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詩の朗読はノスタルジーの彼方へ

旧式のエレベーターに象徴されるホテルを舞台にした物語。サイレント映画の画面の動きと、固定されたカメラの視点をデジタルで再生する、ノスタルジックな仕上がりの作品。映画のテンポも音楽も旧式に作られているようで、実はコミックのコマ割りと同じなのだ。


主人公の一流コンシェルジェが、お金持ちの顧客の遺言により、名画を譲られることから物語が動くが、時代背景はナチの問題。その深刻さを、ノスタルジックな描写で和らげている。

主要な役者が、「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」などナチの暴力をテーマにしている映画で名をなしていたり、ユダヤ系だったり、セルフ・パロディになっているし、チャップリンの「独裁者」や列車で強制収容所に連れ去られるシーンに象徴的な、アメリカに亡命したユダヤ人のトラウマ(フリッツ・ラング)を踏まえていたり、映画的記憶をミニチュアのようにはめ込んだ90分。


旅で観るにはいい映画だが、語りが入れ子構造の伝承型だったり、主人公で老女にも女性として接する最後のジェントルマン(コンシェルジェ)が、詩を朗読したりと、文学はノスタルジーの向こうにあるものなのだ、と実感させらる点では、文学研究を仕事としている人間としては、苦い笑いを禁じ得ない。

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