほか、意外性のある、ワクワクする洋服を、一定の割合で届ける工夫もしている。」
 
 このように、『airCloset』は離脱率を低下させるため、退会者へのヒアリングを積極的に行うことにより、離脱が起こる要因を追求し、それを解決するための取り組みを行っている。
 
 これらの地道な取り組みが上場を実現するほどの成功につながっているのである。
 
 
最後までお読みくださり、本当にありがとうございます!
 
 
 
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