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感情銀行

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感情銀行 (下)

通勤ラッシュ時の電車は資本主義社会のあらゆるストレスを孕んで爆走する人類が産み落とした犠牲獣だ。

その胎内に居ながら保吉は考えていた。串灘から受け取った書面の選択肢の内、どれを選べば良いのか…

①は論外だ。犯罪だし、最悪死ぬかもしれない。②のみのもんたにラーメンをぶっかけると言うのは、犯罪である以前に達成出来そうにない。これを達成するには並外れた頭脳、莫大な資金、類稀なる人心掌握術、そして

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感情銀行 (中)

「私、串灘と申します。実はですね、感情の流通量が少なくなってまして、この度営業に来ました。」

苛々してはいけない。もう、これ以上何かに腐心する訳にはいかない。

「うん、もう少し分かり易かったら私も助かりますがね。私、急いでいるのでこれで…」
「待ってください、説明しますとも。」
「…何も買いませんから、私。」
「買う、のでは無いのです。貸りる、のです。あ!待ってください帰らないで!説明

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感情銀行 (上)

野田保吉は今日も疲れていた。

サラリーマン生活は決して楽なものではない。満員電車に揺られ、営業のノルマ達成の為に奔走し、顧客には怒鳴られ、上司には嫌味を言われ、優秀な同僚には飲みにいった先で遠回しな自慢話をされる。

とは言え、そんな事にはもう慣れていた。

勤続年数は15年を数える。保吉は今の仕事が自分に向いている仕事だとは決して思ってはいなかった。しかし、他に特にこれといった才覚も情熱

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