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気違い部落周游紀行


気違い部落周游紀行 - きだみのる
1946年発表(読んだのは1981年発刊のもの)


 社会学・人類学に精通し、ファーブル昆虫記の翻訳なども行った放浪好きの著者が、日本国内にとどまる事を余儀なくされた戦中から東京はずれの廃寺で20年暮らし、その村民たちの様子を様々な考察、省察とともに綴った観察録。強烈なタイトルではあるが、村民たちとの交流は極めて素朴に描かれており、決して異常な風習などを追ったルポルタージュではない。

 作中に登場する実在の村民は全員「○○英雄」と称されその思考や習性を紹介される。彼らは小狡く身勝手で非情な事を平気で言い、その事を恥じる様子もなく滑稽ですらある。この本が面白くそして性格がねじ曲がっているのは、この滑稽さは著者が村落に対して異人としての視点を自覚的に持って接したからこそ浮かび上がった客観であり、翻って自分をみれば自分も、そして自分の周りの人々や社会も実は英雄達とさして変わらないと気付かされるという点にある。

 強烈なタイトルは作品へ興味を持ってもらうため、また、上記のひねくれた作品構造から意図してつけられたもののようだ。著者は村民たちから先生と呼ばれ慕われている様子だったので、その村を気違い部落と言い切って作品とするなんてどれだけの信頼関係が築かれているのだろうかと変に感動していたのだが、どうやら作品発表後に鎌を持った村民たちから廃寺を追い出されていたらしく笑った。まあ、それはそうだろう。

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